遺していく思い出「嬉しい…。ありがとう、実弥」
義勇は手を胸に宛てた。そのまま左手の薬指にはめたものを右手で優しく覆い、春の花より優美に、可憐に、実弥の眼前で微笑んだ。喜びの色が満開の桜のように満ち、実弥を見つめ返した。
愛しい人の笑顔。実弥は口元を綻ばせる。その顔を見て、嬉しさ全開のぽやぽやした恋人も微笑んだ。実弥は義勇の肩と腰に手を回し、己の腕の中に引き寄せた。
抵抗することなく収まる青い着物。義勇の瞳と揃いの空色の着物は、すっかり見慣れたもので、書生風な装いが今の彼にはよく似合う。
あの特徴的な羽織ではないのにな。そちらの方が実弥も隊の者も長い付き合いなので、冨岡義勇といったら半羽織だったのに。当の羽織は、決戦後に禰豆子の手で仕立て直され、押し入れの奥の箱に大切に仕舞われている。
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