Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    haribote_san

    @haribote_san

    @haribote_san

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 💛
    POIPOI 44

    haribote_san

    ☆quiet follow

    白石の自覚の話(くらふじ)

    (これは)
    ぐ、と生唾をのみ下しながら拳を握る。
    (やってしもた、かもしれん)
    後悔先に立たず、とはよく言ったものだが、それでも神様とかいうやつはもう少し容赦してくれてもいいのにと思わざるを得ない。別に特定の神を信じているわけではないから、神様の側もいい迷惑かもしれないが。
    開けたままの窓から入る夜風はゆらゆらとカーテンを揺らしている。エアコンをつけるほどではないが最近にしては少し暑い日だったから、肌をそっと撫でて冷やしてくれる風が丁度気持ち良い。いつもの夜であったなら、きっと何も考えず眠りにつけていたことだろう。
    夜風に紛れるように息を吐きながら普段の自分のベッドに目をやると、布団はすでにこんもりと膨らんでいる。顔の横に手を添えながら、先客はすでに夢の世界にいるようだった。規則的な静かな寝息に合わせて布団から覗く胸元が上下している。さらりと柔らかな前髪が僅かに目元を隠していた。
    家の都合で少し大阪に寄る予定が出来たと本人から聞いて、時間が合いそうなら会おうやと声をかけたのは白石だったし、一日かかるかもだから厳しいかもと残念そうにした不二を、もし良ければうちに泊まっていかんかと提案したのも白石の方だった。同じ部屋に布団を敷いたのも白石だし、ベッドの方が寝やすいだろうと自分のベッドを無事に譲ったのも白石だ。全ては自らの行いに違いなかった。友人に対しての親切心。それだけとしか考えていなかった無自覚な自分を腹立たしく思う。それと同時に事故のようなものだとも。
    そっと足を忍ばせて歩くと、普段は踏み慣れない布団の柔らかさに少しばかりびくつく。それでも何とかベッドの側にしゃがみ込んで不二の寝顔をじっと見つめてしまう。
    (……綺麗、やな)
    彼がどこか中性的な雰囲気をまとった容姿の整った男だということは理解していた。だが容姿で友人を選ぶわけではないし、ついでに言えば甘い顔立ちから想像される穏やかな性格とは似ても似つかない食えない男だと、はじめて対峙した時に十二分に理解させられた。だからこそ、東京と大阪で離れて暮らしながらも友人として、こうして家に誘うような距離感になったというのに。
    「ん……」
    さあ、と吹いた夜風の音の後に不規則的な声が聞こえたからびくりとしたが、起きるほどではなかったらしい。少しだけもぞもぞと動いてから彼はそっと寝返りを打った。柔らかそうな髪が頭の丸みと重力に沿って流れている。
    手を伸ばして、逡巡する。触れたら戻れなくなる。確信にも似た予感があった。そもそも、ただの友人ならこの状況で手を伸ばす選択肢も生まれないはずなのだが。
    雲の少ない今夜は月明かりが穏やかに部屋に影を落とさせている。涼やかな夜風は、ゆらゆらとカーテンの影の形を絶えず変化させ、呼吸の音を紛れさせた。
    指先に触れた不二の髪は、優しく撫でるように白石の指の間を流れる。捉えどころなく、手の中で形を変えていく。
    (やってしもたなあ……)
    後悔は先に立たず。無自覚なままで、気付かずに入られればいつかは知らぬ間に風化していただろうその想いは、今この時明確に形を持つものとして白石に絡みついた。見えていなければないものと一緒だったのに、ひとたび輪郭を捉えてしまえば、なかったことにするには困難な存在感で白石の中に居座っている。今の白石には不必要でなんなら無駄な、存在すらないはずのものだと思っていたのに。
    指先に触れた髪先ですら離し難いと思う感情の正体なんて白石には一つしかない。
    (明日、不二クン起きたらどないしよ)
    小さく息を吐きながら、白石は不二の髪を弄び続ける。夜風は少し収まったのかもうカーテンは揺れていない。頬が僅かに熱いのはそのせいだという言い訳は、もう自分にすら通用しなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works