一人暮らしの室内に置いているデジタル時計が日付を跨ぐ瞬間を静かに二人で見つめる。二十三時五十九分から〇時〇分へ。音もなく日を進めた時計から目を離してから、揺らすとからりと氷が音を立てるグラスを二人でかちりと重ねあった。
「誕生日おめでとう、王子」
「ありがとう、クラウチ」
ふふ、と王子は笑ってから一度ゆらりとグラスを回す。それからグラスを持ち直して、そっと口付けた。含んだ液体は僅かな量だったが王子の瞼はぴくりと動く。
「大丈夫か?」
蔵内はグラスを手で温めたまま心配そうに訪ねる。だが心配はひとまず杞憂だったらしい。グラスから口を離した王子は満足げに笑ってみせた。
「そんなにジュースと変わらないね。美味しいよ」
二人の間に置いてあった空になったばかりの酎ハイの缶の表示を改めて見ながら、「まあでもこれ、三パーセントだしね」と王子は呟いてから、再びグラスに口をつける。今度はいつものようにごくりと喉を上下させながら。その様子に蔵内はほっと息を吐いてから自分のグラスに口をつけた。
「弱い人だとこれ一口も飲めないこともあるし、良かったよ」
「クラウチは強いんだっけ?」
「強いの基準は人によるだろうが、正月に親から勧められた日本酒は美味かったな」
「なら人並みには飲めそうだね。ぼくはどうかなあ」
こくり、ともう一口飲みながら王子は呟く。
「それなりに飲めるときみと出来ることが増えて嬉しいんだけどな」
「……酔ってないよな」
「まさか。あ、クラウチ顔真っ赤だ」
「……酔ったのかもしれないな」
「それは流石に嘘だよ」
照れ顔はレアだね、などと言いながら王子はにやにやと蔵内を眺めていて、恥ずかしさを誤魔化すように蔵内は顔を逸らしてぐいと勢いよくグラスの中の酒を流し込むように飲んだ。
「いくら弱いとはいえ一気飲みは良くないって聞くよ?」
「うるさい」
「はは、耳まで真っ赤だ。もうこの一缶でやめとく?」
揶揄いながら王子は二人で分け合い空になった三パーセントの酎ハイの缶をゆらゆらと揺らす。王子も自分に注いだ分はあと半分ほどしか残っていないが、まだ酔いの兆候はみられない。じいと王子が蔵内を見つめていると、蔵内はぐいとグラスの中身を再び勢いよく飲み干した。
「……少し酔っているかもしれないから、もう一缶だけ」
「……そういうことにしておこうか」
くすりと笑みを浮かべながら、王子は蔵内が買っておいてくれていた、もう一つの三パーセントの酎ハイの缶を冷蔵庫から取り出して、今度は自分でプルタプを開けた。
「僕もまだ少し飲むから残しておいてね」
空になった蔵内のグラスに酌をしてから、王子も自分のグラスに残っていた酒をぐいと喉に流し込んだ。