じりじりと照りつける日差しのせいで額にじわりと汗が滲んできた。時折顔を覗かせていた冬の残り香はどこへやら。梅雨を待たずして夏を感じさせる外気温にため息をつかずにはいられない。春の今でこれなら、今年の夏は一体どうなってしまうのか。時節柄あまり効いてない空調を、今日だけは強めてくれないものか。もちろん、部屋を涼しくする方で。
「クラウチもいたんだ」
声が聞こえて顔を上げると、王子はひらりと蔵内に手を振ってきた。比較的薄手のシャツとはいえ、長袖にも関わらず王子はやたら涼しげに見える。
「課題を早めに片付けたくてな。王子は?」
「ぼくも似たような感じかな。早めに本借りとかないと、あとから大変かなって」
そう言いながら、傍に抱え込んだ本を空いた方の手で指している。
「図書館でやろうかなとも思ったけど、人も多いし、それに何より」
暑いからね。そう口にして、王子はふうと大きめに息を吐いた。よく見ると、王子の額にもうすら汗が滲んでいる。それでも、王子のまとう空気は涼やかなのだから不思議なものだ。
「……クラウチは?まだやるのかい?」
王子はじいと見つめてくる。窓から差し込む光は陰ることをまだ知らない。この席に座り続ける限り、蔵内は季節外れの日差しに照らされ続けるだろう。そして比較的日の当たらない席はもう埋まってしまっていた。加えて、王子の真っ直ぐな視線。
「……本は借りていくことにする」
「いい判断だと思うよ」
王子の声は図書館という場所に適してひそめてあったけれど、何やら愉しそうな気配までは隠せていなかった。