【遊修】桜舞う空閑と支部で使う物のお使いを頼まれた帰り、一面ピンクに色付いた桜並木の道を通った。
「おぉ、これがウワサのサクラナミキというやつか!」
空閑が嬉しそうにはしゃぐ。こちらにきて初めての春だ。目新しいものだらけなのだろう。
色鮮やかなピンクが珍しいのか、空閑は垂れ下がっている桜の花をじっと観察する。
「空閑、桜は枝を折ったりしたら絶対にダメだからな!」
「知ってるぞ! 最悪枯れちゃうんだろ? チカから聞いた……」
空閑か答えたその瞬間地面に落ちた桜の花びらがぶわりと宙を舞う。花びらが空閑を包み込んでいった。
「空閑っ!」
なんともいえぬ不安に駆られて手を伸ばした。このままでは空閑が桜にさらわれるのではないかと思ったのだ。
まだ、ぼくの前から消えないで……
細められた赤い瞳がぼくを捉える。空閑の口が小さく動いた。
なにを言ったんだ?空閑、頼む……教えてくれ!
白いふわふわした髪が桜の花びらだらけになった瞬間、強風が収まった。
「すごい風だったな…… オサム? 変な顔してるぞ」
「えっ?」
「泣きそうだ……大丈夫か? 目に砂入ったか?」
背伸びをした空閑がぼくの頬に触れる。一雫の涙が目尻から流れた。
「そうかも……ちょっと痛いや」
笑ってごましたが、嘘だとばれているだろう。
「……そうか。ふむ、キスしていいか?」
「急だな!? どうしたんだよ」
「ダメか?」
「ダメじゃないけど……」
引き寄せられるように屈んで空閑と唇を重ねると、なんだかほっとした。温かい。
「おれはオサムと一緒だ。ずっとな」
満面の笑みでそう宣言した空閑につられて笑う。あぁ、やはりバレている。いなくなるんじゃないかと不安になった事。
「ありがとう……」
「なら、早く帰ろうぜ」
「っとその前に桜、落としてから帰るぞ。空閑の髪、ふわふわだからすごく絡んでるんだ」
そう言って空閑の髪から1枚、花びらを摘んだ。