【迅ヒュ】安心できる場所を　今日はデレの日らしい。
　2人がけソファに一緒に座り、コーヒーを片手にタブレット端末にて報告書を書く迅。その横でランク戦のログをヒュースは見ていた。
　突然肩に重みがかかる。ヒュースがこてんと迅に頭を預けてきたのだ。思わず頬が緩む。見えていた未来のひとつとはいえ、起これば嬉しいものだ。器用に角を肩と首の間に滑り込ませているため、顔を覗くことはできない。少し残念だが規則正しい呼吸音がここは安心な場所だと言っているような気がしてほっとする。
　仲間に置き去りにされた傷はそうそう消えやしないだろう。捕虜にしたとはいえ、これ以上ヒュースを傷つけたくはなかった。とはいえ甘やかしすぎた気もするが……まぁ良いだろう。少し生意気なくらいがヒュースは可愛い。それに素を出してくれているような気もする。素を出しているということはリラックスしてくれているというわけで……
　存外、玉狛のメンバーから可愛がられているヒュースに迅も頭を預ける。
　くっつき合えばヒュースの匂いがした。同じシャンプーを使っているはずなのに、ヒュースの匂いは甘い。当人が寝ているのをいい事に甘い香りを堪能する。
　好きな人の匂いは落ち着くと言うがそれは正しいと思う。
「ヒュース、好きだよ」
　大切なあなたにどうか安心できる場所を。

　いつの間にか眠っていたらしい。
　途中まで見ていたはずの戦闘ログは終わってしまい、タブレット端末の画面も暗くなっていた。
　迅に寄りかかったまま、ヒュースは動けない事を悟る。角が器用に迅の首元と肩の間に嵌っているため、自分に頭を寄せ眠る彼に挟まれている状態だ。
　ふんと鼻を鳴らす。
　まぁ、頭を貸してやらない事も無い。自分も彼の肩を借りて寝ていたのだ。お互い様である。すやすやと聞こえる寝息にヒュースは少しだけ視線を上に向けた。迅の顔が見えるわけではないが気になったのだ。実力派エリートだとか自分で言っては裏でコソコソとしている掴みどころのないだらけたアイツの姿。気にならないわけがない。
　一応恋人という関係になっているのに、いつも独りきりの迅。暗躍だなんだと言って憎いサイドエフェクトを使い、独りで裏の仕事をこなす。
　視線を下に向ければ、視界の端にはタブレット端末が目に入った。そういえば報告書を書くと根落ちてしまう前に言っていた。これは果たして防衛任務の報告書か、それとも迅にしかできない裏の仕事の報告書か……
　ヒュースが持っていた端末と同じく画面が暗くなったそれに眉を顰める。頼ればいいのに。捕虜の自分を頼れずとも、玉狛には頼れる人材が揃っている。声をあげれば皆迅を手伝うだろう。それを寂しいと感じてしまうのは迅に対する感情のせいだ。客観的に考えて迅の仕事は機密性が高い、捕虜を頼れるわけがない。
「恋人なのに、オレはあんたの枕にしかなれないのか」
　ぼそりと無意味に呟いた言葉にハッとする。誰かに聞かれでもしたら困る。特に迅には。
　狭まった視界で辺りを見渡すがリビングには人はいない。迅の呼吸音は相変わらず規則正しくて起きているようには思えなかった。ほっと胸を撫で下ろす。
　寂しいだとか嫉妬だとか、そう捉えられる言葉を発してしまったら迅は調子づく。
　いや、逆に調子づかせた方がいいのか？　素直に甘えて、今みたいにくっついていた方が迅も喜ぶのだろうか？
　思考を一巡してヒュースは無理だと悟った。考えただけで気持ち悪い上に、心配されるのがオチだ。今のままでいい。迅がこうして甘えてきた時に拒否せず受け入れればいい。傷ついているのなら、ハグしてやらないこともないし、泣きたいなら肩くらい貸してやる。これが精一杯の協力だ。
　いつも頑張るお前にとって安心できる場所になれればと思う。