【SW】ブルックリン、休日の朝、陽は高く。 休日初日の朝は素晴らしい。
シャーロックは心の底からそう思っていた。すでに陽は天高く登り、朝というには遅すぎる時間であることは十分理解しているが、それでも素晴らしい朝だ。
レースカーテン越しに差し込む光でキラキラと光る金髪をひとすくいして唇を近づける。髪先にキスを贈ってウィリアムのあどけない寝顔を堪能する。シャーロックはこの時間がとても好きだった。
昨晩、無理をさせた恋人はきっともう少しだけ眠ったままだろう。
良き彼氏としては今すぐにベッドから出て、紅茶やサンドウィッチなどの軽食を用意するべきだ。が、ウィリアムの寝顔をじっと見て、無防備な彼の頭を撫でて、時々発せられる可愛らしい母音を聞く時間が惜しいと思ってしまう。
起きあがるか否か、十分ほど葛藤したあたりでウィリアムがモゾモゾと動き出した。シャーロックはウィリアムの覚醒が近い事を察してベッドから出る。
名残惜しいが、目を覚ましたウィリアムに紅茶を差し出したい。温かい紅茶を準備するために寝室を後にした。
トレーにティーセットとマグカップを乗せて、ウィリアムが待つ寝室の扉をシャーロックはノックした。
「どうぞ」
少し掠れたはいるが澄んだ声が中から聞こえた。ウィリアムは起きているようだ。シャーロックは零さないように細心の注意を払いながら扉を開ける。
「おはよう」
太陽の光を浴びながら笑うウィリアムが眩して目を細める。
白いシャツの前は開いたまま、昨夜つけた鬱血の花弁を身体中に散らしてウィリアムは光の中微笑むのだ。
あぁ、目に毒とはまさにこの事である。
「おはよ、リアム」
釣られたシャーロックも微笑んでウィリアムにティーカップを渡した。
「腰は? リビングまで来られるか?」
トレーをベッドサイドに置いてシャーロックもコーヒーの入ったマグカップに口をつける。
「うん、大丈夫だよ」
そう言ってウィリアムはシャーロックから手渡されたティーカップに口を付けた。優雅な姿でモーニングティーを楽しむウィリアムをシャーロックは上から下までじっくりと観察する。ウィリアムの『大丈夫』は信用ならないからだ。
「やっぱし、朝食ここまで持ってくるか?」
「心配しすぎだよ。僕なら平気」
ベッドの端に腰をかけてまた一口コーヒーを飲む。
「本当かよ……」
「うん。ところで、朝食はなにかな?」
「昨日買ったパンと、卵焼き、ベーコンもある」
「美味しそうだ。冷める前に行きたい」
ウィリアムがベッドから出ようと動き始めた。シャーロックは速やかに立ち上がると、マグカップをトレーに戻す。
「カップ、それと」
ウィリアムからカップを受け取ると、昨夜早々に脱ぎ捨てた下着とスラックスを渡す。
「僕はシャーリーに甘やかされてばかりだ」
シャーロックの好意に甘えてウィリアムはそれらを受け取ると手早く身にまとう。
「お手をどうぞ……」
ウィリアムが着替え終わるのを見計らって、エスコートするように手を差し出した。目をぱちぱちと瞬かせるウィリアムに対してシャーロックはにやりと笑う。
そんなシャーロックの表情を見て、揶揄われているのだとウィリアムも察したらしい。
ただし、ウィリアムも揶揄われているばかりではない。シャーロックの手を借りて、優雅に立ちあがると流れるように彼の頬にキスをした。イタズラっぽく微笑んで一言返す。
「ありがとう」
「くっそ……ずるいぞ、そういうの」
「でも好きでしょう?」
頬を染めるシャーロックを相手に、余裕たっぷりといった表情でウィリアムは揶揄う。
「……今夜も覚えておけ」
「すけべ」
「煽んな! 飯食うんだろ?」
「うん、ふふ……」
楽しそうに笑うウィリアムの手を引きながら、今夜その余裕をどう崩してやろうかとシャーロックは考え始めた。