TEL Me 夜十時、スマホスタンドをローテーブルの上にセットして、シャーロックはそこにスマートホンを立て掛ける。通話アプリを起動して、かける相手のアイコンをタッチした。二、三コールで繋がった相手にシャーロックは話しかけた。
「よぉ、リアム」
「こんばんは、シャーロック」
スピーカーから聞こえてきたウィリアムの声に顔を綻ばせる。
「どうだ? そっちは……」
「うん、順調だよ。予定通り、来週には帰れそう」
その言葉にホッとする。ウィリアムが出張で一緒に暮らしている家から出て約三週間。最低一ヵ月、最長三ヶ月と言われていた出張が最短で終わりそうなのはウィリアムが頑張ったからに他ならない。
「そっか。早く終わりそうでホッとしてる」
「シャーロックに会えない期間が長引くのは嫌だからね」
「お疲れさん」
「ありがとう。早く帰って君の作るオムレツが食べたいよ」
「わかった。帰ってきたら作ってやる」
小さな約束を取り付けて、シャーロックは広角を上げる。スピーカー越しだからか、なんだか素直になれる気がした……
「……リアム、好き」
心から出たいつもなら面と向かって言えない恥ずかしい言葉もするりと出てくるほどに。
「……シャーロックは電話越しだと素直だね」
「うっせぇ……なんか、離れてっと言わなきゃなって思うんだ!」
すっかり臍を曲げたシャーロックはスマートフォンから顔を背ける。するとスピーカーからウィリアムのクスクス笑った声が聞こえてきた。
「なに笑ってんだよ……」
「ごめんね。シャーロックが可愛くって……ねぇ、ちょっとスマホ、耳に当てて貰ってもいいかな?」
言われるがまま、スピーカーを切ってスマートフォンを耳に当てる。すると、ウィリアムもスピーカーを切ったのか、ごそごそという音が聞こえた。
「もしもし、リアム?」
「シャーロック、聞こえてる?」
声の距離がぐっと縮まった。耳元で囁かれて少々ドキドキしてくる。
「聞こえてるぜ。んで、スピーカー切ってどーすんだよ」
「こうするんだよ」
直後、小さなリップ音が耳元に届く。ちゅっという音が耳から背に走ってぞくりとする。情事の際、首筋に所有印を付けられている時とその音は似ていた。
「あっ……」
「好きだよ……シャーロック」
甘い声で囁くウィリアムに否応無しに身体が熱くなって反応する。耳元で睦言を囁かれればそうなっても仕方がない。今すぐに脱がせあってキスして交わりたい衝動に駆られる。しかし相手は遥か遠い地にいるのだ。そんな事は不可能である。
「リアム……早く帰ってこい!!」
一言それだけ言ってシャーロックは通話を切った。スマートフォンをローテーブルの上に置いて、その隣に突っ伏す。
「ーー! どーしてくれんだよ! アイツっ」
一人熱を持て余し、シャーロックは明日の電話の時にどう仕返ししてやろうかと考えるのであった。