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    MASAKI_N

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    インサイダーズ×エクストリーム・ジョブ
    アン・サングとイ・ムべが同じアースにいたら、イ・ムべは元サング派なんじゃないのという妄想でできた小話。
    隙あらばイ・ビョンホンとシン・ハギュンをきゃっきゃさせたいだけです。
    イ・ムべ、整形前も不細工というわけでは無かったんじゃ?というのを掘り下げてみた。

    #エクストリーム・ジョブ
    ##エクストリーム・ジョブ
    #イ・ムベ
    #アン・サング
    ##インサイダーズ

    Visitation「よぉ、元気そうだな」
     派手な服と髪型。嘘くさい白い歯と笑顔。アン・サングは何年経っても変わらないその顔で、そう言って座った。
    「あんたほどじゃねぇよ」
    「嘘つけ。顔面もきれいに元通りになったし、俺と違って五体満足だ。さぞ人気者だろうな」
    「うるせぇな。金かけて地道に復元したのによ。あんなマヌケどもにパクられるとは――あんたは片腕落とされて、ちったぁ用心できるようになったかよ。脱獄なんて派手な真似して――シャバに戻ってもまだ部下が残ってたんなら奇跡だな」
     落ちぶれた割に、羽振りは良さそうだ。
    「てめぇはすぐ見切り付けやがって、ヤクなんかで稼ごうとするからそうなる」
    「金と暴力が好きな若ぇの集めたのは、サング派を抜けた後だ。古参は残ったろ。良かったな。切り取られたのが顔面じゃなくてさ」
     アン・サングはミレ自動車の悪事を告発した報復で投獄され、イ・ムベはちょうど薬物取引が軌道に乗ったのを機に、サング派を抜けた。
    「喧嘩は弱ぇくせに、逃げ足だけは速ぇよな」
     サングはカタギには手を出さない。身内の面倒見も良い。サングに忠実なのは、そういう情に厚いところに惚れ込んだ古参の連中だ。
     ショービジネスに懲りてからは、クラブ経営、金融業、建設業がメインだ。でかい金を動かす度胸が金運を呼ぶ。エリートぶった腐った連中の弱みを握るかおだてまくって、金や土地を巻き上げるのが好きだった。場所柄、取引に利用されることはあるが、組では薬物取引や売春はしていなかったのに、ガンヒに毒されて性接待なんぞに手を出すから痛い目を見るのだ。
     クリーンなヤクザなど存在しないが、暴力よりは金が好き。弱者から搾ることはそうそうない。ある意味、ヘルシーな方のヤクザではあった。
    「兄貴ぃ、喧嘩売ってんの?生憎ここじゃ何のお相手もできねぇんだけど。テディも俺も、部下と一緒に毎日楽しくやってるよ。初犯の若ぇのはもう出てった」
    「お前、テッドにまだ絡んでんだな。もっと素直に口説けばいいのによ」
    「うるせぇな」
    「ちょっとソニを借りてぇんだ。一応、お前にひとこと断り入れた方がいいと思って」
    「あぁ?」
    「ソニを雇った頃はまだ俺の部下だったろ。俺にも恩があるって慕ってくれてんだよ。おめぇと違って義理堅い」
    「てめぇが勝手に未成年の俺を拉致しただけだろ」
    「クソ親のヤク買うために身体売らされて死にかけのてめぇを、拾ってやったんだろうが」
     よくある話だ。イ・ムベは虐待されて育ち、母親とそのヒモの薬物を買うため、男娼として稼ぐことを強いられて育った。十四の時に母親は薬物の過剰摂取で死に、パニクったヒモ野郎に顔の骨を折られ、家を出た。稼ぎは半減し、路上生活の末に栄養失調と性病で倒れたところを、若くしてヘチョリ派の組長になったサングに拾われた。
    「あんたに感謝はしてるよ」
    「じゃあヤクの取引もするなよ」
    「法改正を先取りしすぎただけだ」
    「逆行してんだよ。馬鹿」
    「あんたより学はあるだろ。あんたのおかげでさ」
     ムベは喧嘩は弱かったが、頭は悪くなかった。家事手伝いのようなかたちでサングの家で暮らした。面差しが少し似ていたから、組員には親族だと思われていたらしい。よくわからないまま大学卒業まで面倒を見てもらって、経営学を学んだ。
     かたぎになるのを望まれているのだとは思ったし、特に組員になれとも言われなかった。それでも、真っ当な世界でおきれいに生きられる気がしなくて、裏社会にいることを選んだ。
    「ソニは元気だぞ。お前を心配してる」
     育ちのせいで、若い男が好きなクソ爺どもと、女の扱いは上手かった。その資質はサングが芸能事務所を立ち上げる時に重宝され、組織内でもそこそこの地位を得た。
     スカウト中に、金に困っていた格闘家の女ソニを引き当て、用心棒として雇った。シンプルに暴れて勝ちたいだけの彼女はムベに懐いて、非常に役に立った。
     ソニは他の奴らに比べて証拠の揃う大した容疑がなく、不起訴ですぐシャバに戻った。
    「は、せいぜい暴れさせてやってよ。暴れねぇと死んじまう」
    「ソニの弁護士がたまたま俺のツレだったから、早く出られたんだ。なんなら、お前らにもつけてやろうか。金はまだあるんだろ?稼がせてやってくれ」
     サングは自身も身を切りつつ、変わり者の検事と組んで、自分を陥れたジジイどもの汚職を暴いた。件の検事は弁護士になったのか。正義感の強い男は、腐り切った中枢で出世はできまい。あげく、こんなゴロツキと組んでいるなんて大馬鹿者だ。
    「生憎、麻薬取引じゃ大した量刑じゃねぇから――大人しくしときゃすぐ出られる」
    「麻薬取引だけなら、まあそうだな」
    「あぁ?」
    「余罪にしちゃ重いおイタが山程あるだろ?その一部をちょっと掘り返す予定なんで、一応言っとこうかと。まあ、先に情報こっちに流してくれるんなら、悪いようにはしねぇよ」
     そいつと組んで、またひと騒動狙ってるのか。
    「兄貴、自分の命がいくつあると思ってる?腕だってあと一本しかねぇだろうが。ソニは人質か?女子どもに優しいのがあんたの美徳だろ」
    「ソニは借りたいだけだって。見栄えが良くて腕っ節が強い女が必要なんだよ。俺の敵はお前じゃねぇよぉ。お前のビジネスパートナーのクソ爺どもに、予定より早く死んでもらいてぇだけ。実際に殺そうって話じゃねぇ。社会的地位のシッツイってやつだ」
    「珍しく難しい言葉使うじゃん……ツレに手取り足取り、家庭教師でもしてもらった?」
    「んふふ、まぁそんなとこ」
     否定されないところを見ると、相当の仲か。変わり者と冒険が好きなサングらしい。
    「全裸でクソみてぇなゴルフしてる動画は観たよ。あれは傑作だったけど、そこまでいい男だったか?」
     度胸だけはある奴なのだろう。見ていて退屈しない男が好きなのだ。
    「いや……変わってるけど、いい奴だ。お前と同じくらい失礼だけどな」
    「あんた薬物嫌いじゃん。俺も潰そうって魂胆か。それともまだ更正させたい?いくらアク抜きしたってもう、カタギにはなれねぇってわかってるだろ」
    「お前は母親の同類を殺す気でヤク撒いてんだろうけどな。そのせいで、てめぇみてぇなガキ再生産してたら意味ねぇだろ」
     ギラリと目が変わり、サングは低い声で吐き捨てるようにそう言った。
     一瞬、ゾクリとした。サングのカリスマ性と、執念深さは変わらない。
    「非合法なだけで、酒と一緒だ」
     殺しはやらないが、死んだ方がマシな地獄に落とされる。何度負けても、自分が道連れになろうとも、恨みを晴らすまで喰らい付いてくる。それでいて、単なる失敗には寛容なところがある。恐怖を植え付けることはしても、悪意を持って無闇に命を奪うようなことはしない。殺しに慣れてしまったら――自分の嫌いな輩と同類になってしまうから。
    「若ぇの全員横取りされたくなきゃ、ヤクから手ぇ引いて、情報売れ」
    「そんな脅しで俺が素直に頷くと思った?あんたは人殺しもしねぇし、俺みてぇな腐りきったクズ脅すには向かねぇよ」
     自虐的に笑ったムベに、憐れみに似た視線が惑う。
    「生きてりゃ戻れるよ。俺が守ってやるから、また部下になれと言ったら?」
    「あんたのクラブの客ヤク漬けにして、共倒れしたいの?」
     何年経っても反抗期みたいなものだ。ムベはサングのようにはなれなかった。生まれた時から裏社会でしか生きられないクズで集まって、粋がって暴れて破壊したいのだ。
    「お前から目を離した俺が悪かったよ。すまなかった」
     真っ直ぐ見つめられ、目がそらせない。
    「……今更、なんだよ」
     この男のこの目からは、逃げられる気がしない。
     ソニに、懇願する時の目がサングと似ていると言われ、何とも言えない気持ちになった。
    「お前の気持ちにも応えてやれなくて」
     一気に頭に血が上る。何年も前に振り切った想いを、今更蒸し返す気か。
    「何の懺悔だ?ウネの件で悔い改めたか」
    「あの時、俺の部下にしねぇで、シャバに戻すべきだったって反省してる」
     違う、この道を選んだのは自分だ。あんたはいつだって、普通の人生を選べるようにしてくれた。
    「今頃――反省したって」
    「一生しねぇよりマシかと思ってさ」
     変なところで純粋な男だ。そこが魅力だと思う。
    「馬鹿だなあんた、相変わらず」
    「情けねぇ兄貴でごめんな」
     兄貴。
    「――それ、言いに来たのか?」
     そう。組の中だけでなく、サングはムベの――
    「知ってたんだろ。血が繋がってるって」
     損得なく自分に優しい男に、惚れそうだった。実際、惚れていたのだ。誰より近くにいたかった。気持ちを伝えてもサングは微笑むだけで、応えてはくれなかった。それでも一番近くにいさせてくれた。
    「腹違いの兄弟なんだろ?聞かなくても、あれだけ特別扱いされてりゃわかる。ゲイのくせに愛人にもしてくれねぇのに、俺が一番大事だって目で見てさ」
     思ったより自分が弱っているのがわかる。それとも、弱って腐っていたのに、まともになりかけているのか。
    「なりたかったか?愛人」
     ただ、触れて欲しかっただけだ。誰より大事だと、言われたかっただけだ。
    「他人の振りしてぇんなら、その方が腑に落ちたよ」
     べそをかいて甘えれば添い寝くらいはしてもらえたし、本当に抱かれたかったわけじゃない。
    「他人じゃねぇのに、それは無理だ。他人でも、抱くのも抱かれるのも気が引ける」
    「キズモノみてぇな扱いは、やめろって言ったろ」
     サングはムベの欲しい物を全部くれた。だが、でかい仕事には関わらせてもらえなかった。危ない仕事で自分が死んでサングが泣いてくれたら、どんな呪いも解ける気がしていたのに。
    「俺だってもうキズモノだろ」
     サングは右腕を上げて、自虐的に笑った。
    「自分はヤクザ辞められねぇくせに、ヤクザの俺が嫌いなんだろ。このまま放っといてくれ」
    「親父の会社、継がねぇかと思って」
     ぼそりと言われ、湿っぽくなった空気ががらりと変わる。
    「は?」
    「先物取引だよ。アートと宝飾品販売。お前に向いてるだろ。あ、密輸はすんじゃねぇぞ」
    「やっとくたばったのか、あのジジイ」
     とにかく性格の悪い実父は、それでも法律はギリギリ守って稼いでいた。サングと同じで、稼ぐのと、でかい金を動かすのが好きな男だ。
     サングの母親は、サングを産んですぐ病死していた。ムベの母親とは一晩限りの関係で、ムベが実子だとわかったのは、彼女が過剰摂取で死んでからだったらしい。偶然拾われたのではなく、サングはムベを探していたのだ。
     サングは不自由のない生活はできても、実父から可愛がられもせず、親子らしいこともしてもらえずに育った。ほとんど国外を飛び回っていたし、父性を感じたことはないと言っていた。ただ、経営術やら帝王学やらは親父を見て学んだそうだから、独立するのも早かった。金で繋がってはいたが、そこには愛情らしきものは全く見えなかった。
     だからサングは、他人でも自分を評価し気にかけてくれるイ・ガンヒのような男に騙されてしまうのだ。
     似た者兄弟の血を感じ、ムベは苦笑した。
    「ジジイはまだ生きてる。が、そろそろ死ぬ。末期ガンで入院して、モルヒネでラリってるよ。もう血縁者は俺とお前だけだと。正気の時間がある内に、財産と事業を生前贈与したいらしい。息子への愛情なんて微塵もねぇが、他人に取られるよりはマシだとよ。金だけはくれるんだよな。あのクソ親父。俺は放棄してもいいが、お前が要るんなら預かっとこうかと」
    「兄貴が継げよ。それにまだ死んでねぇなら、俺が出るまでもつかもしれねぇし」
    「俺が死んだら継ぐか?」
    「知らねぇよ。親父にもあんたにも、欲しがる部下はいるだろ」
    「ンー、俺んとこのはおっさんばっかだろ。アートと宝飾品ってツラじゃねぇじゃん」
    「てめぇの義手ギトギトにデコってCMでも作ったら?それか、まだ前科のねぇ部下にやっちまえよ。そうやって甘えたら、俺が何でも聞くと思うなよ。会社がやりたきゃいつでも自分で作れる」
     ただ顔を見に来ただけか。相変わらず甘い兄貴だ。どんな失敗をしてもこんな風に許されるなら、ムベが更正する日など来ない。生きているかどうか確認しに来たのだ。
    「デコデコってCMねぇ……まぁ、親父のことはいいや。ソニは借りるぞ。お前が出て来るまで、トレーニングルーム付きのマンションに居させてやるから、安心しろ」
     弟のお気に入りを保護してくれるつもりなのだろう。彼女には路頭に迷って欲しくないから、それは有難い。
     ソニは組で内部抗争があっても、ムベを守る存在だ。色っぽい関係ではないのが逆に、居心地の良い強い絆となっている。ソニはソニで、イ・ムベを裏切らない存在としてサングに連絡したのだろう。
    「兄貴」
    「……おぅ」
     今までと違う響きにでも聞こえたのか、サングは神妙な顔でこちらを見た。
    「親父が死んだら知らせろよ。どぎつい花輪で冥土に送ってやるから」
    「おぉ。パーッとやろうぜ。花火でも上げて、モヒートでモルディブでも飲んでよ」
    「はは、なんだそりゃ」
     ちゃんと使えば頭はいいのに、こういう時はゆるい。
     油断して笑ってしまって、少し照れる。
    「元気そうで安心した。またな」
     収監中の弟に言う台詞かよと思いながら、妙に気が楽になる。
     ――魔が差してクソ親父の会社を継いだら、純金の義手でも贈ってやろうか
     イ・ムべはくだらない空想をして、房で独り口の端を上げた。
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