お誕生日掲げられた輝くメダル。
それは幼馴染の手の中にあるのが自然で、自分は包み紙付きのチョコがお似合いだと、その時の出久は思った。
目にした天井は出久にとって懐かしく見慣れた自室。
頭を刺すような痛みが小さくとも断続的に続く。また、起きてしまった。
けれどこの力は出久のみならず誰かの危機も知らせるもの。
「─ここから遠いな」
「OFFにできねえのは不便だな、その個性」
「えっ?」
驚きに見開いた目で、出久は寝転んだままベッドに腰掛ける声の主──爆豪を見上げた。
「かっちゃん?なんで僕の部屋に?」
幼馴染は何も言わず顎でどこかを示す。視線を向けると月明かりに照らされた机の上に何かがある。
「やる。つーか元々お前のカップケーキだ」
「─かっぷけーき?砂藤くんが?」
「……こんな状況だが、誕生日祝わせてくれってクラス20人分をな」
出久は目を瞬かせた。
季節は春。幼馴染の誕生日。その為のケーキ。
ケーキの一部が自分にも用意されている。
幼稚園以来だ。そして、もう自分には縁が無いと信じていた。
「またこんな日が来るなんて──」
思ってなかった、と続けようとした言葉を出久は止めた。おそるおそる爆豪を見やる。
聞こえていなかったのか、反応した様子は無い。幼馴染は今も机の上に目を向けている。
出久は小さくホッと息を吐いた。こんな時にそぐわないことを言うべきではない。それに、まず口にするべき言葉がある。
「かっちゃん、お誕生日おめでとう」
「ん」
怒鳴り声の伴わないレスポンス。
幼馴染が生きていることの実感。
不思議な感覚が出久の胸にじんわりと染み入っていく。
「これ食って早よ寝ろ」
心地に浸っているうちに気づけば爆豪はズイッと出久の皿を胸に押し付けていた。
「あ、うん、分かった。ありがとう」
「明日の特訓、なるべく万全で来い」
「─うん!」
ヒーローを目指す者として自分を見ている。そんな気持ちが込められているような幼馴染の言葉に出久は力いっぱい応えて皿を受け取った。
満足げに頷いて立ち上がった爆豪は、そういや、と言葉を溢した。
「それの返品受付は7月15日だけだかンな」
「え?」
手元を見ると、皿にあったのはカップケーキだけでは無かった。
添えられる様に置かれた円い金色。
それがなんなのか。誰がいつ手にしたのか。
出久はよく知っていた。
「待って待って!かっちゃん、これ……!」
慌てて皿ごと返そうとすると爆豪に胸ぐらを掴まれた。
「いいか」
強い語気。
「返すなら、生きろ」
そこに怒りは無い。
「お前の誕生日まで生きて、そんで返すってンなら、お前自身で返して来い」
言い終えると呆気に取られる出久を置いて爆豪は出ていった。
もう、頭を刺すような痛みは消えていた。