ゾンビパロ。バトエン。短い、書きたいとこだけ。以上メンバーが別々に食料とか探索してて、その時ペアになった恋人同士の一虎とみっちのパートから始まる。
【キャプションと必読でお願いします。】
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殴り終わってくたばったアイツらの頭上を飛び越えた時。
左足に、つぅっと痛みを感じた。
まさかと思い足元を見ると、もはや頭などとうに形もないのに、その存在は俺の足に食いついていた。
頭を潰せば大丈夫なはずじゃないのかと、全身から一気に汗が吹き出す。しかし、それ自体最後の本能のようなものだったらしくその存在はすぐに崩れ落ちる。
ほっとしたのもつかの間、先程の足に水っぽさを感じた。
……あぁ、なんだ。もう感覚が狂い始めていただけか。
痛みが無いから大丈夫だと、信じこもうとした俺はその間もなく起こってしまった事実を受け止めようと必死だった。
…
「一虎くん!水こんだけあれば意外と大丈夫かもですね!」
目の前で見つけ出した食料を抱えた後輩(恋人)が言った。明るく希望に満ちた笑顔はやはり好きなもので、何を持ってしも失いたくないと幾度も思った。
こんな状況になってもお前の笑顔が見られるのは、きっと本来の性格ゆえなのだろう。
「そうだな、早く持ってってやろうぜ。カップ麺探索はアイツらの専門分野だろ?」
こうやって会話もじきに出来なくなるはずだ。苦しい、もう少しで俺はお前から離れなきゃならない。嫌だ…まだ一緒にいたい。
そんな思いが募っては泣きそうになる。
顔に出てないといいなと、少しだけ離れた距離で武道に笑ってみせた。
重く感覚も鈍くなってきた左足を、引きずらないよう持ち上げながら、俺は恋人の後ろをゆっくり歩いた。
朱色の夕方から次第に空が暗くなる。あれから数時間程度だと言うのに、頭はもうぼーっとし始めていた。
あれから探索を続けていたが、運良くゾンビに会うことは不思議となかった。
正直ほっとしている。
目の前で武道はうんうんと悩みながら、歩いていた。
ポツポツとした会話が心地よい。
「一虎くん、意外と木って武器になるもんすね」
「そうだな、なんにでも使えるからな」
「一虎くん、あいつらって動物は襲わないんですかね?」
「んー…わかんね。」
「一虎くん一虎くん」
「…なんだよ武道」
名前を呼ばれるのが嬉しいのに、何度も呼ばれたはずの名前なのに。
どういう訳か、俺は自分の名前を呼ぶ恋人の声すら少しずつ理解できなくなってきていた。
空が暗くなっていく、足元が見えるうちに動いた方がいいだろう。
…それはつまり、武道との別れの刻が近いということを示していた。
「一虎くん、流石に急いだ方がいいかもっすね…もう戻りましょう」
武道が俺になにか言っていた。けど、ぼーっとしただとただ、武道が俺の事を呼んだっていうのしか分からない。
本当にもう、ダメなんだと。俺は俯きながら
「…そうだな」
と、ぶっきらぼうに返した。
足が重い、頭が痛い、体が軋む、心臓がにぶい。
何もかもが自分の中から抜け落ちていくような感覚だった。
ひたすらに、ただひたすらに虚無へと自分か向かっていくようで。恐ろしい。
感情が奪われていくようで、もはや自分の手も冷えきっていたのだろう。
肌から何も感じるものは、なにもなかった。
なのに、耳にだけはしっかりと。
お前の声が届くんだ。好きな声が
俺の名前を紡いでいる。
「あの…一虎くん」
「…ん?」
「…俺のこと、好きっすか?」
ぼやけていた視界は、まるでその瞬間だけフォーカスを取り戻したようだった。
ハッキリと姿が見える。愛しい恋人は少し視線を逸らして、伺うように俺を見た
「…ああ。 好きだよ」
「…! へへ、俺もです!」
笑う、明るく太陽みたいに。眩しいくらいの表情が目に焼き付いた。
良かった、こんなになっても俺。お前の事が大好きだったから。ちゃんと、答えられた。
良かった…。
___
…
俺の頭はもうほとんどまともに機能していない。
辛うじて、何か言われたから返す。日が沈み始めた頃から、それくらいしか出来なくなっていた。
まともに言葉を認識できなくて、きっと細かい質問なんてされなら俺はもう返せないだろう。
それでも頷いたり肯定したりするくらいは出来たから、持っていかれそうな意識をギリギリまでつなぎとめる。
けどもう、日が沈む頃には俺はきっと俺じゃない。
ポケットに入れていた手を出し、さっき学校から離れる前に書きなぐった紙を持つ。
ぶれ始めた視界だと書いた文字すらもう見るのが難しかった。あの時点でもう手が震えてて、文字を書くことが厳しかったが あいつらならなんとか分かってくれるはずだ。
…
テープを貼り付けた紙を手に、俺は恋人へ近付いた。
近付けば近づくほど、俺の頭は喰らえと訴えてくる。目の前の血肉を啜れと全身がそれを望んでやまない、意識が呑み込まれそうだった。
どうか、あと少しだけ。俺に時間を…
その願いは確かにどこかに届いたらしい、ほんの少しだけ、思考がクリアになっていくのがわかった。
勢いのまま、手を背中に押し付ける。
恋人は驚いて跳ね上がったが、すぐに優しい声で聞いてきた。
「どうしたんですか?一虎くん」
「武道。ちょっと先いっててくれ、忘れ物とってから俺もそのままそっち行くからさ。」
「だったら俺も」
「荷物重いだろ、明日以降の体力残しとけって」
「…わかりました!それに待ち合わせ場所もすぐ近いでもすもんね!じゃあ先待ってますから!」
「…うん」
そう言って、手に力を込めて背中を押す。
後輩はゆっくりと足音をたてて 手から離れていった。
これでいい。
手に残った熱が温かくて、逃したくなくて握りしめる。
離れたところで名前を呼ぶ愛おしい声がした。
「一虎くん!
早く来てくださいね!」
「ああ」
そうやって乾ききった喉から出た声は、いつもと同じものだった。
ーーーーー
「あっタケミっちお帰り〜遅かったじゃん」
「そーなんすよ、でも結構水とか見つかったんで!多分まだ箱あったので学校は大当たりっすね!」
「…おいドラケン」
「あ?」
「そーいや一虎は?」
「なんか忘れ物しちゃったらしくて、後で来るって言ってました。そんな遠くないのできっとすぐ来ますよ!」
「ふーん」
沢山のペットボトルの水を並べていく、反射で火の明るさが輝くように地面に波紋として映った。
その揺らめきは虹のように綺麗で、海のようだった。
「なあ…相棒、今日疲れただろ?先寝てていいぜ」
「えっ良いの?じゃあ千冬今日の番頼んだー」
そう言ってタケミっちはすぐに眠った。
すぅすぅと健康的な寝息がその場でよく聞こえた。
ゆっくりと、千冬が背中のそれを剥がしていく。
歪んで曲がり、震えたような乱雑な文字がそこにはあった。
文字か記号か、一見したら分からない。しかし彼らにはどことなくその曲がりくねった字に、確かに見覚えがあったのだ。
そして、それには短くこう書かれていることに気付いていた。
『かまれた たけみちをたのむ』
「…」
俺達がタケミっちと呼ぶ中で唯一武道と呼ぶのは、恋人である一虎の特権だった。
その言葉だけで、書き主に察しは着く。
そして、この方法でそれを伝えて先にタケミっちを帰した理由も。
すぅすぅと、穏やかな寝息が場を包む中、俺たちは静かに涙を流した。
ーーー
「…マイキーくん!マイキーくん!」
司令塔として周囲を遠目で探索していたタケミっちが声を上げた。何か見つけたのかと問いかけようとした時、ふいに言いしれない嫌な予感が走った。
「タケミっち」
同時だった。嫌な予感がした瞬間にタケミっちの手を掴もうと伸ばした瞬間、その手は残酷にも空を切った。
目の前をタケミっちが嬉しそうに走る、その背中をみてさらに嫌な予感が強まった。
タケミっちがこちらを見て振り返った、その顔はあの日以来見てなかった明るい笑顔で。
次の言葉に、俺の予感は的中することになる。
「一虎くんが!あそこにいましたよ!」
息が止まる、一瞬の間だった。
「…タケ…ミっち…まって、…待って…待ってタケミっち!!」
しかしその動揺から生まれた一瞬はあまりにも大きい。一直線で学校へ向かおうとするタケミっちを、急いで追いかける。
名前をいくら読んでも、今のタケミっちにはきっと届かない。
「待って…!待てってタケミっち!」
扉を体当たりするようにあけ、タケミっちは一直線で階段へ向かう。不思議なことに、学校にゾンビはいなかった。
足音のする方からタケミっちを追いかけ、三階まで上がった時だった。
「…はぁ…やっぱり、やっぱり一虎くんだ…!」
その声がする先に、目を向ける。
割れた窓から見えた空は青く澄んでいて、並んだ2人は至って普通の学校の先輩後輩のようだった。
シーンの一角のようなその光景に、俺の声は届かない。
リン、と鈴がなり。窓の外を眺めていた見覚えのある髪が振り返る。
「一虎くん、無事だったんですね」
タケミっちの嬉しそうな声が耳に届く。
ゆっくりと近付き手を伸ばした瞬間、
ガッと一虎はタケミっちを引き倒した。
「うっ」
「!タケミっち!」
ようやく動き出した足は、どんなに動揺していても敵の弱点を狙う事に慣れきってしまったらしい。
鈍い音がして、タケミっちの上に乗っていたそれは2mくらい吹っ飛んだ。
「…タケミっちケガは」
「…ぁ、一…虎……く」
「マイキー!」
ケンチンの声がして、慌てて振り返るとそいつはまだ僅かに動いていた。
「マイ、キーくん…あの、なんで…一虎くん…を」
「タケミっち…」
震えながらタケミっちが俺の手を掴む、その目には涙をいっぱい貯めて今にもこぼれおちそうだった。
「マイキーくん、あの一虎くんやっと見つけて…!俺また、みんなとっ…」
「…タケミっち……俺」
「…一虎を、助けてやってくれ…マイキー」
タケミっちが掴んでいた手をケンチンが取った。そしてタケミっちを引き寄せ、こちらから隠すように立ち、耳を塞ぐ。
「ドラケン…くん、あの。見えないです、俺。一虎くんに会えたら、言わなきゃいけないことあって」
小さくそんな声が聞こえた。
俺は…
目の前を、一虎だったものが起き上がる。頭は血濡れていて顔はよく見えない。
ただ、リンという特有の音だけが懐かしかった。
手を掴みあげ、動きを止めさせようとする。
ゾンビは頭を潰さなきゃならない。
頭を止めればいい、そう分かっていたからこそ俺達は慣れたようにそれを続けてきた。
そして、生き残ってきて…
それも…仲間が無事でいられるように…やってきたはずなのに。。
どうして、今その仲間だった奴の頭を 潰さなきゃならないんだよ
すぐ近くでリン…と音が響く。久々に聞いたその音がこれまでの思い出を甦らせるようで、涙がこぼれた。
「……れ……」
一虎から、声がした
「ころ…して…くれ……、」
僅かな空気とともに、そんな音が何度も紡がれていた。
確かな言葉だった。
俺は遺言のようなそれを聞いて、泣きながら拳を振り落とすしか無かった。
ーー
「…ドラケンくん、…一虎くんを、マイキーくんは許してくれますかね…」
「…」
「今、2人とも話をしてるん…ですよね。一虎くん、ずっと帰ってこなかったから…マイキーくん怒ってて…」
「相棒…」
「俺も。…俺も一緒に謝るのでっ…一虎くんを、許して欲しくて…」
俺よりも小さい存在が、耳を塞がれたまま何度も何度も俺に訴えかけていた。
震えながら、小せぇ声で。大粒の涙が俺の腹の辺を濡らしていく。水は熱いのに冷えるのは早かった。
後ろから鈍い音が無くなって、足音が近づく。
「ケンチン」
「…マイキー」
「タケミっち、どう?」
「…」
塞いでいた手を外し、マイキーの姿をタケミっちに見せる。
「ぁ、マイキーくん。あの、一虎くんを許してくれますか…?」
「タケミっち、一虎は」
「ずっと、ずっと帰ってくるの遅かったから…それでマイキーくん怒ってたんですよね。俺も、一虎くんと一緒に罰受けるので…一虎くんを」
「タケミっち、」
「あの、一虎くんどこですか?一緒に謝んないとなので…俺」
「タケミっち!!」
一際大きい声が、学校全体に響いた。
震えていた体は動きを止めて、ようやく2人は目線を合わせた。
「…マイキーくん、」
「タケミっち…俺の目。見れる?」
「はい、」
「…うん。今から言うことを、ゆっくり理解して欲しい。」
「はい」
「…一虎は、ゾンビになって 死んだ。」
そう、ただ事実を伝えた。真っ向から伝えるしか、俺達は浮かばなかった。
どれだけ泣いてもいい、どれだけ辛くなってもいい。悩んで苦しんでも俺達が支える、だからここでいくらでも泣けと。
そういうつもりで、きっとマイキーは伝えることを選んだんだろう。
「…」
タケミっちは目を開いたまま、何も言わない。
マイキーはゆっくりとタケミっちを抱きしめて、顔を埋めた。
少しして、タケミっちの手がマイキーを撫でた。
ようやく見せた変動に、マイキーも顔を上げる。
「マイキーくん…わかりました」
そう、柔らかい声がした。思ったよりも落ち着いてんなと、マイキーもほっとしたように笑った。
「タケミっち…」
そう言ってマイキーがタケミっちの目元を拭おうとした時だった
「マイキーくんは、一虎くんを許してくれたんですね!」
「…っ!」
明るく、ただ明るく笑いながらタケミっちはそう言った。
以前のような笑顔を見せながら、いつもと同じように一虎の名前を呼ぶ。
周囲の息が止まり、背筋が凍りついた、思わず声をかけそうになったが。それ以上に絶望した表情のマイキーをみて、押し留まる。
「話し合い、終わったんですよね…!じゃあまた俺達みんなで動けるんですね…!」
嬉しそうに、そう言うタケミっちは本当にいつもと変わらなかった。
何も映さなかった瞳は、俺たちを見ていたし、その目は濁らず澄んだままだ。
「…うん、そう…だね。タケミっち」
そう言ってマイキーはさっきまで一虎がいた所に、戻るように足を進めた。
「おい……。おい、マイキー!」
少ししてマイキーは戻ってきた。
そしてタケミっちの前に立つと、左手に持っていた見慣れたピアスを、ブツっと
自分の左耳に刺した。
その場にリン…という、聞きなれた音が響く。
そのままゆっくりとタケミっちに近付き、触れるだけのキスを落とした。
「"武道"。ただいま」
「はい、一虎くん!おかえりなさい!」
明るく幸せそうな笑顔を見せるタケミっちとは対照的に、一筋の涙を流しながらマイキーは悲しそうに笑っていた。