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    shimanyan112

    @shimanyan112

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    shimanyan112

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    FGO 明マ
    夏イベ真っ最中なので、海のお話なんですが前半かなり暗め。
    あまりに酷いので後半付け足しました。

    溺れる人魚綺麗だ。

    見上げた世界は、空では無く。
    揺らめいた光は、いくつもの表情を変えながら鮮明な青を映し出す。
    日の光が揺らめいた隙間から帯状に差し込み、この現象を『天使の梯子』と呼ばれるのが理解できるほど。
    騒がしかったはずなのに、ここは随分と静かで。
    時折揺らめく音と、自分から漏れる泡だけがこの世界の全て。

    ゆっくりと落ちていく。

    それに抵抗する気なども無く。
    明るかったはずの揺らめきが、視界の先へと遠ざかる。
    こぽっ、と最後の一雫が口から上へと登っていく。

    苦しくなんかない。
    ただ下に行くほどに、冷たくなっていく体。

    もう卵ほどになった光以外は全ては闇で。

    光も音も無く静寂で満ちた世界。


    死とはこういうものなのか、と錯覚するほどに。



    瞳を閉じる。

    あの小さな光すら否定するために。

    だが無意識かはたまた浮力のせいか。

    右腕だけは何かを求めるように光へと伸ばされた。





    不意にその手首に強い感覚がして。

    痛いほど締め付けられた手首に、目を開けようとするが、体全体を引っ張られる感覚にサングラスが外れる。
    水を遮るはずのものがなければ、上昇する水圧に薄い瞼を開けてはいられなくて。

    ただ目蓋越しに、この世界が闇から開けていくのを感じた。


    バシャン!!

    世界が明けた。
    暖かい日の光と、賑やかな声。
    数刻まで当たり前の世界だったのに、急に自分が異物のように感じた。






    「何してるんだマックスウェル!!」

    私をここまで連れて来た、人物から怒号が降りかかる。

    あ、明智さん

    声を出そうと思ったのに、肺の中は海水でいっぱいで。


    開いた口は無意味に開閉しただけで、声帯は空気を通さなかったのだった。







    「何をしていたんだ」

    彼の鋭い声を聞きながらも、どこか心の中は平常で。
    海岸に設置されていたパラソル付きのベンチに座らされると、とりあえず肺を空っぽのした。

    「何を、ですか?」

    声帯が海水で荒れたのか、声がかすれる。
    差し出された水を口に含むと、ようやく体が陸に上がったのを理解し出した。

    「大丈夫ですよ。サーヴァントは呼吸を必要としませんから」

    その答えが気に入らないのか、彼の眉が歪む。
    海中で無くしてしまったサングラスを、魔力で形作るといつものようにその瞳を覆った。

    「サーヴァントであったとしても、あのままだと死んでいたかもしれないんだぞ」
    「杞憂ですよ」

    心配をかけましたね、と言葉にしようとして、握られた手首を見た。
    彼の掌の跡がくっきりと。
    水圧もあるので、体を水面まで持っていく際に力が籠ったのは事実だろうが、これが彼の意思の現れのような気がして。

    「もう一度聞く。何をしていたんだ」
    「………何を…」

    言葉に詰まる。
    彼は私のことを少なからず理解できる関係だと思ってはいる。

    だが、彼は『人』の英霊なのだ。



    「そうですね……

     ……海に還りたかったのかもしれません」




    マスターと同行する形で、たくさんのサーヴァントが海に来ていた。
    シュミレーターでは無く、本物の海。
    しかも小さな離島を貸し切っての、プライベートビーチにみんなテンションは最高潮で。

    海で泳ぐもの。
    離島の探検に行くもの。
    浜でバーベキューをするもの。
    よせばいいのに、こんな時まで鍛錬や戦闘をするもの。

    籠り切ったカルデアでは味わえない興奮に、みんな浮き足立っているのは確実で。

    私も本来は研究のために不参加の予定ではあったが、せっかくなのでと誘われて今日に至る。


    そこで目にしたものは、サングラス越しだというのに全てが眩しくて。

    明るい空に、美しい青い海。
    白い砂浜と、生茂る緑。

    それは人の手の入っていない芸術だった。

    潮の匂いのする風は心地よく、一歩足を踏み入れるごとにきめ細やかな砂の感触を味わう。

    押し寄せる波は幾度の表情を変え、足を濡らす楽しさに心が踊ったのを感じた。

    持って来た浮き輪に身を委ねれば、波の動きに合わせて世界が踊っているように見えた。





    そこでふと思ってしまった。


    この世界に人は必要なのかと。


    概念英霊として人の願いで作られた存在でありながら、人の意味を問いてしまったのだ。

    それは自身の存在も、はたまたそれを求める永久機関すらも連鎖的に否定してく。

    思考を止めたいのに、幾重にも這い回る思考の中、脳のシナプスが過負荷を起こしている気すらしていた。



    いっそ、全てがーーーーーーーー。


    その思考に行き着く前に、体は海の中へと沈んでいた。

    肺に海水が溜まり、酸素がなくなったことで、ようやく思考は停止を迎えたのだ。

    この身全てが願いのために存在するのに、沈んだその時だけはそこにたのは『私』だけ。


    空っぽになってしまう事を受け入れてしまう直前、ふと脳裏に過ったものは『私』が求めたものだったのか。

    水面に上がり真っ先に目に入って、足りない頭でその名を呼べたのは偶然では無いのかもしれない。


    サングラスをかけ直した時、もう戻った私はそれを考える隙間すら残っていなかった。



    「アンデルセンの『人魚姫』でも読んだのか?」
    「そう言えば、前にナーサリー達に読み聞かせをしましたね」

    バサっと頭に乗ったタオルが、彼の手で乱暴に髪をかき乱す。
    下を向いた事で今の表情を見られなくて、ふと安堵した。

    「泡となって消えてはマスターが困るぞ」
    「私はあまり戦力にはなりませんからね。どうでしょう?」

    自分で軽口を叩きながら、自分にダメージを負う。
    願いで縛られた脆弱な身体は、心までも弱いだなんて。
    思わず失笑すると、俯いていた頭がタオルとごと彼を見上げるように仕向けられた。

    紫の瞳と交わる。


    「君が消えるなら私も後を追うからな」


    目を見開く。


    だが言葉を紡ごうとするのに、声が出ない。


    声帯を震わせるはずの空気は出てこなかった。


    まだ肺だけが海の底に居るようだった。





    ベンチに一人。

    あの後誰かに呼ばれた彼は、去っていった。

    何も私の言葉を聞かないまま。

    いや、私が言えなかっただけで、彼は待っていてくれたのに。


    「………溺れられたらよかったのに……」

    ポツリとようやく出た言葉。

    それは海では無く。


    私が『人』であったのなら、あの時どうやって返したのだろう。


    彼と抱きしめ合い口付けを交わし、笑っていたのだろうか?
    それとも彼を案じて怒っていたのだろうか?
    私を選んでくれた事を思って泣いていただろうか?


    どれも理解できるのに、どれも私の感情ではない。

    『人』の姿はしているが、所詮は紛い物であることが私を体現しているようで。



    あの時読んだ童話の彼女は、最後泡へと消えていった。

    自分の事よりも、愛おしい人を思って身を投げたのだ。


    私は自分で考えているようで、詰め込まれた願いによって動いている。
    生きる意味を固定化された自身は、死すらその範疇には無い。

    その時が来た時には私の何を捨ててでも、願いに向かって歩むのだろう。

    それが当たり前だと思っていたのに………。


    彼の言葉を反芻する。

    ごちゃ混ぜの感情の中、確実に理解出来たことがあって。



    この『私』という存在は、もはや『願い』だけで生きているのでは無いと言うことを。








    ふと心がざわめくのを感じた。

    たくさんのサーヴァントたちが、楽しそうに遊んでいる中不意に感じた直感。

    何も変化がなさそうに見えて、海に漂う浮き輪が目に入った。

    いない。

    少し前まで浮かんでいた彼がいない。
    初めは潜っているだけや、他のところに移動したのかと思ったのだが。
    いいえぬ不安が襲った時、私は浜を掛けていた。


    随分と深い海の底に、彼はいた。

    まるでクラゲのように漂っている姿は、彼に暗い影を落としている気がして。


    急いで水面に上がりその双眸が見開いた時どれだけ安堵したことか。

    抱き上げた身体は青白く、言葉にしようと口を開けただけの彼はまるで人魚のようだった。




    彼は時折何かを悩んでいるようだった。
    それは何かは私には分からない。

    概念英霊として産まれ、日々研究や実験に没頭する様は、感嘆するほど。
    そのためには危険をかえりみず、何度心配したか数え切れないほどだ。


    まるで生き急いでいるみたいに………。

    保養のためにとマスターに一同誘われた時、せっかくだからと彼も呼んだ。
    煌く海岸を見て、サングラス奥の目を輝かせたいたのを覚えている。

    私たちの関係は、今はただの友人だ。
    魔力供給をする分、友人、と一括りにするには少し近い間柄のような気はする。

    だが、彼の存在意義がそれ以上を望まなのも知っている。


    『願い』と言う鎖にがんじがらめに巻かれた彼はどんな事でもするだろう。

    それが、彼自身の命を使う選択であったとしても。


    今日彼に想いを伝えた。

    それが彼の楔になればいい。

    いずれ選択した時に、私の存在が彼を生かせる微力となるのなら。




    私は泡にならないよう彼を見守り続けるだろう。

    海へと沈むための一歩に、楔を打ち込み続けるために。


    終わり










    「ほら、食べなさい」

    そう言って彼に差し出したのは、紙の大皿で。
    その中には焼きそばやフランクフルト、焼肉などバーベキューの定番がぎっしりと並んでいた。

    「信長様が盛り上がりたいとたくさんご用意されたんだ。食堂メンツからのおにぎりもあるぞ」
    「ありがとうございます」

    一緒にベンチに座ると、アルミホイルに包まれたおにぎりを差し出す。
    彼がパクッと一口食べると、サングラス奥の目が輝きが戻ったような気がして。
    炭を使用した料理は、香りが付くのか普段食堂で食べるよりもずっと美味しく感じる。
    それだけでなく、この広い海岸の空気が最高のスパイスになっていると豪語してもいいだろう。
    それは私だけでなく、隣に座った彼も紙皿の食事を美味しそうに食べていた。

    いや、ちょっと勢い良過ぎないか……?

    「なぁ、マックスウェル?」
    「何れふか?明智さん」

    口に頬張った焼きそばをそのままにしゃべるから……。
    いつも食堂で食べるときはそんな勢いなど無いのに。

    「最後に食事をしたのはいつだ?」
    「………………えっ?」

    視線が泳ぐ。
    サングラスで分からないと思っているかもしれないが、少なくとも同じ時を過ごして来た私には分かり易すぎるほどに、顕著に見えた。

    「あっ、ほら。3日前に一緒にお茶しましたよね?」
    「あの時忙しいからと、研究室でクッキーを摘んだだけだろうが」
    「……そうでしたっけ?」
    「その後は?と言うか食堂できちんと食事したのはいつだ?」
    「………………」
    「マックスウェル?」

    名前を語尾上がりに読んでも、答えはなく。
    言葉に詰まった後は、もはや顔すらこちらを向かず。
    尋問にも似た事をしたのは申し訳ないとは思っているが、なかなか口を割らない彼に業を煮やしたのも事実で。

    「……サーヴァントは食事を必要とはしませんから…」
    「だが、カルデアからも精神面の補填のために食事を取る事を言われているだろう」
    「知っていますが、今日来るためには色々作業が押してしまいまして…」
    「必要なら手伝うと言ってあったはずだが」
    「……明智さんにご迷惑ばかりおかけ出来ません」

    最後は尻すぼみに言葉を濁らせる。
    研究熱心なのはいい事だが、彼は時々度を越してしまう。
    新しい一手を思いつくたびに、子供のように目を輝かせて研究する様は好ましいのだが、それによってその他全てがなおざりにしてしまう。
    彼を構成するのは概念英霊としての『願い』だろうが、彼が人の形をしている以上『人』としての特性が全く無いわけでは無いのだ。

    「あんまりそう言う生活をしていると、私の庇護下に置くぞ」
    「嫌ですよ……そんな事になったら危険な研究なんて出来ませんし…」
    「当たり前だ。この前だって手を溶かしたし、魔力不足で倒れたり素材集めで生傷を作ったり……可能ならば今からでもしたいくらいだ」
    「明智さんは過保護過ぎますよ」

    彼はそっぽを向いたままフランクフルトを齧る。
    確かに戦闘の最前線を行くサーヴァントならシュミレーターなどで生傷を作るのは仕方がない事だが。
    それを研究一筋の彼がやらかし、また目を離した隙に何をしでかすか分からないのも要因だった。
    惨事を目の前にしてため息をついたことは何度あったか。
    今日とてずっと隣に置いておけばよかったと思うほどに。

    過保護なんて、むしろ褒め言葉ではないだろうか。

    「もう少し料理を持ってこよう。そして出来るだけ補填しなさい」

    手に持っていた、菜飯のおにぎりを彼の口に押し付ける。
    すっかり空になった紙皿に、食いつきの良いおにぎりはすぐに消えてしまうだろうが。

    青白かった肌が血色を戻した事に、酷く安堵したのだった。





    「………………寝てる…」

    ベンチに体を預けて、寝息をかく彼の姿。
    そう言えば、食事もだがいつ最後に睡眠を取ったか聞くべきだった……。

    三大欲求の中に含まれる食欲と睡眠は、人に取って必要な事柄だ。
    それをしなければ、人はたやすく精神を壊すと言う研究結果だって出ている。
    両方とも疎かにしてしまえば、体だけでなくサーヴァントだろうが精神を病むのは仕方がないのかもしれない。

    カチャッと昼寝に邪魔そうなサングラスを外すし傍に置くと、長い前髪を一房掴む。

    「泡と消えるのは許さないからな……」

    彼は自分を虫を殺せないほど弱いと言う。
    だが彼が突き進む道は、きっと弱くては為し得ないもので。

    力は他のサーヴァントには劣るだろうが、彼の意思はとても強く私には輝いて見える。

    進む道は険しくとも、何度挫折しようとも彼は立ち上がってその道を目指すだろう。


    だが時に弱った時、彼を救い出せる一縷の光になれば……。


    「……おやすみ……」

    前髪にそっと口付けて、タオルケットをその身に掛ける。

    2時間くらいしたら起こしてやろう。


    せっかくの浜辺なのだから楽しまなくては。



    まだこの輝くような夏は終わってないのだから。



    終わり
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