夏のひととき今年も夏がやってきた!!
青い空に、白い砂浜、カラッとした空気に、照りつける太陽。
夏真っ盛りなこの海辺でも、閉鎖的だったカルデアのサーヴァントたちは思い思いの夏を満喫していた。
泳ぐ者、遊ぶ者、日に焼く者、そんな事より食べる者。
偶然出会った隣を歩く夏に欠かせないサングラスを押し上げた奴に思わず一言。
「……おまん、暑苦しいぜよ…」
えぇ〜…とばかりに眉を潜めたが、いつもの首までしっかり詰まった襟にダブルスーツに出で立ちは、この夏にはそぐわない程に暑そうで。
実際、薄手のTシャツに短パンの自分ですら割と暑いのに、汗すらかいていない姿には気温差すら感じて。
「以蔵さん、サーヴァントは耐性があるので暑くありませんよ?」
「いや、見てるだけで暑そうやき、せめて上くらい脱いだらえいが」
「でも荷物になりますし」
あ〜…何言ってもきっと正論で返されるであろう頭の固い男に、夏の暑さで最高潮に茹って来そうである。
「おまんちょっと、こっち来とおせ」
「えっ、でも私これから待ち合わせが……」
「そんなんどうでもえい」
どうでも良くない、と言う文句を耳は流しながら、力任せにある建物へと引きずっていくのだった。
※※※※※※※※※
「おっせえなぁ………」
燦々と降り注ぐ太陽を避けるように、椰子の木下でつい愚痴る。
日本と違い湿気は少なめだが、それでも照りつける太陽は暑くて、甲冑ではなく柄のアロハシャツとハーフパンツという出で立ちなのにそれでも暑く額を流れる汗が気になるほど。
一緒にレイシフトしなかったのは、相手の仕事の都合なのだが、約束の時間に遅れるような事はしないと思っていたのだが。
そもそも、インドア派で部屋に篭っているのが日常な彼を、南国の海に誘うことが出来たことだけでも僥倖だと感じている。
実際に海で泳ごうと誘ったときに、
『私泳いだこと無いんですが………』
と言われたときには、驚いたもんだ。
まぁ、長い人生で泳ぐ機会が無いこともあるだろうし、手取り足とりしてやってもいいかも、と邪な気持ちすら一瞬垣間見えてしまったのも事実で。
真夏の海にはしゃぐ真っ白な肌を連想するだけで、この夏が楽しみで仕方ないのだった。
「すいません長可さん、遅くなりました」
ぱたぱたといつもの革靴らしからぬ足音に、気がつくのが遅れて。
その姿に、思わず見入ってしまった。
「予定通りの時間に来たんですが、暑苦しいと言われまして………」
そう弁解する、彼の姿はいつものスーツでは無いく夏の装い。
白に模様の入ったTシャツに、膝までの短パンとサンダルという、夏の日差しの中でも遜色ない仕様だった。
普段は隠されている細い手足が、余計に日差しに照らされてさらに白く見えて。
ゆったりめのTシャツは、白地に何やらよく分からない英語の羅列が書かれたシンプルなものだったが、紺色の短パンとよく似合っていた。
「いいじゃねぇか、涼しそうで」
「サーヴァントなので気にせずいつもの霊衣だったんですが、やはりTPOは大切なんですね」
「よく分かんねぇけど、いつもの背広だとまぁ暑そうだしなぁ。似合ってるぜ!」
「本当ですか?ありがとうございます!」
明るい日差しの中、にぱっと笑う表情が眩しい。
いつも凛としている姿も愛らしい部分があるのだが、こうした自分だけが見ることが出来る姿もまた眼福。
本当にこの夏誘って良かった!!
「あまりゆったりした服は来た事なかったんですが、以蔵さんがこっちの方が良いって」
「…………は?」
今なんて?
「ポロシャツとかの方が好みではあるんですが、それも『上まできっちりボタン止めて暑苦しい!』ってこっちに変えられちゃって」
にこにこしゃべっているのがなんか気に入らねぇ。
割りかし似合ってるし、露出も増えて嬉しいしで悪く無いはずなのに、なんだか心はもやもやで。
こっちの顔に眉間にシワが寄ったのだ気になったのか、彼が小首を傾げる。
「やっぱり、元の霊衣の方が良かったですか?」
少し寂しそうに眉を寄せさせてしまった。
そうじゃ無い、そうじゃなくって!!
「違えから!えっと、……なんて言ったら良いか分かんねぇ!!」
思っていることがもやもや過ぎて、相手に伝えられる語彙力が無さ過ぎて。
ガシガシと頭を掻くと、ふと思い至った。
そう、唐突に頭に落ちた雷のように。
「えっと、どうですか?」
またもやきっちり留められたボタンを、寛がせるように一つだけ外す。
うん、アロハシャツも似合うな、うん。
襟がついたことで、いつものきっちり背広の面影を残しつつ、夏の装いに先ほどのTシャツよりも似合ってんじゃ無いかこれ。
元々自分の着ていたものだから、体格差もあってかゆったり感がさらに良い。
「良い感じだ!」
グッと親指を立てると、ようやく見せた安堵の笑みがなんとも可愛い。
「でもなんで交換したんですか?」
「なんでって…………んーー、なんか他の男の匂いってのが気に入らなかったっつーか……」
「……匂い?」
いや、単なるワガママなんだが、他の男が選んだ服を着ていたのがなんとなく許せなかっただけ。
きっと柄を選んだのは本人なんだろうが、それでも少しでもその要素を排除したかったって言うか。
まぁ、服であれなんであれ、俺が全部であって欲しいとか言ったら目を丸くしそうだと思いつつ言葉を濁す。
「あぁ、でも確かにこの服長可さんの香りがしますね」
白い頬がうっすらと紅色に染まる。
夏の日差しがさらりとなびく前髪を金色に染めて。
照れたその顔を誰にも見せたく無い。
自分が見れる最上級の光景。
可愛い嫁さんだなぁホント、頭から食っちまうぞ。
「よおっし!海行くか!」
「はい!」
細い指先に絡めるように手を繋ぐ。
照れたような表情と、握り返して来た掌が常夏の南国よりも暑く感じたのだった。
※※※※※※※※※※※※※
青い空に、白い砂浜、そしてどこまでも続く透き通った美しい海。
そりゃあもう、初めての海は楽しかった。
楽しかったのだが……
誤算はあった。
人って思っていたより水に浮かない。
概念英霊として現界してそれなりに経ったが泳いだのは初めてだった。
だがそこは聖杯の知識もあれば、動画で予習もしたし脳内シュミレートまでバッチだったのだが。
水に浮くことすら大変で、脳内での予測した動きに体が全然ついていかなくて。
そうですよね、走るフォームが分かっているだけで誰でも良いタイムが出るのなら苦労はしませんよね。
結局長可さんに手を引かれながら、長い時間泳ぐ練習をしたのに上達せず。
長可さんはなんだか終始楽しそうだったが、やはり浜辺で砂のお城を作るくらいが自分にとっては適当なのだと実感するのだった。
それともう一つ。
サーヴァントって日に焼けるんですね…………
火傷のデバフ並みでは無いが、冷たいシャワーを浴びて落ち着いたくらいは肌が痛い。
「おい、大丈夫か?」
ホテルのシャワーから出た私を、長可さんが心配そうに覗き込んできた。
そんなに背中赤くなっているのか……早めに回復すると良いな……。
「ありがとうございます。随分落ち着きましたよ」
まだちょっとタオルが触れるだけでもヒリヒリするのだが、それが表情に出ていたのか長可さんがニッと笑うと何やらボトルを見せつけて来た。
「ホテルのフロントでもらって来たんだよ。なんでも日焼けに良いってよ!」
裏面の成分を見れば、保湿と消炎作用があるんだとか。
流石南国のホテルのフロント、至れり尽くせりの内容に思わず感動するのだった。
「じゃあ、お願い出来ますか?」
ベッドに腰掛けて背中を差し出す。
おう!と威勢のいい声と共に、ヒヤリとした感触背中を覆った。
シャワーで冷やしたとはいえ、すぐさま熱を持ってしまうようになった肌にはそれが心地良くて。
少し吐息のような声が漏れたのは致し方無い。
だが、それで火を付けてしまったことに気がついたときにはもう遅く。
首筋の熱い吐息と、腰に回された力強い腕。
振り向く前に、襟足に甘噛みをされて背中以上に体の体温が一気に上がった。
「……なぁ、今食っていいか?」
元気な大型犬のような声ではなく、落ち着いた含みのある声。
振り返らずとも、こんなとき相手がどん顔をしているのか私は知っている。
そして、返答なんてしなくても、その顔を見ればきっとことを受けていれてしまうと言うことも。
楽しい楽しい南国の夏。
暑い夏はいろんな意味で、まだまだ始まったばかりなのだから。
※※※※※※※※※※※※※
「…………なんじゃぁ?」
青い空に白い雲、そしてそれに負けない真っ白な砂浜。
様々なサーヴァントたちが、夏のバカンスを楽しむ中、ふと見ればよく見知った姿が。
せっかくの真夏のビーチに、パラソルとデッキチェアで優雅に読書をするスーツの男が一人。
「おまん、この前買うた服どうしたんじゃ……?」
つい先日この出で立ちで南国のバカンスを闊歩していたために、思わず進めた夏の洋服一式。
何を選んでも暑苦しそうだったので、無理やり進めたTシャツは影も形も無かった。
「あぁ、あれですか?ちょっと諸事情がありまして」
にこりと笑う微笑みが、いつものとな〜んか違う気が。
笑みの背景に、微かに不機嫌を感じるのは気のせいだろうか。
いや、気のせいでは無いのだが、それを問うよりも気になるのは背後からの強烈な威圧感が口を開くのを躊躇わせた。
アサシンというクラスであるがゆえにそう言ったことに敏感なのが、逆に恨めしくなるほどに。
遠くだった威圧が近づき、それが明らかなこちらへの殺意も含めていることに、一瞬逃げるかどうか迷うほどだった。
「あぁ、おかえりなさい長可さん」
そんな以上な威圧にも気にしないのか気づかないのか、平然とその主に声をかけていた。
「なんだてめぇ、うちの嫁になんか用か?」
「長可さん。以蔵さんが困ってますから。あっ、紅茶ありがとうございます」
ナンパだと思われたのだろうか?
それにしても誰か分かっても威圧感が変わって無い気がするのだが。
「別に通り掛かっただけやき、邪魔して悪かったな」
「邪魔だなんてそんな、お話相手に居ていただいても」
「俺今帰って来ただろうが!」
「長可さんは遊びに行って来てもいいんですよ」
「嫁を一人置いとけるかよ…」
「旦那様の節度があれば私もご一緒出来るんですがね〜」
「俺が我慢出来ないの知ってるだろ!」
「わしもう帰るき、夫婦喧嘩は後でしとうせ」
そうですか、残念です、と言葉を濁した姿は、本当にそう思っている訳ではなく当て付けの様な気がして。
気軽にケンカに混ぜないで欲しいと、思わずため息をつく。
夫婦喧嘩は犬も喰わないともいうが、胃もたれしそうは程に砂糖を食わされた気分になったのだった。
終わり
夏が終わり、すっかり秋になってしまいました……。
夏イベント長かったので、その間に書き上げたかった。
書きたいものが他にもあったのですが、一旦ここまで。
QPを積まれて仕方なく、旦那の愚痴という名の惚気を聞かされる以蔵さんとか。
溺れないと分かっているのに、旦那に無理やり沖に引っ張り出されてしがみ付いて離れない嫁とか。
長い夏休みだが、ホテルに籠もって三日目となって流石に文句を行って外に出たのに体がうまく動かなくて結局は読書をする羽目になったこととか。
がっつり濡れ場も書きたかったのですが…時間と文才が欲しいこの頃です
読んでいただきありがとうございました!