目の覚める出会い「広っ!!ウチの会社がこんなところにお呼ばれしていいんですかね!?先輩!?」
「参加券もらったのお前だろうが……しっかし…凄すぎないか?コレ??」
オリンピックでも開催できそうな大きな施設を見上げ二人してそう言葉が溢れた。
カルデア商事。
最近何かと話題沸騰中の企業である。
なんでも若い社長が立ち上げた会社らしいのだが、新しいのに幅広く手掛け、ここ数年で一躍トップレベルの企業の仲間入りを果たしている。
一体どこの伝で見つけてきたのか分からないという、多種多様で一癖も二癖もある人材は、テレビを賑わす有名アイドルまで持っているらしく、CMで見ない日は無いとか。
そんな有名どころの会社のサンプル会に呼ばれるなんて。
後輩が受付に参加券を渡すと、社名が入ったプラカードを受け取った。
「先輩!受付の女の子めちゃくちゃ美人でしたね!」
「一瞬芸能部のアイドルかと思ったけど、違うよな?」
「芸能部の子ならエレちゃんに会いたかったなぁ」
おい、お前彼女いるだろうが。
飲むたびに彼女の惚気話するくせに、もう聞いてやらんぞ。
長い通路を渡って入った会場の中は……お祭り一色だった。
もちろんカルデア商事が手掛けた商品もあるが、他企業とのコラボ商品とか、カルデア商事の技術を使った他社商品まで広い館内に所狭しと並べられている。
縁日みたいに屋台形式でたくさんの製品や商品が並べられてて、試飲も試食もし放題。
プラカードに入っているチケットの分だけ、気にいったサンプルは貰えるし届けてもらえる。
資料は会社番号で届けてくれるの?……便利すぎ。
仕事で来てるのに、めちゃくちゃ楽しそうなんだが。
えっ、もう少しで芸能部のステージやるの?
他にもイベント目白押し。
殺陣とか射撃とかもあるんだが。
綺麗なコンパニオンのお姉さんにウェルカムシャンパンまでもらった。
うまっ!これ、ノンアルって本当か!?
後輩はいつの間にか、うまそうな串焼き持ってるし。
試食用じゃなくて配ってた?
あのテレビでやってるカルデア商事お抱えの赤いシェフのやつだと!?
一本よこせ。
『いえーーーーーい!!ノってるかのう!!』
激しいギター音と共に、大声が会場全体に響き渡る。
広いから米粒にしか見えないけど、あれが今回の主催者かな?
髪が長いので社長では無いみたいだけど、超絶ギターテクに会場は大盛り上がりだ。
ここ館内なのに火柱と花火まで。
サンプル会だよね!?
「見てくださいよ!!メジェド様人形の最大サイズの見本ありますよ!!」
そんなのウチの会社でどう使うんだよ。
って走って見に行ってしまった。
まぁ、初参加だから物珍しい物があると見たいのは分からんでも無いが。
その時、周りが少し騒がしくなった。
ステージに大物でも現れたかと思ったけど、そう言うわけではなく。
見ると人混みの中を颯爽と歩く2人の人物。
スラッとした体格に、シャツと薄手のコートが似合っていて。
ライトの照明で金髪かと一瞬思うほどの綺麗な長い前髪の下に、長い睫毛とアイスブルーの双眸が見えた。
その隣にはポロシャツとジーンズというラフな格好が、癖のある黒髪によく似合う。
切れ長で鋭さを増している瞳は、紅く危険な香りさえも匂わす雰囲気だった。
芸能部?
今のところ見た事ないけど、前者の方がめちゃ好みなんだが。
何事もなく通り過ぎていくかと思いきや、ふとこちらを見たピタリと歩みを止めた。
二人が何か少し話すと、黒髪の方はさっさと進んで行ってしまったのだった。
近づいてくる足取り。
えっ、何?俺に用ですか?
周りの視線が集中して痛い。
「日頃からご贔屓にしていただきありがとうございます。ナクトコーポレーションの杉浦様ですよね?」
「は、はいっ!」
やべっ、返事が裏返った。
えっ、誰?本気で知らないんだが。
「本日はご足労いただきありがとうございます。楽しんでいただけていますか?」
「も、もちろんですよ。盛大で楽しいサンプル会ですね」
「そう言って頂き嬉しい限りです。我が社の製品はどれも自信作ですので、ただお披露目するだけではなく、ご参加頂いた企業様にも楽しんで頂けることをコンセプトに作り上げております」
「大変楽しませてもらってます!お祭りみたいで、仕事に来ているのを忘れちゃうくらいですよ」
「ありがとうございます。本日催し物を立案致しました企画部の方にも一報を伝えさせて頂きますね」
彼はうやうやしく一礼すると、スッとその場から去っていった。
少しだけの会話だったが、夢みたいだったんだが。
喋り方が丁寧で、カルデア商事の人なのは分かったが、やっぱり誰だか思い出せない。
う〜ん、、どこかで見た気はするんだかなぁ……
後輩も何処かに行ってしまったが、探すのが億劫で。
広い館内だから、マジで無理。
爆音で音楽も流れてるから、お子様みたいに館内放送とか無意味だろうしなぁ。
仕方ない、ウロウロしながらなんか見て……ん?さっきの彼だ。
ステージの端にある人と何か話してる。
いつもならスルーするところだけど、つい見入っちゃうのはあの人がやたら好みだったからか。
相手は厳つめな背の高い男。
スーツだから警備じゃないけど、シークレットサービスみたいな全身黒の装い。
何話しているんだろうと気になったけど、距離もあるし、ステージの音楽で全然聞こえてこない。
不意に彼の目から涙が溢れた。
えっ?何!?
周りもちょっとざわついてる。
アイスブルーの瞳からポロポロと落ちる涙を、救い取ろうとした手を、男がその手で防いだ。
全然会話は聞こえてこないけど、男が彼にやたら恐い表情で叱責している。
彼は泣きながら謝ってるみたいだけど、掴まれた腕を引っ張られてステージの影へと連れ去られて行った。
何の修羅場!?
もう周りも同じ気持ちなのか、気づいたハラハラしている人数名。
見守るように数人がステージの影に視線が動いてない、異様な光景だった。
「先輩!何してんスか?」
その緊張を一気に吹き飛ばしたのは、のんきな後輩の一言で。
いつ帰ってきた?
そしてその手にしている、割と大きめなぬいぐるみは何なんだ?
「コレですか?期間限定のメジェド様人形ですよ!かわいいでしょう〜」
「いや、仕事に関係ないものに、サンプルチケット使うなよ」
「違います!正式販売してたのを買ってきただけです。彼女がこのシリーズ好きなんですよ〜」
また嬉しそうに彼女自慢か。
そりゃあ、期間限定な上に先行発売なら気になっても仕方ない気もするが、これからまだ回らなきゃいけないんだぞ??
「そうですけど〜…………あっ!!」
後輩が大きな声をあげ後ろを見たので、つい振り返った。
そこには、先ほどまで泣いていた彼がいて、心臓が飛び出るくらいびっくりした。
先ほどと違うのは、綺麗なアイスブルーの瞳が濃い目のサングラスで隠されていることか。
薄ら分かるのだが、せっかく綺麗だった瞳の色が見えなくて残念……
…………ん?どっかで見たことある気が…………
「今日はお招きいただきありがとうございます」
「杉浦様、高木様。こちらこそご足労頂きありがとうございます。おや、メジェド様人形買えたんですね。サンプル会にお誘いした甲斐がありました」
「どうしても欲しかったので、先行販売に参加できて本当に助かりました!マックスウェルさんがサンプル会に誘ってくれなかったら予約落ちしてたところでしたよ〜」
あっ………………!!
営業部のマックスウェル!!?
その時思い出した。
確か始めに対応した時、名刺交換したんだ!!
飛び入りで営業に来たのに、サングラス外さないうさんくさん人だと思って、その後の対応を後輩に丸投げしたことを思い出したのだった。
「あれ?マックスウェルさん、いつもとサングラス違いますね。もっと濃いの付けてた気が……」
「今日は初めてコンタクトにしてみたんですが、あまり相性が良くなくて……このサングラス借り物なんですよ」
何でも、コンタクトは目が痛くなってしまったので、同僚に取ってもらったとか。
泣いていたのは、別に修羅場ではなかったらしい。
一安心……と思った矢先、周りから安堵の声が聞こえてきて。
みんな気になってたんだな…………。
「取ってくれた人ってもしかしてマックスウェルさんの良い人、なんですか?」
なんてこと聞くんだ後輩!!
ほら、凄く困った顔をしてて、
「……はい、大切な人です」
少し頬を染めてそう呟いだ。
はい、失恋確定です。
想ってから玉砕まで早くないですか?
この世は神も仏もいないのか!!!
「まだまだステージや試食会などイベントは目白押しですので、楽しんで行ってくださいね」
彼は一言残すと、黒髪の男の所へと戻って行った。
営業している時の笑顔もいいが、ラフに笑う微笑みもやたらかわいいな。
「なぁ」
「ん?何ですか先輩」
「担当変われ」
「嫌、で、す!」
「お前彼女いるんだろうが!」
「先輩絶対マックスウェルさん狙ってますね!?あの人恋人と同棲しているから狙ってもダメすよ」
「はあ?何でそんな内情詳しいんだよ!?全部教えろ!」
「え〜どうしよっかな〜」
すっとぼける後輩にしばらく頭が上がらないだろう。
忘れたくても忘れられないサンプル会になったのだった。
「お疲れ様でした信長様!!」
信長様をご自宅までお送りした後、帰路に着く車の中で今日のことを思い返していた。
今日は定期的に行われる、カルデア商事のサンプル会だった。
もちろん主催はカルデア商事で、企画を信長様率いる企画部が取り仕切っていた。
たくさんの催しや、ステージなど打ち合わせ通りに事が進み大きな事故もなく無事打ち上げまで終えられてホッと胸を撫で下ろしている。
その途中でアクシデントも発生したが。
まさかマックスウェルがサンプル会に来た事には驚いた。
いや、来る事は度々あったし、担当企業への挨拶も兼ねているのは知っている。
だからって、何で今日コンタクトで来た!!?
医療用の瞳孔に遮光性のあるコンタクトを買ったのは前から知っていたが、何も今日つけなくても。
『明智さんにびっくりさせたかったんです』
とサプライズの言葉を発する彼が顔が輝いて見えて。
いつもサングラス外せるのは、暗いところだけだからそのせいもあるが……
あの笑顔は反則級に可愛いだろ!!
めちゃくちゃ周りの人間が、彼に釘付けだった事に対しては全然自覚なし。
一緒に来てた岡田も止めろ!!
焦る私を見に来たとか、すごく嫌な笑い方してたなあいつ……
そうしている間に、彼の目からぽろっと涙が。
心臓が戦慄したのを覚えている。
彼を泣かせるなんてなんて事を!と周りから変な圧が掛かったんだぞ。
『すみません、目が痛くて……』
と目を擦ろうとするもんだから、慌てて止めた。
角膜が傷ついたらどうするんだ!!?
視力まで落ちたら洒落にならない。
慌ててステージの影に引っ張っていくと、遮光用に来ていたコートを彼に掛けた。
何でもコンタクトをつけるのに30分ぐらい掛かったらしく、恐らくドライアイになったのだろう。
ただでさえ慣れてないのに長時間つけようとするから。
慎重にコンタクトを外して事なきを得たが、これからは事前連絡するようにと釘を刺した。
聞いてたら目薬とか点眼液とか準備したんだし。
えっ、サングラス忘れた!!?
仕方ないと、代わりに私のサングラスを渡してやった。
普段使っているものより遮光性が低いが、コレで我慢してもらわねば。
去り際に、彼は小さく唇を重ねてくれた。
サプライズまでしようとした可愛い恋人の存在に、嬉しかったのも事実だし。
こんな事で絆されてるわけじゃないからな!!
打ち上げで岡田に、チョロいと言われた事をつい思い出しのだった。
後日、マックスウェルは急に仕事が増えた。
取引先が多くなったのかと思いきや、それだけでなく何処からかオファーがあったとか。
本人は『私に何を求めているのでしょうか?』と首を傾げていたが、絶対サンプル会に来た者たちに目を付けられたのだろう。
社長が引き受けたもの以外は仕事をする気がないらしく、営業廻りがやりやすくなったと喜んでいたりする。
その社長が、今度営業部のメンバーでアイドルやらない?と持ちかけていた。
どこの入れ知恵ですか社長。
とりあえずマックスウェルに、坂本宛の手紙を渡しておいた。
ん?内容?
軽い忠告を、分かりやすくまとめておいただけだ。
あのサンプル会では、マックスウェルにも視線はあったが、隣にいた岡田にもかなりの注目が集まっていたので、その辺を詳しくSNSの投稿付きで。
坂本は独占欲強いから、グループアイドルはたち消えになるだろう。
マックスウェルがピンで?
そんな事私が許すはずがないだろう?
可愛い恋人の手綱はしっかりと握っておかないとな。
終わり
実は春先に出来ていたのですが、なんだかんだで放置してました。
カルデアで明智に振り向かないせいか、現パロはマックスウェルが明智のことを好きすぎる気がする。
その分明智の独占欲は天井知らずなので、要注意なんですがw
書いていた時に読んでいた小説の影響をモロ受けておりますw