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    shimanyan112

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    shimanyan112

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    『運命なのに相容れない二人 2』
    FGO 以蔵×マックスウェル オメガバース設定なのでご注意ください。
    前回の続きです。
    今回は健全ですが、前回を呼んでいただけると話が繋がるかと。
    土佐弁は頑張りました!(毎回一番苦戦している)

    運命なのに相容れない二人 2「おい、早うしいや」
    「遅くてすみませんね。ですが気にしていただく必要はありませんよ」
    「おまんが遅いと置いてかれるき」
    「あなたも置いていって構いませんよ。待って欲しいと言った覚えは無いですから」
    「はあ?弱いくせに口だけは達者だな」
    「確かに私は戦闘向きではありませんが……っ」
    「足元がお留守やのう、ほれ」
    「結構です。歩きづらいだけで手を借りるほどではありません」

    売り言葉に買い言葉。
    前を行くアサシンは、にやにやしながら時折こちらを振り返る。
    親切というより小馬鹿にした様に伸ばされた手を、パチンとはたき落とすと足を踏み出す。

    山道は険しくまだ、日は高いというのに木々に遮られてか少し薄暗い。
    人が通った事がない獣道は、革靴では存外歩き難い。
    それでも先を歩くマスターたちについていく様に必死に歩みを進めるが、いつの間にか最後尾になっている。
    いつも研究室に篭っているからか、肉体労働は苦手な方だが、それでも歩くくらいでは足で纏にならないと自負していたのに。
    それが自分が概念英霊としての不完全さなのか、この忌々しいΩという性のせいかは分からない。

    ただ目の前の男を視界に入れるたびに、あの時が一瞬頭を過ぎる。

    彼から流れる香しい芳香が、思考を揺らす。


    番なんて信じていないのに。


    首に隠匿された首輪に触れるたびに、自らの運命を呪うのだった。



    ※※※※※※※※※※



    レイシフトの依頼が来たのは1ヶ月ほど前のこと。

    特異点が見つかればすぐにでも出動するほどに多忙なマスターだが、ここ最近はそんな特異点も事件もなく。
    多くのサーヴァントがいるカルデアでは、皆の育成や再臨の素材を集めるのも一苦労で。
    仲の良いメンバーで進めることもあるが、マスターは色んなサーヴァントたちが交流の場にして欲しいと思っている節もある。
    時代も生まれも違うのは当たり前だし、趣味嗜好が合わなければ会うことすら無い偉人達に近づくというのは不思議なもので。
    何度かレイシフトをしたが、その度に交流の輪が広がっているとは思っている。


    だが今回の相手が、自分がやらかしてしまった人物であるとは思っても見なかった。



    あの日を忘れた事は無い。

    甘い芳香に理性が吹っ飛び、気がついたらその体を蹂躙していた。
    欲望のままに貪り、自分のモノであるべきと歯牙を立てようとしたことも覚えている。

    そしてその後自分の事を拒否したことも。

    あの匂いは自分を惹きつける。
    何度かΩに触れた事はあったが、そんなの比では無いほどに欲しくなった。

    彼が目を覚ます瞬間までこれが運命の番なんだと思えるほどに。

    だからこそ、拒絶された時の絶望たるや。
    もう一生関わらないと思っていたのだが、レイシフトのメンバーとして対峙した際にもその甘い芳香に喉が鳴った。


    時折カルデア内で匂いを見つけた時、足が彼の方を向いてしまった事はもはやαとしての本能かもしれない。

    遠目に見ている時はいつも笑顔を絶やさないのに、自分を見るとそれが消える。
    サングラスの上の眉を歪めながら『何か御用ですか?アサシンさん』と皮肉めいた言葉を紡ぐ。
    それが許せなくて、つい口論するのが常になった頃には、互いの仲が悪との噂が立った。
    彼にとっては好都合かもしれないが、空腹な獣のごとく匂いを嗅ぐたびに惹かれるのをやめられない。

    そしてまた苦虫を噛み潰したような顔をされるのに、抗えない本能を呪うのだった。



    「マックスウェル大丈夫?」
    「…あ…ありがとうございます…」

    彼は礼を言うと、マスターから水を受け取り口に含んだ。
    あれから随分と進んだからか、彼の顔に疲労の色が浮き出て見える。

    「もう少し開けた場所があったら、拠点に出来るといいのですが」

    マシュが重々しい盾を下ろして空を仰ぐ。
    日は傾いてはいなかったが、鬱蒼とした木々は日を遮り、わずかしか光を落とさない。

    マシュを先頭に、盾で守るようにマスターが続き、その後ろをアンデルセンを背負った龍馬が続く。
    本当はわしが最後尾だったが、いつの間にか彼と入れ替わっていた。
    その方が風下にならず、匂いに左右されずに助かりはするのだが。

    「あんまりノロノロしていると日が暮れるぞ。作家をこんな森に引っ張り出したんならサクッと終わらせてくれないと執筆が滞るだろうが」
    「アンデルセン……せめて自分で歩いてから言ってよね」
    「何っ!?」
    「大丈夫ですよマスター。彼は軽いので僕も負担は低いですから」
    「龍馬が背中にずっといてずるいぞ。お龍さんが摘んでやってもいいんだからな」

    わちゃわちゃと、まるで子供が集まった遠足の様だ。
    何処にどんな奴がいるか分からない森の中で、こうも平和的な会話が出来るのはサーヴァントとしてかもしれないが、マスターも修羅場を潜り抜けすぎてて麻痺してるんじゃ無いかと思う時がある。

    「どうしたの以蔵さん?」

    白いスーツを着た龍馬が振り返る。
    幼馴染みだけあってか、こいつは自分の事になると察しが良くて、逆に面倒で。

    「はよう刀を振りたいだけじゃ」
    「以蔵さんの活躍楽しみだね」
    「ふん!お龍さんのほうがいっぱいやっつけて、イゾーの獲物なんて残してやらんからな」
    「お龍がわしに獲物を取られるの間違いじゃろ」
    「じゃあ勝ったほうがカエル10匹な!」
    「お龍さん……以蔵さんはカエル食べないよ……」

    楽しげに話していたが、その瞬間空気が凍りついた。

    何かを感じ取った、と言う勘に近い危機察知能力。

    それは龍馬とお龍も同時で、言葉を忘れると静まりかえった森で辺りを見回した。

    「マスター……」

    マシュがマスターの方を確認しお互いにうなづくと、盾を構える。

    「ここじゃあ分が悪い……もう少し開けたところに!」

    その言葉に一同頷いた。
    龍馬がアンデルセンを抱えた直したのを合図に、マシュを筆頭に一斉に走り出した。

    その瞬間、後ろから獣の咆哮が森に響いた。

    威嚇も含めた鋭い咆哮は、耳が痛くなるほどで、それがただの1匹では無いのを示していた。


    「早ようせい!!」
    「私は大丈夫ですから……!」
    「やかましい!!」

    手を振り払おうとした彼の手首を無理やり掴む。
    先ほどまであんなに疲弊していたのに、こちらの素早さに彼がついて来られるはずもなく。
    追いかけてきた無数の音は段々と近づいてきて。
    自分だけなら容易く逃げられるのに、と思いつつも何故か握った手を離せず地面をひたすらに蹴った。

    痛みが走る。
    彼を引っ張っていたと逆の肩には、後ろの獣から飛んできたであろう石が当たったのだ。
    角が鋭利だったからか、羽織りに血が滲む。

    「以蔵さん!」

    後ろの彼から悲痛な声が上がる。

    「何や、おまんようやくわしの名を呼んだな」
    「そんな事言ってる場合ですか!」

    再度飛んできた石に気づき踵を返すと、彼を庇う様に抱き込み刀で叩き落とす。
    四つ足の獣ばかりと思っていたが、獣人も居るとは。
    人では無いが、人よりも単純な獣だからこそ動きは読み易い。
    投擲された石の隙間に、突進してきた獣を寸前で交わすと、その背中に一太刀入れた。
    獣の悲痛な鳴き声が響き、森に血の匂いが漂う。

    「わしに楯突くとは頭の悪ぃ獣じゃのう」
    「……私も援護します」
    「おまんはマスターについちょれ。すっと追いつくき」
    「…でも…………」

    再度彼に向けて飛んできた石を刀ではたき落とすと、マスター達が駆けて行った道へと彼を押し出す。
    言葉を濁してた彼だったが、守りながら戦うのがいかに困難なことかを分かっていた。
    一瞬迷った彼だったが、進んでいた道に向き直る。

    「……私もまだあなたに名前を呼んでもらってませんから」

    「おん、後でな」

    遠ざかる足音を耳に入れながら、刀についた血が振った事で地面へと落ちる。


    「死にたい奴は来い」


    木々の隙間からの一筋の光が刃を赤く写してた。





    「いだ、いだだだだっ!」
    「大人しくしてください」

    包帯の巻き方が乱暴だと思うのは気のせいだろうか。

    大きな傷こそ少ないが、羽織を脱いだ時に無数にあった傷は彼の手で綺麗に覆われていく。
    カルデアでなら自己回復もあるのだが、レイシフトしている今はそんな余力も無く。
    マスターの術式で一番損傷が大きかった脇腹部分を治せば、後は放っておいてもいいとは思っていたのだが。

    それでも白い指先が、自分の体に包帯を巻くさまはつい視線で追ってしまって。


    「無謀な事するからですよ」
    「終わったことやき……やかましいぜよ」
    「うるさく言わないと理解しないのは誰ですか?」

    再度ギュッと腕の所の傷口を包帯で抑えれられて声が漏れた。


    あの後獣との大乱闘を繰り広げたのだが、もちろん全部相手にしたわけではなく。
    もうやばい、と思ったさなか、参戦してきたお龍と龍馬によりことなきを得たのだ。
    もちろんマスター側も同じ様な獣に対峙したのだが、サポートが万全だったマスター側はそれほど苦労しなかった様だ。
    今は、たくさん出た素材の解体や、休憩をしているところで。
    獣よけに組まれた焚火の向こう側ではで、忙しそうにかつ楽しそうに会話をしながら行われているのが遠目で見えた。

    そんな中自分を手当てしてくれると進言したのが彼で内心驚いていて。
    解体などはどちらかと言えば、彼の分野だと思っていたのだが。

    手先が器用なのか、クルクルと丁寧に巻き、そして何故か少し乱暴に縛る。
    その繰り返しなのだが、喧嘩をしないでこんなにそばにいるのはあのとき以来で。
    時折香る芳香を気にかけながらも、彼がしてくれる事を見入っていた。

    「ほら、終わりましたよ」

    最後の一つを結び終えるのを確認すると、脱いであった羽織を肩にかけた。

    「……いつもあんな無茶するんですか?」
    「時と場合による……」

    自分だって何であんな事したのか分からない。
    ただ自分が傷つくのならいいが、目の前の彼が傷付けばもっと悲痛な事になる気がして。
    刀という絶対的な攻撃方法があるからこそ対峙出来るが、彼にはその手段が無い。
    それがいかに恐怖かは知っているし、そんな思いをさせたくなかったのも一因で。

    いや、ただ、この汚れを知らなさそうな彼を、あんな獣共に汚させたくなかっただけかもしれない。

    「レイシフト先でなければ、早く治るんですが残念ですね」
    「まぁ、仕方ないろうがよ」
    「あぁ、でも魔力を補充出来れば……」

    そこで彼が口を閉じる。
    不思議に思っていると、少し眉を寄せた後、ずいっと顔が近くなった。
    サングラスの奥が見えそうなほど近く、互いの前髪が少し触れ合う。

    「これは、応急処置の一貫ですから」
    「お、おん……」

    一瞬何を言っているか分からなかったが、寄ってきた顔を避ける事は出来なかった。


    唇に柔らかい感触。

    するりと唇を割って舌が滑り込み、こちらの舌先に触れる。
    じわりと温かみが互いの触れたところを中心に広がっていく。
    それは体の隅々まで伸びていくのを感じ、まるで枯れた砂漠に水を注いだかの様に染みていく。

    甘い。
    そして気持ちいい。

    一呼吸するだけで、甘い匂いが肺を埋め尽くす。
    肺が浸るほど吸い込めば、ここが何処かも忘れるほど思考が溶ける。
    柔らかくもねっとりとした舌を擦り合わせるだけで、快楽に似た物質が脳内に溢れた。

    もっと
    もっと欲しい。
    痛みを忘れた腕が伸びると、唇を離さない様に彼の後頭部を捉える。
    そちらから触れてきたのに、今度は逃げようとする舌を絡める様に捉えると呼吸を忘れて貪った。

    「………ぁ……ん………っ……」

    呼吸の隙間から漏れる彼の声すら動力源になり、求める事を止められ無い。
    どちらかとも分からない唾液が口端から漏れ、巻いてくれた包帯に染みていく。
    そんな事もお構いなしに、先刻まで刀を握っていた手が、彼のベストの下へと潜り込んだ。

    あの時をもう一度、と頭の何処かが囃し立てた。


    パチンッ!

    「何するんですか!!」

    焚火にくべられた薪が音を立てた瞬間、我に帰った身体は彼によって押し退けられた。
    思いっきり押されたからか、吹っ飛ぶまでとは行かなかったが見事に地面に転がってしまう。

    「何じゃ!」
    「それはこっちの台詞ですよ!!」

    彼はクシャりと乱れた髪に、洗い息をしながら衣服を整えていた。
    その顔は少し赤く染まって見えるが、それは焚火のせいなんだろうか。

    「おまんが始めたんじゃろうが!」
    「何を勘違いされているのか理解に苦しみますね」

    カチャッとサングラスを押し上げると、重いため息を吐いた。

    「大体けが人になんちゅう………ん?」

    体をガバッと起こして、不意に気がつく。

    ……あれ?
    痛く無い。
    先ほどまで包帯をキツく結ばれただけで痛みが走っていたのに、今体を起こしても何の痛みも感じなかった。
    ためにし腕を回してみたり、体を伸ばしてみても不調は無く。

    「内側から魔力で傷口を繋げました。無闇に動かさないでください。あくまで仮ですので」

    彼はすくっと立ち上がると、こちらには視線すら合わさず立ち去ろうとする。
    だが、慌てて去ろうとする寸前の指先だけを捉えた。
    軽く触れただけなのに、彼の歩みはピタリと止まったのだ。
    まるで、捉えるのを良しとする様に。

    「まだ何か?」

    「マックスウェル」

    名前は知っていた。
    でも口したのはこれが初めてで。

    「おおきに、な」

    その時甘い匂いが変わった。
    好みを詰め込んだ様な香りだったのだが…。

    それよりもずっと濃く、舌ですらその香りを味えそうなくらいで。


    「…………まだ戦闘があるかもしれませんから……私のするべき事をしただけです」


    するりと手から白い指先が抜けていく。
    それがほんのり熱く感じたなんて自惚だろうか。
    少しよろけながらも、マスターの元へと去っていく彼の後ろ姿は、むしろ戦闘でなくても危なげで。
    彼の残り香を肺に収めながら、この身を呈して戦えた事に喜びを感じたのだった。


    「わしの番はまっこと愛いなぁ」


    言葉は誰にも聞かれることなく、焚火の煙と共に空へと消えた。




    彼には避けられても、罵られてもいい事をした。

    言葉を交わすことすら有り得なくて、それでも彼の言葉が聞きたいとつい憎まれ口を叩いてしまう。
    自分がどれだけ不器用かと嘆いたが、彼もまた同じなんだと薄々気がついた。


    つい有り得ない未来を口にしてしまうほどに、渇望してしまうなんて。


    もし一縷の望みがあるならばと、つい互いの先を夢みてしまうのだった。




    ※※※※※※※※※※※※※




    カルデアは広い。
    たくさんのサーヴァントが在籍し、スタッフもそれなりにいるはずなのに廊下はあまり人通りが無い。
    だから、一瞬感じた匂いを見つけてしまうのは、仕方がない事で。

    全ての好みを詰め合わせた様ないい匂い。
    特筆して趣味嗜好があるわけでは無いのだが、これだけは脳が別格だと告げる。
    だから、足がそちらを向いてしまう事は何ら不思議では無いという言い訳。

    歩むのに目的はある。
    研究室で籠もっている事も多々あるが、それだけでは知見を広げられないと、他のサーヴァントからも色々と学んでいる最中で。
    だから、歩むのが目的ではなく、目的のために歩んでいるという思考の変換。

    「何じゃ、また 逢うたなぁ」

    これは偶然だ。
    それか、彼が誘蛾灯の様に私に寄ってくるだけだ。

    「何か御用ですか、以蔵さん」

    キツく突き放す様な口調なのに、何故か彼は嬉しそうで。
    その様な性癖は無いので理解に苦しむが、指摘すればまた口論になりそうで口を継ぐんだ。

    仲が悪いと噂されるほどに、周りの評価はあまり良く無い。
    会うたびに口喧嘩にも似た言い合いをしているのだから仕方がないのだが。

    だが、レイシフト以来つい口にしてしまう憎まれ口が減った様な気がする。

    「わしはこれからアサシン共と飲みに行くだけじゃ」
    「では私はこれで失礼しますね」
    「あぁ、おまんも飲みに来るか。まぁ酒呑の酒を飲めるならな」
    「貴方は酒癖が悪いので遠慮しておきますよ。巻き込まれては堪りませんので」
    「ん?…わしがおまんの前で飲んだことあったか?」

    失態に口を結んだ。
    これでは鈍い彼にも分かってしまう。

    匂いに釣られて時々彼を見ている事を。

    運命とか信じてないのに、どうしても歩みを止められないでいるなんて、彼には知られたく無くて。

    「……界隈では有名ですよ。少しは節度を守って飲んでみては?」
    「余計なお世話じゃ!見るからに下戸なおまんにはお酒の味も分からんじゃろうがなぁ」
    「勝手な妄想で決めつけとは……まぁ、嗜好品に興味はありませんので」
    「酒飲みを知らんなんて人生半分損しとるぞ」
    「そんな無駄な人生歩んでて楽しいですか?」
    「ふん、わしはおまんよりかは楽しい事知っとるけえ余計なお世話じゃ」

    彼が近づいた途端、ふわりと香りが鼻腔をくすぐる。
    浸りたい程にいい匂いなのに、私にとっては思考を揺るがす危険な匂い。

    それはあの時の応急処置と銘打った口付けで理解したはずなのに。

    「何ならじっくり教えてやってもいいぜよ」

    後数センチで触れそうな唇に、ドクン、と心臓が高鳴る。

    触れられるのは怖いのに、今、この時、緋色の瞳を前に動けないでいた。


    彼との思い出は初めての苦痛ばかり。
    それなのに、近づく事を良しとしている自分は、どこかネジが外れている気がして。

    運命を許容することすら出来ないのに、振り払う事も拒絶する事も、もう出来ないほど彼の匂いに浸かっている。

    それでも許せないことがあるから、私は一歩を踏み出せないでいるのだ。


    「おっと、集まりに遅れるき、それはまた今度な」
    「…………勝手に決めないでください」

    癖のある前髪の隙間からニヤリと笑う顔。
    全てを見透かされている様な真っ直ぐな瞳に、鼓動が早くなる気がする。

    「ほんなら、またなマックスウェル」

    するりと距離を取ると去る彼に、言葉を投げかけることが出来なかった。


    「……『また』ですか……」

    ポツリと呟いた言葉。

    それは誰も居ない廊下の壁に吸い取られて行った。


    やるべき事は膨大な量なのに、思考を埋めるのは要らないと思っていたことばかりで。

    歩みを進める足は、決まった道を歩くためにあるのに、これでは迷子の猫の様。

    感情すらまだ全て理解出来ていないのに、言葉に出来ないわだかまりが渦を巻くのだった。





    平行線だった二人はまだ交われない。

    だが、少しだけ歩み寄った互いの位置は、傾きを見せている。


    いずれその先が見えた時、運命という言葉を知るのだろう。




    終わり
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