chronoscope 時間を、読もうとしていた。
世の中には未来の日付と曜日をすぐに言える人がいて、未来のカレンダーが見えるらしいと聞いたことがあった。もしかしたら『時間』も目に見えたりしないかと、ぼうっと虚空を眺める。視界には、壁と天井、空調のダクトカバーが映っている。それ以外には、何も映っていない。
運命の糸という表現がある。女神たちによって糸が紡がれて、やがて長さが決められて、決まった長さで糸は切られる。それが人間の生から死、過去・現在・未来を決めるとかなんとか。そんなもので、決められてたまるか。
――運命なんて言葉は、大嫌いだ。
たった二文字で大切な命を、何もかもを、諦めたくはない。
仮に運命というものがあったとして、誰かが描いた筋書き通りに進むことを良しとしたりはしたくない。だから、ひどい怪我をしたり死んでしまう運命の人を全員助けたいと思っている。
そう言うとターゲットに感情移入しすぎだとか、みんなはおれのことをやさしすぎると言うけれど、本当のところ、おれはそんなにやさしくない。
ターゲット全員を助けて、助かってよかったと、安心する姿を見たい。ヒーローの真似事でもいい。助けられてよかったと思いたい。振り返ると、少しでもそう思っている自分が居たりする。おれはやさしいんじゃなくて、きっとワガママなだけだ。
しばらく眺め続けている虚空には、やっぱり何も見えてはこない。変わらず壁と天井、空調のダクトカバーがあるだけだ。なんとなく未来の日付や『時間』というものが見えたら便利かなと考えたけれど、やっぱり見えないものらしい。それともおれの中の時間が、四年前の光景で止まっているからなのか。
あれからもう四年も経ってしまった。いや、まだ四年しか経っていないはずなのに、体感ではもっとずっと長い時間が経っているように感じている。長い間時間の狭間で迷子になって、おれたちはあのまま一度も家に帰れていない。あの日、いつもどおり家に帰れるはずだったのに。
『クロノさーん。そろそろ夕食の時間ですよ』
視界の右側からスマホンが飛んできて、夕食時だということを教えてくれた。
「おー。じゃあ食堂行くか」
おれは座っていた床から立ち上がって、スマホンと一緒に食堂へ向かった。