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    marushu_tw

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    バレンタインの左寂
    バレンタインポストに頂いたチョコをネタにさせていただきました

    #左寂
    leftSilence

    天秤を傾けたのは、小さなライター寂雷がそれに気づいたのは、自分では使わない灰皿を片付けてしまおうとした時だった。
    古くも質の良いジッポライターが、柔らかな銀色の光を湛え、陶器の灰皿の横で静かにその存在を主張している。
    (今度は、ライターか)
    左馬刻は寂雷の家に来ると、何か一つ忘れ物をしていく。その度寂雷が「忘れ物だよ」と連絡を入れ次に会う日を決める。――お互いに、何も気付かないふりをして。
    ちょっとした好奇心で寂雷がライターを手に取ると案外重みがあり、手に吸い付くように馴染んだ。よく手入れされた愛用品だということは一目瞭然で、普通なら忘れるようなものではない。
    (彼も、そろそろ痺れを切らしてしまったのかもしれないな)
    一つ息を吐いた寂雷は携帯端末を手に取り、メッセージを送った。
    『ライター、忘れていたよ。
     もし空いていたら、一四日に会えるかい』
    仕事鞄の中に隠していた小さな包みを取り出し、返事が来るのを待つ。つい買ってしまったが、一五日に自分で食べてしまおうと思っていたチョコレート。これを渡したら、左馬刻はどんな表情をするのだろうかとぼんやり考えていたら、端末の画面が光った。
    『空いてる。
     こっちに来るなら、甘いもんに合うコーヒー、淹れるぜ』
    どくどくと動き出した心臓を宥めながら了承の返事をする。心地よい距離を手放して手に入るのが良いものだけとは限らない。それでも、この瞬間は、幸せな期待の方が上回ってしまった。
    ライターと小さな包みを大事にしまって、今度こそ灰皿を片付けようと手に取る。その内、いちいち片付ける必要も無くなるかもしれないな、と思いながら流し台に向かった寂雷の頬が赤らんでいることは、本人すらも、気づかなかった。
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