「おじたん!」
「……いって」
鏡を抜けて足が見えたとたんにチェカは駆け出した。ゆっくりとブルネットの髪が鏡の前で揺れる。見慣れた鮮やかな制服に向かって、チェカは地面を蹴った。ドサッと鈍い音を上げてお日様みたいなその色目掛けてチェカは飛びつくと、頭上からは低い声が降ってくる。
ぎゅうと抱きつくと懐かしい香りがふわりと立ち込める。優しい眠たくなる匂い。チェカは嬉しくてさらに力を込めて、胸いっぱい甘い香りを吸い込んだ。
「ジャマだ」
「わー!やだやだ!」
ぎゅうと抱きついていたはずのチェカの体がふわりと浮かび上がる。あったかいもいいにおいも、チェカからどんどん離れていってしまう。やだやだと手をぱたぱたと伸ばしても、あの鮮やかな色はもう触れない。
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