2人の則宗さんがいる本丸の続きちょっと。「…ねぇ…どうすんの?アレ。」
アレと指さす清光の先には中庭。そこで短刀たちが鬼ごっこに興じている。あぁ平和だ。可愛らしい声が午後の平穏を…
「あーるーじ。現実から逃避しないで。そっちじゃ無くあっち!」
パチンと赤く綺麗な指先でおでこを弾かれ、額を抑える。
「痛いよ…清光。」
私の訴えは溜息一つで無かったことにされ、再び指し示されたのは、中庭の向こうに見える縁側。そこで向かい合う二つの背中だった。
共に背中に描かれているのは大輪の菊花。そして背中に流れる柔らかそうな薄金の髪。だがその背中にある金は右と左でまるで違っていた。
右の彼が肩を揺らせば背中で揺れるのは尻尾のような一房。
左の彼が肩を揺らせば、細いひとふさがかすかに揺れるのみだ。
そんな2人の間にあるのは碁盤。
あの日からというもの2人がこうして碁盤を挟んで向き合う姿を幾度となく見ている。
勝負は五分五分。どうにも共に決定的な勝敗はついていないらしい。
「……あ……」
どうやら今日の勝負がついたのか、右の彼が扇子を開いて立ち上がった。
ゆらりと揺れた髪の向こうに、首筋を惜しげもなく晒して去っていく。
右の高い位置に髪を結った一文字則宗は、数日前に顕現した一文字則宗だ。