それは致死量の蜜に似て ああ、眠い
目の奥はずんと痛み、頭はぼんやりと重い。寝不足を訴える頭痛が眠いはずの頭をガンガンと叩いて眠りを妨げる悪循環。
目を閉じていても意識は覚醒と睡眠の境をゆらゆらと揺蕩うだけで、暗闇の底へと落としてくれない。
いつから眠れないんだっけ。
どうして眠れないんだけ。
いつも眠るためにどうしていたっけ。
眠る前にやらなきゃ行けないことがあったはずなのに。
思い出そうとしても眠気と痛みが邪魔をする。
なのに目を開けたくてももう体の疲れは限界で、瞼を持ち上げることも困難だ。目の前の暗闇に浸りたいのに浸れない。逃れたいのに逃れられない。矛盾だらけの感覚と思考。
ぼんやりとした感覚のなかでゆるりと頬を撫でた温もりに意識が引き寄せられた。
重い瞼の中、身体の感覚だけで抱き起こされたのを感じる。
そのまま身体を包んでくれる確かな温度。
それの擦り寄るように身体を預けて力を抜く。と唇がやわらかいものに覆われる。
ちゅうと吸いつかれるたびに吹き込まれる温かさに意識が溶ける。
どんなに願っても沈み込むことができなかった静かなる眠りの闇へとどぶんと意識が落ちていく。
ああ、これだ。
自分が欲しかったものは。
もうこれがないと眠ることさえできない。
限界を訴える意識と身体が、望んでいたものを与えられたと理解した途端に分離した。
苦しげに唸っていた身体から完全に力が抜けたのを確認して、ゆっくりと腕の中の身体を布団に横たえた。そして静かにゆっくりとした呼吸を繰り返す胸元を確認して小さく口端を上げた。
眠る前の儀式のように、毎日続けていた口付け。いつの間にかそれをしないと眠ることができなくなってしまったようだった。
「あーあ。俺がいないと眠ることもできないなんて、かわいそ。」
そう呟いた声が闇に溶けた。