ある日の朝 その日は、一気に気温が下がった朝であった。
「少年、起床の時間だ」
アオガミが腕の中で縮こまる少年に呼びかけるのは、幾度目か。
ベッドの上、一枚の布団の中。アオガミに呼びかけられては都度返事をする少年であるが、彼が眼をしっかりと明ける気配はない。それどころか、じわじわとアオガミとの隙間を埋めていく。今ではぴったりと、アオガミの胸もとに両手を添えてくっついていた。
「アオガミ」
「何だろうか」
「さむいから、おきたくない」
呂律が回りきっていない少年からの懇願。無論、アオガミが既に察していた事実であった。
「ならば、直ぐに暖房をつけよう」
少年の体調を慮り、なるべく少年が外気に触れないように布団から出て行こうとするアオガミ。けれども、彼の行動は即座に止められるのであった。
「駄目」
先ほどまでとは異なりハッキリとした少年の一言。アオガミが胸元に視線を向けると、しっかりと見開かれた緑灰色の瞳と視線が合った。
「駄目、だから」
離れないで、と微かに動く桃色の唇。
少年がそう望んだのだ。ならば、アオガミは――。
「承知した」
離れず、しかし、少年を暖めるために。
寄り添う少年の痩躯に腕を回し、しっかりと彼を抱きしめるのであった。
「これで寒くないだろうか」
互いの息がふれ合う程の距離。
「少年?」
アオガミが問いかければ、はっとしたように微かに頬を赤らめた少年が素早く頷きを繰り返す。少年が寒さをもう感じていない様子に対して、アオガミはほっと小さく息を吐き出すのであった。
「……俺、目が覚めちゃった」
「では、起床を?」
「それは、まだ」
――もう少し、このままで。
少年の呟きに対し、アオガミは僅かに彼を抱く力を強めて応える。
晩春にしては寒い、ある日の朝。
ふたりきの時間はもう少しだけ続くのである。