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    A_wa_K

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    2013年に書いたフリンについて話す三人組の話です。
    ※pixiv掲載作品。

    ラッキー・ハイティーンズ「よぉ、お前ら。ちょっといいか?」
     殺伐とした気配が常に漂う東京の中、唯一かもしれない“人間”の活気な喧噪に包まれている場所、人外ハンター商会。そこの管理を一任されている店主の男性が並んでカウンターに腰を下ろしている二人の少年と一人の少女に声を掛けたのだった。薄汚れた防具が目立つ周囲から明らかに浮いている子綺麗な格好をしている三人組である。
    「えっと、僕たちでしょうか。」
     店主に応えたのは二人の少年のうち、服の着こなし方からしても“真面目”と判断されるだろう少年。彼はこの東京の人間ではなく東のミカド国のサムライ、名前をヨナタンという。ヨナタンから返ってきた返答に店主は頷き返す。
    「ちょうどあいつがいないからな。」
    「あ、フリンがどうしたって?」
     いかにも丁度いい、というニュアンスで口を開く店主に自ら突っかかって行ったのは残りのもう一人の少年。こちらはヨナタンとは正反対にお揃いの服を着崩して身に纏っている。同じ服装、と述べたように彼もまた東のミカド国のサムライ。名前はワルターという。ワルターは明確な敵意を持って身をカウンターから乗り出そうとしていた。
    「こら、ワルター。店主さんはあいつとしかおっしゃってなくてよ。」
     謎の液体が揺らめく、部分部分が欠けているグラスを手にしていた少女がやんわりと腰を浮かせたワルターを諌める。少女もまた少年たちと同じくサムライの任に就く者であり、名前はイザボーという。
    「そうだよ、ワルター。」
    「まぁ間違いなく、フリンのことだと私も思うけど。」
    「イザボー…。」
     次いで声をあげたヨナタンと共にワルターを席に着かせながらも、彼女は整った瞳を細めて目前に立つ店主に視線を向けるのであった。
    「そんなに殺気立てんなよ。別にお前らのリーダーを貶す話じゃねぇからさ。」
     サービスだ、とイザボーの殆ど中身が減っていないグラスに液体を追加しながら店主は三人の顔を順番に見ていく。サービス内容に眉間に皺を寄せながらも、礼儀として謝意を伝えるとイザボーはついにグラスから手を離すのだが。一方、店主の発言に首を傾げたのはヨナタンであった。
    「リーダー?」
    「ん、違うのか?俺からすればあいつが個性的なお前らを纏めてるリーダーさんに見えるんだが。」
    「あー…意識したことはねぇが、そうなのか?」
    「そうなのかしら?」
     フリン、とは現在この場にいない彼ら三人の仲間のサムライの少年である。
     彼は遺物を換金してくると露店へと向かった。然程量はないからと手伝いを進み出たヨナタン達には先に商会へ向かうように言ったのだ。その言に従い、三人はここで疲れを癒していたのである。 
    「あいつが中々の実力者だとは分かってる。でもよ、戦闘能力に関しちゃお前ら三人の方が絶対にあいつより上だろ。」
    「ええと、それは…。」
     言葉を濁したイザボーは苦笑を浮かべている。店主の発言に間違いはないからだ。
     彼ら三人は同じ年に儀式を経てガントレットに選ばれたサムライたちだ。誰かが意図せずとも同期ということで彼らは比較の対象となりがちで、序盤の訓練から競争染みたものもある。その中で好成績を収めていたのは常にフリンであった。
     しかし、店主の言うことに間違いはない。
     フリンは確かに場の判断力には優れている。が、戦闘能力は他三人に比べれば著しく低いのだ。銃を発見し、使うようになってからは全体攻撃可能な銃や威力の高い弾を使う事で補っているがそれで全てがカバーできるわけではない。むしろ些細な意識の補強レベルだ。剣は装備はしているものの先制攻撃を仕掛ける時しか使用されなくなっていた。加えてフリンは魔力が低いからとスキルを補助魔法や回復魔法に特化させている。攻撃は仲魔に任せてという戦法で効率的なのだが、彼単独では戦闘に対して、殊に攻撃面では非常に非力であった。
     仲魔たちやヨナタン、ワルター、イザボーがいなければフリンは満足に悪魔を打倒することすら出来ないほどに、弱い。
    「この、戦う力がなきゃ生き残れない東京でよ、なんであいつがリーダーやってんのかが単純に気になっただけだ。」
     であるから、店主の疑問はおかしくはない。戦闘能力の高さは悪魔が跋扈している東京では死活問題ともいえるのだから。
    「…そうね、確かにフリンがいる前でそんなことを言うのは失礼ね。」
    「いないから言っていいものだとは僕は思わないのだけれども。」
    「全くだな。」
     おそらく彼はどこぞのハンターからフリンたちの戦闘の様子を聞いたのだろう。フリンの戦闘を一見するだけならば店主のような考えに至るのも仕方ないと思う。とはいえ、彼は人格ハンター商会の店主だ。本気ではないことは珍しくにやけた口元から判断出来る。しかし判断出来たのはヨナタンと、おそらくはイザボーのみだろう。ワルターは威嚇体制を解いていない。意地の悪い方だ、とヨナタンはこっそり嘆息するのだった。
     一見でフリンの実力を測れない理由。なぜなら、フリンの絶対的な戦闘能力は攻撃ではない。
     類稀なる運の高さにあるのだ。
     攻撃すればほぼ毎回敵の急所をつつき、敵からの攻撃は寸前で避ける。三人の中では突出ほどはしてないものの素早さが高く、そして、何より幸運に恵まれたフリンならではの手法なのである。「なんとなく」で魔法から逃げることが出来てしまうのだ。殊に東京に来てからはそれが非常に実感できるようになっていた。
     最初はまぐれだと笑っていたワルターだが、フリンから「そういえば最近、俺滅多にバッドステータスにかからない。」と自己申告され、笑わなくなるのに時間はあまりかからなかった。ヨナタンやイザボーも運というものは確実に存在すると認めざるを得なくなっていた。
     と、説明すればこうなのだが実際は違うと三人とも感じていた。
     フリンをリーダーとする…いや、フリンに惹かれてしまう理由はただ一つ。
    「彼だから、かな。」
     ヨナタンがぽつん、と呟いた言葉に残りの二人も頷く。
     フリンは不思議な人間だ。とびぬけた戦闘能力もないのに、誰よりも強い少年。三人を惹きつけてやまない少年。悪魔の依頼ですら快く受けるほど深く広い寛容さがあり人が良すぎる一方で、誰よりも残酷な判断を下すこともある少年。
     三人は常にフリンの行動に賛同し続けているわけではない。都度都度、誰かしら反発をしてしまっている。これから先ばらばらになってしまうこともあり得よう様だ。でも、今は四人で共にいたいと誰もが――きっと、フリンだってそう思っていると確信を三人は其々持っていた。
     店主はよほど信頼されてるんだな、と呆れたような、感心したような言葉を残して三人に対する興味を失ったのだった。
    「悪い、待たせた。ちょっと銃の事で話しこんじゃって…。」
     それと入れ替わるようにフリンが商会の中へと入ってきた。ここでどんな会話が交わされていたかを知らないだろう彼はいつもの調子で三人へと近寄ってくる。
     三人は一度顔を見合わせてこっそり笑いあって、それから体をカウンターからフリンの方へと向ける。
    「待ってたぜ、フリン。」
    「おかえり、フリン。」
    「お疲れ様、フリン。」
     三人の揃った迎えに対して、一瞬きょとんとしたフリンだが彼は頬を弛めて彼らに応えるのだ。
    「お待たせ、皆。」

     ――この四人で一緒に旅が出来ることこそ何よりの幸運なのだと誰もが思いながら。
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