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    𝕃𝕚𝕖𝕣𝕖

    創作とか絵とか
    お題箱 https://odaibako.net/u/Liere_kir

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    𝕃𝕚𝕖𝕣𝕖

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    お題箱に頂いた書き出しから書きました ありがとうございます!!!! 書き途中になってたやつを換骨奪胎しました

    ##ヴィオラ・ルトストレーム

    The nearest fixed star「星が綺麗ですね」
     社交場の喧騒から離れた、静寂のバルコニーにて。夜空を讃えるヴィオラの呟きに、隣の男は分かりやすく肩を強張らせた。
     ギギギ、と軋む音が聞こえてきそうな程ぎこちなく彼女へ振り向き、
    「……それは……お前の方が綺麗だ、とか言った方がいいやつか……?」
     ムードもへったくれもない返答をした。
    「花火じゃないんですから」
    「そ、うか……」
     流石は交際経験に乏しい副団長さまである。ヴィオラは苦笑を溢した。部下の戯言なんて、適当に受け流せばいいのに。
    「いや、その……建前では、ないんだが……」
     難しいな、と副団長は困ったように頭を掻く。
     意表を突かれ、ヴィオラは目を瞬かせた。
    「──勿体無いお言葉です」
     胸に手を当てて、一礼。
     綺麗というなら、会場内の女性たちの方が余程華々しく煌びやかだろうに。ドレスでもなければスカートですらない、闇に融け込みそうな自身の格好を見つめながら、ヴィオラは内心首を傾げた。
    ──わたしは星じゃない。

     良家のご令嬢が苦手な副団長のために、ヴィオラはフィアンセ役を請け負っている。ベストにスラックスという男装と見紛う装いだが、その方が却って気が楽だ、むしろそうしてくれと頼まれたのだ。ヴィオラ自身も女性らしい格好は恥ずかしかったので、丁度良かった。
     とはいえ普段なら絶対に引き受けないのだが──取引材料に手合わせを持ち出されてしまっては、断る理由が無かったのである。
     壮麗な剣技と名高い副団長との一騎打ち。傍目では理解に及ばぬ体さばきを、この身を以て知るのだ──ああ、考えるだけでドキドキする。
     ワルツのステップより、剣術の足運び。
     菫青石アイオライトの首飾りより、研ぎ澄ました刃。
     守られるレディより、守る騎士。
     かつて戦災孤児であったヴィオラに、あまり少女趣味はない。だから、星より綺麗なはずがない。
    ──星より綺羅めくどころか、濡羽色の翳り、なのに。
    「ヴィオラ」
     副団長に名前を呼ばれて、顔を上げた。
    「先程の問いの……上手い返しを、考えていたんだが」
    ──え、未だに……!?
     否、彼は負けず嫌いであった。チェスは絶対に勝ち越すし、団員からの飲み比べの挑発に乗っては翌朝吐いている。妙な所で生真面目さを出すのは、副団長らしいが。
    「……思い浮かびました?」
    「ああ。俺が太陽でありたい、と思う」
    「太陽……ですか?」
    「ここで言う……星、というのは全て恒星だろう。自力で光る天体で、一番近い“星”は太陽だ」
    「……太陽は沈むじゃないですか」
    「それを言うなら月も星も沈むだろう。そもそも沈んでも関係ない」
     彼はヴィオラを見据える。
    「──俺はずっと、お前の一番傍で輝いている。見えない時は背中を預かっている」
     夜の帳が下りていても、その瞳は燦めく。
     まさに陽だまりのような温情だ、と思った。
    ──ああ。部下の戯言なんて、適当に受け流せばいいのに。
     ヴィオラは微笑んだ。

    「……星が綺麗ですね」
    「俺が太陽でありたいものだ」
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