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    すいぎんこ

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    すいぎんこ

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    セクピスパロのキスディノ。🍺はパンダ、🍕は狼。設定をつぎはぎしているので、雰囲気だけ感じ取っていただければ。

    モノクロームのゆりかご(キスディノ)※セクピスパロ

     その日は特に静かな夜だった。
     さっきまで何だかんだと人の気配があったイエローウエスト研修チームの部屋は、今やすっかり寝静まり、ベッドに入っていないのはついに俺一人となっていた。
     静かな静かな月夜は、きっとほとんどの人にとって穏やかで心地よい時間のはずなのに、どうにも俺には居心地が悪い。いつもなら通販番組を見て適当に眠くなるまで時間を潰すのだが、今夜はちっともそんな気分になれず、項垂れていた顔を上げると恐る恐る口を開いた。
    「キース、そっち行っていい?」
     そっと尋ねた声にのそりと動く影。互いのテリトリーを隔てる棚の奥で蠢くそれは、俺の声に小山のような体を持ち上げた。やがて振り向いたそれは白と黒の特徴的な模様を持った熊、ジャイアントパンダの魂元を持つキースだった。
     この世には二種類の人間が存在する。大多数を占める猿を元とする人類と、少数派の他の動物を元とする斑類。その比率は約七対三で、これは斑類が人類よりも繁殖力が極めて低いためだった。
     他にも、斑類はその本来の姿である魂元の姿と力を発揮できたり、魂現の種類によって重種・中間種・軽種の階級社会制だったり、低い繁殖力をカバーするために同性同士でも妊娠できるよう技術が開発されていたりと様々な違いがある。
     そんな大本は異なるものの、似通った見た目を持つ二種類の人間は人類が魂元を認識できないという特性を利用し、斑類はその中に紛れるようにして生きていた。
     そして魂元とはその魂を表すもの。言うなれば全裸に近い状態と同じだという認識があり、マナーとしてそう易々と曝け出すものでもないのだが、どういうわけかキースは自室でのみ魂元を晒した姿でいることが多かった。
     本人曰く「なんかこっちの方が開放感があって好き」とのことで、今夜もまた愛らしいパンダの姿を取った彼はくわ、と大欠伸を一つして、黒く縁取られた瞳で俺を見つめた。
     ――寝れねぇのか?
     そう問いかけるような優しい眼差しは、熊らしい鋭さを持ち、熊樫という強さを誇る種族とは思えないほど柔らかな色をしている。
     それにすっかり安心した俺は、とろとろと心が解れていくような心地よさとともにこくりと一つ頷いた。別に言葉にすることが億劫なのではなく、心の緩みとともに俺もまた魂元を晒していたからだ。ばさりと動く尻尾が毛布を乱し、体の上から温もりが消える。キースはまたのたりと体を動かすと、招くようにゆっくり両腕を広げて見せた。
     そう、まるでおいでと手招きするように。気づけば俺はカシカシと爪を鳴らして相手のテリトリーに入り込むと、人一人分には広いベッドに飛び乗った。
     ギシギシと軋むスプリングの不穏な音を聞きながら、広げられた腕の中に入り込めばふんわりと柔らかく抱きしめられる。
     白と黒の二色で構成されたキースの腕の中は、見た目より硬い毛の感触に煙草とアルコールとフレグランス、そしてキースそのものの香りに満ちていた。狼となった俺は、つい本能的にその香りを求めてピスピスと鼻を鳴らして嗅ぎ回る。濡れた鼻先であちこち突き回されるのはくすぐったいだろうに、キースは咎めることもなくただ静かに俺を受け入れてくれた。
     普段の怠そうに面倒ごとは御免だと一歩離れたがる彼が、こんな風に甘えさせてくれることが嬉しくて、ついつい口元を舐め回してしまう。犬神人の愛情表現は熊樫には馴染みがないはずだが、それすらも受け入れてくれるところに愛を感じ、ますます嬉しさが増していく。
     一通り嗅ぎ終わって満足し、顎を肩に乗せたところでようやく相手も動きを見せた。俺を抱いていた腕が背と腰に回り、そのままどたりと横倒しにされる。もちろん下は柔らかいベッドなので怪我の心配は皆無。むしろ子どものような少し無茶なやり方が楽しくて、尻尾がバタバタと動いた。イエイヌ系だったら、きっともっと派手に動いていたのだろうけれど、さすがにそこは狼の矜持としてほんの二、三回で留めておく。
     だが、そんな俺の小さな意地は、深く抱き込まれた腕の温もりで消えていく。俺を囲うキースの腕が、離れることは許さないとばかりに深く抱きしめてきたのだ。
     はた、と見上げた先には静かな瞳。ヒト型と同じくクリクリと緩やかにカールした毛の合間から覗く目は探るように、あるいは心配するようにじっとこちらを見つめている。
     ああ、またその顔だ、と言葉を持たない舌の代わりに、心の中で呟いた。
     俺がいなかった四年間……俺が洗脳され、イクリプスとして敵対していた空白の間に、キースはたくさん変わったところがあった。
     メジャーヒーローに昇格し、メンターとなり、酒と煙草の味を覚え、そして俺に対して過保護になった。なんだかんだで情に厚い男ではあったが、俺がエリオスに戻れてからというもの本当に過ぎるほどに心を砕くようになったと感じている。
     最初は熊樫らしい、お気に入りのものへの執着という程度かと思ったがどうもそれだけではないらしい。間抜けな話だが、それはブラッドに指摘され初めて気づいたことだった。
     あれは同期三人で飲みに行った時のこと。たまたまキースがトイレに行ってできた、ブラッドと二人きりの時間に「キースってば、熊樫だからかな? 最近過保護でさ」と雑談として漏らしたことがきっかけだった。
     ただの習性だろうと軽く見ていた俺に、ブラッドはひどく真剣な顔をして「それだけじゃない」と首を振って見せた。
    「ディノ、確かにアイツは熊樫だが、そんな習性だなんて話で終わらせてやるな。アイツは本当に、心からお前のことが大切なんだ」
     そう言ったブラッドの瞳は俺を責めるのではなくただただ切実で、普段理知的に振る舞う相手が、らしくもなく感情をむき出しにした様に戸惑った。
    「これはここだけの話にしてほしいが」と前置きをして語られたのは、四年の間、どれだけキースが必死になって俺を探していてくれたか。そして、俺を失ったことで、荒みに荒んでしまった心についてだった。
     俺の訃報を聞いたキースはとにかく荒れて荒れて……一時はヒーローも辞めて、そのままどこかに行方を眩ませ、最悪自死でもしそうな様子だったと言われた時、俺は心臓が止まるような心地を味わった。
    「あんな姿、二度と見たくない」とブラッドをして言わしめる言葉の重さに思わず言葉を失う。
     俺はキースは強いやつだから、たとえ俺がいなくなったことで傷ついたとしても、そこまで致命的なことにならないだろうと楽観的に考えていた。だが、そんなことは俺のそうであってほしいという希望でしかなかったのだと突きつけられたのだ。
    「だから、どうかディノ。キースの想いをそんな風に簡単にわかったつもりになってやるな。あいつにとってお前は、文字通り生きる理由なんだ」
     グラスを傾けたブラッドの手の中で、氷がカラリと音を立てる。その小さく、しかしひどく耳に残る高音があの日から頭にこびりついて離れない。
     キースが俺を愛してくれている、その想いの強さに眩暈がしそうだった。
     今もまた、彼の腕に包まれながら、その眼差しに深く熱く流れる愛情を感じる。俺をこの世の辛さや苦しみ全てから守りたいと告げるような、優しくも苛烈な瞳。
     言葉がないからこそ、強く強く注がれる視線に胸の中の柔らかい部分が揺さぶられた。
     ――大丈夫、大丈夫だよ。キース。
     言葉の代わりに首を伸ばし、柔らかな毛並みに鼻先を埋める。大好きなキースの香りをたっぷり吸い込んで、クラクラするほどのフェロモンを感じながら俺は牙の収められた口元を舐めた。
     ――キースがいてくれるから、俺は大丈夫。
     体を起こして覗き込んだ瞳に、言葉ではなく視線で伝えた言葉。同じ熱量を返せているかわからないが、俺もキースを愛していることは変わらない。
     それだけでも伝わってほしいと見つめていると、やがて相手はゆっくり瞬きをして、そして身動ぐと無理やり抱き込まれて布団に寝かしつけられる。
     突然のことに、つい口からは不満そうな唸りが出るも、その黒い腕は再び俺をベッドに押し付けると寝かしつけの体勢に入った。
     ちょっと、と上げた抗議は黙殺され、笹を掴む器用な手のひらでぎゅうぎゅうと相手の毛並みに顔を押し付けられる。狼と熊では力の差があり、しかも今の寝転んだ体勢では圧倒的に熊が有利だった。
     結局キースの思惑通りそのまま眠るしかなく、それを少しだけ不満に思いつつ目を閉じているとゆっくりと動いた手がそっと毛並みを撫で出した。
     まるでヒト型の時のような動きを愉快に思いつつ、それでも反応するのが癪で黙って寝たふりを続けていると、不意に体を包む温もりが消えた。
     いや、消えたのではない。魂元を収めたのだと気づいたのは、背中に乗った小さくなった手のひらに感触に気づいたから。
    「もう二度と、お前を失いたくねえんだよ。……愛してるぜ、ディノ」
     吐息のように落ちたそれは、祈りのように切実で、そしてどこまでも深く染み入るような慈しみに満ちていた。再び重く体を包む白黒の姿に戻ったキースは、ずれた毛布を掛け直すと間も無く寝息を立て始めた。その間、幸いにも瞼の裏を濡らす涙がこぼれないよう、必死に息を潜めていたことを相手が気づくことはなかった。
     そうしてまた静寂に満ちた夜が訪れる。しかし間近にある穏やかな呼吸と心音のさざめきが孤独な夜を奪い去り、優しい腕に守られながら眠りへ落ちる。
     どうしようもなく愛されている、その泣きたくなるほどの幸せの中落ちる眠りは、どこまでも優しく温かかった。

     その夜、俺が見た夢は俺とキースと、キースの腕に抱かれた子どもの夢。白黒模様の子狼を抱いたキースが「こいつは間違いなく俺たちの子だな」と照れ臭そうに笑う、そんな御伽噺のような幸せなものだった。
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    すいぎんこ

    DONEブラオス小話。こしのさんの素敵イラストのネタをお借りしました。エリ雄本編とは違うような似たような、なんかふわっとした設定です。友情出演で、今回も🍺がいます。
    一発逆転ジャックポット(ブラオス)「ええと、普段の時給は16ドルです。でも今日はホールなので、もう少し高いとは思うのですが」
     大真面目に答えたオスカーの言葉に、男は珍しいマゼンダ色の瞳を大きく見開いた。その後ろからは馬鹿笑いと称して良い声量の笑い声。最近入ったという怠惰なディーラーの声を聞きながら、オスカーは困惑に眉を下げた。


     時は遡ること数時間前。いつも通りオスカーは己が勤めているカジノに出勤していた。オスカーが今身を置いているカジノは繁華街の路地を入ったところにある、まあ言ってしまえば「あまりよろしくない」類の店で、ブラックとグレーの間をギリギリ綱渡りしているような店だった。
     カジノとしても違法性が高く、バックにヤバい組織が絡んでいると黒い噂があるとかなんとか。それだけ知っていても、身寄りもないストリートチルドレン出身の青年を雇ってくれる貴重な店であるだけに文句は言えず、今日も彼はお仕着せのガードマンの制服に腕を通して配備位置に着こうと従業員通路を歩いていた。
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