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    すいぎんこ

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    すいぎんこ

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    セクピスパロブラオス編。
    と言いつつ、あまり元ネタを活かせていない感。
    前半はオ君がサブスタンス回収をしているだけです。ブラオスをお求めの方は、お手数ですがほどよいところまで読み飛ばしてください。

    #ブラオス
    #セクピスパロ
    sekpisPalo

    Over the rainbow(ブラオス)  その日レッドサウスストリートは豪雨に見舞われた。しかもそれは自然の天候などではなく、未知のエネルギー体サブスタンスによって引き起こされたものだった。
     数十分ほど前に突如として現れた積乱雲。人々が冬の最中に不釣り合いな空模様を訝しんだ瞬間、スコールのような激しい雨が降り出したのだ。ほんの数メートル先すら見通せないほどに厚い雨のカーテンはその後も容赦なく街に降り注ぎ、都市の排水機能が麻痺するのも時間の問題となっていた。
     もちろん、この異常事態にサブスタンスが絡んでいることを早々に検知した【HELIOS】は、対サブスタンス専門部隊であるヒーローたちに出動要請を掛けた。サウスセクターのヒーローたちは果敢に雨天の街へ向かうと、早速司令部と連携を取りながらサブスタンスの捜索に取り掛かった。
     バシャバシャと水を跳ねさせながら駆け抜ける一筋の光。それはオスカー・ベイルのもので、彼はその優れた機動力と動体視力を生かして広範囲の捜索に当たっていた。
     本来であれば研修チームの一員として己のメンティーたちと動くべきだが、今回は話が違った。何しろ雨雲はレッドサウスの半分を覆うほどに広く、迅速な解決が最優先されたからだ。幸い技術部のおかげでサブスタンスのおおよその位置は絞れているため、あとは発見するのみとなっていた。
     とは言え、そう簡単にいかないのがサブスタンスという物質の厄介なところなのだが。
    『オスカーさん、こっちにはないみたいです!』
    『クソ、こっちもハズレだ!』
    「そうか。俺の方も、今のところそれらしきものはない」
     インカムから聞こえるメンティーたちの声を聞きながら、オスカーは慣れ親しんだ街の地図を頭に描く。ウィルとアキラを向かわせたのは南東の住宅街エリア。雨で見通しは効かないが、比較的区画整理が進んでいるため見落とすことはないだろうと向かわせたが、どうやらそこではなかったらしい。
     一方、オスカーが駆けているのは古い建物の多い旧倉庫街。乱雑に建てられたビルに、舗装が行き届かないそこは、とにかく足を動かさないとくまなく探せない。だからこそ、機動力に優れたオスカーの出番だったのだが、未だ成果は上げられていない。
     その間も降り続く雨により、路地の端には太い川ができている。少し臭うのは下水が限界に近いからだろうか。嫌な想像に顔を顰めつつ、同時に己の体に起こりつつある変化にオスカーはグッと奥歯を噛み締めた。
     足を止めている時間はない。インカムにひっきりなしに入ってくる情報は雨の影響による都市機能の麻痺を懸念する声。避難誘導指示の入る地区の名前を聞く度、オスカーの胸に焦りが過ぎった。
     一刻も早く原因を突き止めないと、さらに被害が出ると寒さに震える体を叱りつけ、未だ姿の見えない相手を探し音速で駆け抜ける。
     そうして焦燥感を押しやり、無心で足を動かしていたオスカーの視界にそれは現れた。
    「あれは……!」
     雨に白く煙る中にきらめく光。不自然に瞬く藍色に急カーブを描いて近づけば、果たしてそこには巨大な鉱石が浮かんでいた。
    「こちらオスカー、サブスタンスを発見しました」
     オープン回線で伝えた一報に、電子回線越しにもざわめく司令部の空気を感じた。素早く位置を伝えると、近くにいるヒーローが向かうことが伝えられる。
     耳は指示音声を聞きながら、視線は相対する物体から離さない。目の前で光を放つ物体からは絶えず白い煙のようなものが立ち上っている。真っすぐに天へと向かうそれが雨雲を生み出していることは明らかで、そしてその煙はオスカーが対峙したときからわずかに変化を見せていた。
     立ち上るだけだった煙は次第にその量を減らし、代わりに辺りに霧が立ち込め始める。豪雨と霧によりますます悪化していく視界。グレイであれば能力の相性で絶好調となるのだろうと、気弱な今期最年長ルーキーの顔を思い浮かべる。
     だが今ここにいるのはオスカーだ。応援が来るまで今しばらく時間が掛かる上、瞬きは緩やかに移動を始めている。対処をしなければ、街への被害が深刻になるのは目に見えていた。
     かじかむ唇からフ、と息を吐き出す。わずか一息のそれは待機姿勢から一瞬にして体を切り替えた。
    「逃がさない!」
     気合を込めて叫んだ言葉に、サブスタンスはさらに高く浮かび上がる。己の前にいる生き物が敵対行為に出ることを察したための行動であったが、いかんせん判断が遅すぎた。
     目の前にいるのはソニックキラー《音速の殺し屋》。一つ光をきらめかせたそのわずかな間に、鉱石は激しい衝撃と共に地面に叩きつけられていた。
     地面と衝突したサブスタンスが立てる硬質な音が、雨音を切り裂き辺りに響き渡る。そのまま跳ねながら転がる石を追って振り下ろされた足は、ギロチンのような鋭さでガラス質のきらめきを削り取った。その欠片が地面に着く前に、さらなる追撃が加えられ次第に光は弱まっていく。それに比例するように雨粒は小さくなっていき、視界も晴れていく。
     今や最初の勢いを失くした鉱石に、オスカーはとどめとばかりに足を振り上げた。
    「終わりだ……!」
     叫び、振り抜いた足先。確実に芯を捉えたはずのそれは、突如発生した大量の水に阻まれる。
    「っ、なに!」
     跳ね上がった水しぶきの向こう、一等まばゆく光ったサブスタンスが最後の抵抗とばかりに周囲に水を集めた。
     差し込む日の光に眇めた瞳が映し出すのは巨大な水柱。不自然なその現象を前に、オスカーは対象が“豪雨を降らせるサブスタンス”ではなく、“水を操るサブスタンス”だったのだしと知る。
     物理法則を無視して出現した水の塊がオスカーに迫る。慌てて回避しようとしたが、踏み込んだ足をぬかるんだ地面に足を取られてしまい、しまった、と咄嗟に口を突いた言葉はあっという間に水に飲み込まれた。
     大量の水は流れることなくオスカーの周囲に留まり、相手の目的が自身を溺水させることだと悟った時にはゴボリと水泡が視界を埋める。
    「……っ! ……がぼっ!」
     抜け出そうともがいてみるも、渦巻く水は厚い防壁となり簡単に脱出を許しはしない。揺らめく視界の中、サブスタンスは弱いながらも瞬きを繰り返しており、力尽きるのを待つのは期待できそうになかった。
     それは仲間の救援を待つこともまた同じで、そして何より、水によって奪われ続ける体温はオスカーにとって死活問題だった。
     人より寒さに敏感なのは、何も感覚の話だけではない。オスカーはワニから進化したヒトである『蛟』の斑類だった。水中系の斑類は時に自律神経が弱くなることがあり、魂元がオリノコワニであるオスカーはその典型であった。
     体温が下がれば体が弱り、体が弱ればヒトの姿が保てなくなる。それは生死に関わる重大な弱点となるためひた隠しにしてきた秘密だった。
     冷えた体に浮かぶ鱗模様はその秘密を示す一端であり、そして命のリミットを示すように緩やかに体に広がり続けていた。
     まずい、という焦りが体温低下と酸素不足で鈍る思考を埋めていく。もがく手足は水中では威力をなくし、不安定な体勢ではヒーロー能力を発動することもままならない。
     息苦しさは増していき、同時に意識も朦朧とし始めた。それでも諦めることなく残された道を模索した時、脳裏に浮かんだのは幼い頃の記憶。
     ヒトと動物の入り乱れる視界、誰にも弱さを見せまいと常に神経を減らし続けた日々、その中で見た一羽の気高い鳥。
     ああ、あの鳥の名を今なら言える。
     生命の危機にあって、浮かんだ笑みをオスカーは知らない。己が笑ったことも知らぬまま、震える歯の食い縛り覚悟を決めて前を見据えた。
     引き締まった肉体がぶわりと輪郭を膨らませる。身を包んでいた衣服は剥がれ、縦に、横にと伸びた長大な影は人ならざる形を描き出した。
     それは本能を剥き出しにした闘争心。肉体は興奮に昂り、ヒトとケモノの境を超えていく。
     サブスタンスは目の前の変化に、一定の間隔で瞬いていた光を不規則に光らせ、あたかも生物のようにたじろいでみせた。だが、次にはこの生き物は水からは出て来られない、自分を追ってくるはずがないと、そう決めつけて弱った体で緩やかに移動を開始する。
     だが、その考えは激しい水音によって遮られる。
     ドッと弾けた水が四方に降り注ぎ、飛沫とともに飛び出てきたのは長い尾を持つ巨大な生き物。ぶ厚い水の壁を突き抜けたそれは質量分を水を纏って、鈍い音を伴って地面に着地した。
     現れた生き物は先ほどのものとは違う。サブスタンスがそう理解した時には、目の前には真っ暗な洞窟が広がっていた。
     否、それは巨大なワニが顎を翳したもので、ギザギザと凶悪な歯が連なる口が閉じられた時、藍色の鉱石は不快な音を立てて軋みながら捕らえられていた。
     もしサブスタンスに発声器官があれば、2トン近い咬合力で噛まれて悲鳴を上げないことなど不可能だっただろう。しかし実際は声を上げることも逃げることも叶わず、己の立てるギシギシと不快な軋みの音を聞いていることしかできない。
     それでもしばらくは往生際悪く足掻いていた鉱石も、やがて瞬きを弱め背後の水柱が崩れたのを最後に活動を停止した。
     その頃には真っ新に晴れた空から差し込んだ日差しが、ずぶ濡れの街を照らし出していた。
    「……捕獲、完了しました」
     己の口内で大人しくなったサブスタンスを吐き出すと、ヒトに戻ったオスカーは落ちてしまったインカムを拾い上げ、そう報告した。
     背後から聞こえる足音に震える体を叱咤し、なんとか散らばってしまった衣服を身につけた途端気が抜けたのか思わず膝をついてしまう。
     ガクガクと視界が揺れるほどのシバリングに、霞みがかった意識は低体温症になりかけていることに気づき、一刻も早く暖を取らなければと本能が訴える。
     寒さでまともに動かない体は今にも倒れそうで、しかしサブスタンスだけはと抱え込むと、ついにオスカーは力尽きて地面に倒れ伏した。
     水に濡れた地面は冷たく、加速度的に熱を奪われていく。寒い、と色を失った唇で呟くも、それは音にならずただ微かな息遣いとなって消えた。
     急激な眠気に瞼が落ちそうになる。だが気力を振り搾り堪えていると、遠くで自分の名を呼ぶ声が聞こえた。次いで聞こえてきた慌ただしい複数の足音と、そうして誰より早く駆け寄って来た主に気づくと、オスカーはひっそりと微笑んだ。




     目を開くと、眼前に広がったのは白く立ち込めた霧。
     思わず息を飲むと、ぼやける頭に蘇って来た記憶は雨の中の緊急出動のもので、次いで滴ってきた大粒の雫に確かにサブスタンスは機能停止したはずなのにと慌てて身を起こす。
     派手な水音をたてて立ちあがろうとしたオスカーの体は、突如背後から伸びて来た腕によって引き止められた。
    「どうした、急に」
    「ブラッド、さま……」
     驚いたように微かに高くなった声にはた、と意識を戻せばオスカーは今の状況を理解した。
     そこはあの雨に濡れた路地裏でも、混み合った旧倉庫街でもない。そこは見慣れたサウスチームのバスルームで、霧と見間違えたのはもうもうと上がる湯気だった。
     おまけに己が浸かっているのはあの命を脅かす冷たい水などではなく、適温に調整された湯。すっかり温まった体にもう不調の影はなく、全身に浮かび上がっていた鱗模様はきれいに消え去っていた。
     そして、クリアになった思考はこれまでのことを、完璧に思い出した。
     白昼の捕物劇は大規模な被害に及ぶことなく幕を閉じた。しかし大立ち回りを演じたオスカーは軽度の低体温症に陥り、生命の危機を打破しようと本能的に目の前の熱源を抱き込んだ。
     それが敬愛する主であると同時に、パートナーであるブラッドであったのは不幸中の幸いと言っていいのか……とにかく、オスカーはブラッドにその長い四肢を使って全身でしがみつき、地面に引き倒してしまったのだ。
     おかげで二人して泥まみれとなり、司令はオスカーの容体回復のためにも、後始末より何より、まずはバスルームを優先するよう指示を出した。
    「後始末と報告書は俺たちに任せろよ!」
    「アキラの言う通りです! ここは俺たちに任せて、しっかり休んで来てくださいね」
     とんでもないことをしでかしたと慌てふためくオスカーと、身なりを整え次第すぐに戻って来るつもりだったブラッドは、近頃すっかり頼もしくなったメンティーたちにそう言われ、かくして半ば追い立てられるように部屋に帰って来たのだった。
     そして、万一オスカーが倒れた時のためにと判断したブラッドの提案により、こうして二人でバスタブに浸かっていた。
    「あ……ええと、寝ぼけていたようです」
     思い出し赤面しながら答えると、後ろから「そうか」と短い相槌が返ってくる。上げていた腰をそろそろと下ろすと、すかさず回される腕。その持ち主がブラッドであることは自明の理で、触れ合う肌の感覚にぞわぞわとオスカーは寒さとは異なる痺れに震えた。
    「もう容体は落ち着いたようだな」
    「は、はい! おかげさまで、大分温まりましたので」
     するりと腕を撫でながらの確認は甘く、抱き込まれる体勢になったせいでより密着した肌に落ち着きなく答える。
     その間もブラッドの手のひらはゆっくりとオスカーの体の上を辿った。それはけして性的なものではなく、至る所に浮かんでいた鱗の有無を確かめているからだった。
     斑類は興奮時や睡眠時、そして弱った時に無意識に魂元が出てしまうことがある。特に自律神経が弱く、寒さの耐性が著しく低いオスカーは意図せず魂元が表出することが多く、普段から防寒も兼ねて極力肌を露出しないようにしていた。
     先ほど無意識にブラッドにしがみついたことを思えば、鱗だけでなく尾まで出てしまうほどには弱っていたのだろう。そのせいか、念入りに撫で摩るブラッドの手のひらはオスカーを気遣う優しさがあったが、受け取る側にとってはそれだけで済まなかった。
    「あの、本当に、もう平気ですから」
     ブラッドの優しさを辞退するのは心苦しかったが、このままでは己の欲がよろしくない方向へ転がり出すのを感じて蚊の鳴くような声で申し出る。
     後ろにいる相手の顔を伺うことはできなかったが、一瞬不自然に止まった手は何かを察したようにそろりと離れていった。
    「……わかった。だが無理はするなよ」
    「はい、ご迷惑おかけしました」
     ようやく解放された安堵に、竦めていた肩から力を抜けば、今度はするりと腹に腕が回る。驚きに目を見開いていると、そのまま深く抱き込まれ湯の中へ誘われた。
    「あ、の……っ!」
    「もう少し温まった方がいい。どうせ、今戻ったところで、アキラもウィルも納得はしないだろうからな」
     溢れた湯の音に重なるブラッドの声。そこに混じる呆れと諦めの色は、頼もしくなりすぎたメンティーたちを思い出してのことだろうか。
     だがそれよりも、とほぼゼロ距離となったことに慌てて振り返ったオスカーだったが、マゼンダの瞳が予想より近い場所にあることにたじろいだ。
     湯気に湿った前髪を後ろへ搔き上げ、いつもよりはっきりと見える相手の顔。常よりもどこか柔らかな表情をしたブラッドは、徐にオスカーの白銀の髪に口付けた。
     思わず目を閉じると、クス、と鼓膜を揺らす笑い声。喉と息が奏でるそれに湧き上がるのは恥じらいで、火照る頬を撫でながら宥めるように繰り返し口付けを与えられる。
     唇で触れて、時折髪を食まれるのを軽く引っ張られる感触で知る。犬神人のそれではない、二人きりのプライベートでのみ見せるブラッドからの愛情表現に胸の奥がじわりと熱くなる。
     ブラッド・ビームスが世間に認知されている魂元は犬神人重種のボーダーコリーだ。統率性に優れた犬神人と、知能が高いボーダーコリーの性質を体現したヒーローは、その整った容姿もあって絶大な人気を誇る。
     誰もが疑うことのない賢く美しい犬の王。だが、その本質が翼主のイヌワシであることを知るのは、ごくわずかな者だけだ。
     全人類の三割にしか満たない斑類。その中でも翼主はほぼ絶滅しかけている種族で、一般的な説明書では名前すら上がることすらない孤独な者たちだった。
     隔世遺伝により翼主として生まれたブラッドは、幼い頃に厳しい訓練を受けて変え魂を習得し、己を犬神人と偽り生きて来た。
     その男が、鳥類の愛情表現である羽繕いを行うのは、オスカーが唯一無二のパートナーであることを示すことに他ならない。おまけに触れ合った肌からはフェロモンの香りが立ち上り、魂に触れるような甘やかな触れ合いと、濃厚な香りにすっかりとろけたオスカーは己の雄にくたりと身を任せた。
    「ぶ、らっ……ど、さま」
     は、は、と漏れる吐息は過ぎた熱を孕み、湿度の高い浴室の壁に反響する。潤んだシアンの奥底で揺らめく欲望の色に、知らずブラッドの喉がコクリと鳴った。
     だが、この後もやることは山積みで、あくまでもこの時間は一時の休憩でしかない。そう苦々しく胸中で呟くとブラッドは蒸せるほどに甘く香るフェロモンを振り解き、頭を擡げる欲望を鋼の精神で抑えつけた。
    「少し、長湯し過ぎたか?」
     微笑む顔はあくまでも気遣いのみ。混じりそうになる色を押し隠した笑みに、オスカーもハッとしたようにその顔色を変えた。
    「はっ、はい! 確かに熱いくらいですね!」
    「そうだな。そろそろ出るか」
     あからさまな話題の逸らし方に乗って来た相手は、ぎこちなく頷いて体を起こす。肌が離れ、そこから急激に冷えるような感覚に離れ難さを感じながらも、互いに堪えてタオルを手に取った。
     身支度を整えてリビングに戻ると、目に入るのは壁一面に取られた広い窓。そこから一望できる景色はサブスタンスの脅威が去り、元通りの冬晴れの空が広がっていた。
     何気なくそちらに視線を遣ったオスカーは、ハッと目を見開くと窓辺に駆け寄った。
    「ブラッドさま、虹です!」
     晴れ渡る空に掛かる虹。レッドサウスの街並みから立ち上るような美しい光りの橋に、思わずはしゃいだ声を上げる。
     遅れて隣にやって来たブラッドもまた、自然の織りなすその景色に感心したように微笑んだ。
    「ほう、美しいものだな」
    「はい。冬の虹とは、珍しいものを見れました」
     良いこともあるものですね、と頬を緩めたオスカーは湯上がりで赤みを帯びた健康的な色に染まっている。
     そんなオスカーに相槌を打ちながら、ブラッドは駆けつけた時の憔悴した様子を思い出していた。
     司令部からの連絡を受け、メンティーたちを連れて急行すると、そこには倒れ臥したオスカーがいた。名前を呼びながら駆け寄り、体を起こして見えたのは青褪めた肌に浮かぶ鱗。不自然に膨らんだコートに尾まで露出していることを知り、冷静さこそ欠くことはなかったものの、心臓が冷たくなるほどの危機感を抱いたのは確かだ。
     ……まあ、それもしがみつかれたゴタゴタで曖昧になったのだが。
     溜息を飲み込みつつ、隣でイキイキと瞳を輝かせるオスカーを眺め、ようやく心の強張りが解ける。オスカーが健やかである。それだけで胸が暖かくなるような、ひどく心地よい幸せに浸れることを知るのは己一人で良いのだと、ブラッドは密かに安堵の息を吐き出すと、寒がりなパートナーを抱き寄せ囁いた。
    「今日はなるべく早く帰って来よう」
    「えっ! あの、ええと、はい……」
     予想通り慌てた様子を見せるオスカーが裏に隠した欲を理解したことに淡く笑うと、さらに赤みを増した褐色の頬に口付ける。口にしたからには実行すべしと、ブラッドは踵を返しながら脳内で効率良く片付けるための手順を描く。
     その背後で、今度は寒さのせいではない理由で鱗を浮かび上がらせたオスカーは、上がり過ぎた熱を吐き出すようにはふ、とため息をこぼしたのだった。
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    すいぎんこ

    DONEブラオス小話。こしのさんの素敵イラストのネタをお借りしました。エリ雄本編とは違うような似たような、なんかふわっとした設定です。友情出演で、今回も🍺がいます。
    一発逆転ジャックポット(ブラオス)「ええと、普段の時給は16ドルです。でも今日はホールなので、もう少し高いとは思うのですが」
     大真面目に答えたオスカーの言葉に、男は珍しいマゼンダ色の瞳を大きく見開いた。その後ろからは馬鹿笑いと称して良い声量の笑い声。最近入ったという怠惰なディーラーの声を聞きながら、オスカーは困惑に眉を下げた。


     時は遡ること数時間前。いつも通りオスカーは己が勤めているカジノに出勤していた。オスカーが今身を置いているカジノは繁華街の路地を入ったところにある、まあ言ってしまえば「あまりよろしくない」類の店で、ブラックとグレーの間をギリギリ綱渡りしているような店だった。
     カジノとしても違法性が高く、バックにヤバい組織が絡んでいると黒い噂があるとかなんとか。それだけ知っていても、身寄りもないストリートチルドレン出身の青年を雇ってくれる貴重な店であるだけに文句は言えず、今日も彼はお仕着せのガードマンの制服に腕を通して配備位置に着こうと従業員通路を歩いていた。
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