唇まではまだ遠い断じて、これは期待などではない。
寝室へと上がってくる階段の軋む音が聞こえて、ブルーの心臓が 直接撫でられたようにざわめいた。主張を始める鼓動から目を逸らすように胸の前に広げた書物の文字を追うが、頭の中で読み上げた言葉は意味を理解する前に思考の外へと滑り落ちていく。コンコン。静かな夜の空気にノックの音がほどけて、ブルーの心がひときわ大きく跳ねた。返事ができないでいると、控えめに扉が開く。
「……起きてたんだ」
「勝手にドアを開けるな」
寝てるのかなと思ったんだよ、そう言いながら、ノックの主──ルージュは当然のように部屋へ入って扉を閉め、ベッドのブルーへと歩み寄る。
「何か用か」
ヘッドボードに背を預けて座っているブルーが、視線を本に固定したまま最後の抵抗をする。
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