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    kawasemi120

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    kawasemi120

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    2022/05/22 SaGa air fes !4@ピクスク にて発行されましたサガフロ、ルージュ×ブルーアンソロジーに寄稿した小説です!
    すけべシーン微あり
    主催さま、貴重で素敵な機会をいただきありがとうございました
    公開OKになったので、本日参加のオンイベに合わせて早速公開させていただきます^^

    唇まではまだ遠い断じて、これは期待などではない。
    寝室へと上がってくる階段の軋む音が聞こえて、ブルーの心臓が 直接撫でられたようにざわめいた。主張を始める鼓動から目を逸らすように胸の前に広げた書物の文字を追うが、頭の中で読み上げた言葉は意味を理解する前に思考の外へと滑り落ちていく。コンコン。静かな夜の空気にノックの音がほどけて、ブルーの心がひときわ大きく跳ねた。返事ができないでいると、控えめに扉が開く。
    「……起きてたんだ」
    「勝手にドアを開けるな」
    寝てるのかなと思ったんだよ、そう言いながら、ノックの主──ルージュは当然のように部屋へ入って扉を閉め、ベッドのブルーへと歩み寄る。
    「何か用か」
    ヘッドボードに背を預けて座っているブルーが、視線を本に固定したまま最後の抵抗をする。
    「待っててくれたんだろう?」
    傍へと腰掛けたルージュは、ふ、と笑うと、もはやポーズの小道具となっている本を取り上げてサイドテーブルへ閉じた。ばちりと音が鳴るほど視線がかちあった後、だけど反論することはなく、気まずそうにブルーが目を伏せる。掴む物がなくなって遣り場無さそうなその手にそっと指を絡めると、ピクリと反応した。
    「……鍛錬の、機会だから」
    絞り出すようにそう呟くと、絡められたルージュの指先を摘むように少しだけ力を込めて、ブルーが顔を上げる。
    「ああ。勿論、そのつもり」
    弓形に口角を上げて、ルージュがくいと軽くブルーの手を引く。頷きを返し、隣へ移動するためにブルーは腰を上げた。そう、鍛錬だ。この胸の高揚感は、決して、この触れ合った熱からもたらされているわけではない。そんな風に、心の中で言い聞かせながら。

    ***

    きっかけは本当に、何の含みもなく術の鍛錬のために行ったことだった。
    地獄のあれやこれやが片付き、紆余曲折の末もう一度それぞれに戻ることを決めたブルーとルージュ。ひとつになっていた間は確かにもう一度ブルーとして、ルージュとして、相手と改めて大切に関係を築いていきたいと思っていたのは間違いないのだが、いざ実際それぞれの形に戻ると、話はそう簡単にはいかなかった。互いに対して持っていた、一般的な双子の間にあるそれと言うには異質すぎる大きな感情は、殺し合う宿命という柱を失い、想像以上にどう扱っていいか分からないものとなって双子を悩ませたのだ。それでも徐々に二人は歩み寄り、別々の道を歩みながらも顔を合わせる機会が増え、気が付けば自然と帰る場所を同じくするようになっていた、そんな頃だった。
    「術の合成?」
    「うん、試してみてもいいんじゃないかなって」
    揃って食卓についた夕食時、ルージュからの提案がきっかけだった。地獄の君主を再封印したことで一旦の脅威は去ったが、ブルーもルージュもまだ見ぬ危機に備え、また、IRPOやグラディウスとできた縁からリージョンの安全維持活動に参加することもあるため、引き続き自らの鍛錬は手を抜かず行っていた。
    ひとりの最強の術士としての力を手放したことに後悔はなく、互いに得ている資質について磨き、有事の際には力を合わせて解決にあたろうと手を取り合うのはいいとして、ひとつだけ残っている懸念があった。命術のことだ。
    相反する二つの資質を自らのものとしない限り会得できない命術は、分離したことによって当然資質も消失してしまった。それならば鍛錬を積んで今度は正真正銘自分として陽術と陰術を、と励む二人であったが、なかなか先は長そうだという状況にあった。
    「確かに古の文献で、そういう話は読んだことがある。だが、具体的な方法までは……」
    「残っていない。ただ、ほら、僕は君みたいな火力タイプじゃない代わりに、ちょっと変則的な使い方が得意じゃない?もしかしたら、僕の術の扱い方を君にも試してもらえたら、うまくいくかもしれないと思って」
    鏡合わせのように相反する性質を持つ二人は、術の使い方についてもまた同様で、ブルーは主に直接攻撃するような術を得意とする一方、ルージュはその逆だった。同じ術を用いてもその傾向は当てはまり、例えばエナジーチェーンを放つ場合、ブルーは出力の強さで相手を怯ませるのに比べ、ルージュは相手の神経に作用させるように術力をあてることで同じ効果を引き起こす。
    ルージュ曰く、術力をそのまま放出せずに手元で混ぜ合わせることで、互いの術を合成できるのではないか、ということだった。そこで、自分が普段やっているような術力の使い方を用いれば上手くいくかもしれない、と思いついての提案だった。
    「全くの他人同士だとかなり難しいかもしれないけど、僕たちはほら、少し特殊だし。うまく混ざれば、命術の感覚を思い出すかもしれないだろう」
    「試してみる価値はある、か」
    ふむ、とブルーも頷き、早速やってみようという話になった。
    夕食を片付け、ダイニングからリビングへと移動した二人は、さてどうしようとひとまず並んで長椅子へと腰掛ける。
    「そうだな……スターライトヒールとシャドウサーバントを混ぜる感じでやってみようか」
    「イメージとしてはリヴァイヴァを目指す感じか?」
    「ああ、そう思っていた。やり方だけど……」
    言いかけて、思案するようにルージュの目線が宙を見つめたまま動きを止める。
    「ルージュ?」
    「いや、その。……手を、握っても?」
    躊躇いながら発せられた言葉に、ブルーの瞳が一瞬動揺したように揺れた。けれど、その動揺を表に出すのも癪だと思ったのかすぐに無言で片手が差し出される。取り繕うための言葉が交わされるわけでもなく、なんとなく気まずい空気が一瞬流れたが、ルージュが繋いだ手の内に術力を集め始めると、ブルーの意識もすぐにそちらへと向いた。
    「わかる?手のひらで、エネルギーが揺蕩っている感じ。これに重ねて、君の術力も集められるかな」
    頷いて、ブルーも集中を始めた。二人分の術力が繋いだ手に集まる。そこからは無言のまま、試行錯誤が始まった。始めは競るように別々のものとして滾っていたブルーとルージュの術力が、次第に織られるように重なり、とけて、混ざり合う。繋いだ境界が滲んで、境目がわからなくなって──
    「、ぁ、」
    ブルーが何かを掴みかけた時、ルージュが小さく声を上げて、バツンと途切れた。
    なんだ、せっかく今、そう抗議の声をあげようとしたブルーだったが、
    「……ルージュ?」
    ルージュの様子がおかしくて、思わず覗き込む。
    「あ、いや、すまない」
    何かに気を取られた様にぼんやりしていたルージュだったが、至近距離でブルーを捉えてハッと身を引いた。
    「大丈夫か?」
    「ああ、うん。……少し、酔ったみたいだ」
    ルージュが言うには、今みたいに敢えて重ねようとしなくても元々触れ合った他人の術力を感じ取りやすい体質らしく、強い術力にはあてられたようになることがあるらしかった。
    「ここまでの感覚になったことはなかったんだけど……やはり、君は特別なんだな」
    ブルーには馴染みの無い感覚であることもあり、ルージュの話を理解できたわけではなかったが、そういうものか、と飲み込む。
    「そうか。……俺としては、手応えがあったのだが」
    続けられそうか、という続きを含んだ言葉に、ルージュは頷いた。
    「慣れればコントロールできるだろうから、大丈夫。ブルーにも出力の調整をしてもらうことになるとは思うけど」
    「善処しよう」
    その夜はそこまでとして、それ以降、共に過ごすことができる夜は同じように命術の合成を目指すこととなった。滑り出しは順調で、互いの陰陽を混ぜ合わせて命術の源流のようなものを編みあげるところまではすぐだったが、問題はそこからだった。互いを繋いで交えている“それ”は確かに命術であると、ブルーもルージュも感覚として理解はできるのだが、具体的な術として発動することができなかったのだ。
    当初のルージュの考えでは、命術の源さえ練り上げることができればあとは自分の器用さをもってして発動まで持っていくつもりだったのだが、そこはやはり最上位の術のひとつである。普段自分の術をコントロールするのとは比べようもないほど扱いづらく、力の強さに振り回されてしまって発動に至るまで集中することが難しかった。

    近付きはするけど到達には一歩足りない、そんな夜が何度か続いた後だった。

    「っ、またダメだ……」
    立て続く失敗にルージュが苦々しく呟く。握り合った手はそのままに、ぐったりと背もたれに身を預けながら天井を仰いだ。
    「発動までのルートはみえてきたんだけどな……うまく最後まで制御できない」
    ブルーも長く息を吐きながら、かるくソファに背を預ける。
    「俺もお前がやりやすいようにと意識はしているんだが、いまいち感覚が掴めない」
    まだ残る、混ぜた術力の余韻をぼんやりと感じながら、やはり、とブルーが続ける。
    「もう少し、お前のやってるような制御の感覚を俺も鍛えた方がいいのではないだろうか」
    それは、これまでにも何度かテーブルに乗せた話題だった。上を向いたまま、ルージュが目線だけブルーに投げる。うーーーん、重たげな声を漏らして、だけどその後は続かない。この話をすると、いつもルージュは歯切れが悪くなる。
    ただでさえ高位の術を使おうとしているのだから、不得手の分野に着手するよりも互いに得意なもので補った方がいい。前回議論した際、その様に決着付けてここまで進んできたが、方針を見直すべきではないのだろうか。それに、とブルーは思う。確かに得意なものを伸ばす方が効率が良いのは間違いないだろうが、どこか丸め込まれたような気もしてずっとひっかかっていた。議論の中で、ルージュは言っていたのだ。感覚を得るのに手っ取り早い方法がなくもない、というようなことを。詳しくは語られなかったが、うまくいくかわからないしできれば避けたい、そんな話の流れから、そもそも、と結論に誘導されたような気がしていた。
    「手っ取り早い方法が試せるのであれば、成功するかは別にしてやってみるべきだと思うが」
    しばらく目を閉じて考えた後、ルージュは覚悟を決めた様子でブルーに向き合った。
    「……じゃあ、やってみる?」
    「いいのか」
    ゆっくりと頷いた後、ただし、とルージュは付け加えた。
    「始めたら最後までやめない。それでもいいのなら」
    「問題ない」
    どんな方法なのかは見当もつかないが、伊達にこれまで修羅場を潜り抜けてきたわけではない。ブルーは即答する。あと、とルージュは続けた。
    「できれば僕のことを軽蔑しないでくれたら嬉しい」

    「……おい、ちょっと待て」
    「やめないって言っただろう」
    「やめろとは言ってない、だが説明しろ」
    ブルーがそう求めるのも無理はなかった。軽蔑しないでくれ、唐突にそんなことを言われて、思ってもみなかった発言にその言葉の意味から頭の中で検索している間に、あれよあれよと状況が変わっていった。
    痛いことはしないから、とにかく身を任せてほしい。そう言いながらルージュが最初にしたことは、ソファに座らせたまま、ブルーを目隠しすることだった。視界を奪われて混乱しているうちに、次はリボンの様なものを用いて体の前で両手首を拘束される。そこで、待ての台詞だった。
    「性感と重ねて覚えるのが、一番手っ取り早いと思うんだよね」
    「意味がわからん」
    思うっていうか、僕がそうだからってだけなんだけど。聞き捨てならない言葉を続けながら、ルージュは片腕を回してブルーの肩を抱き、もう一方の手はまとめられているブルーのそれへ重ねた。
    視界を奪った方が感じやすくなるからさ……ブルーの肩に顎を乗せ、甘えるように鼻先を首筋に掠めながら囁く。感じたことのない場所に感じたことのない刺激を受けて、反射的にブルーの口からやめろ、とこぼれた。
    「やめないよ」
    笑みの形で言葉を吐きながら、今度は束ねられた両の手の内側、やわらかいところをかりかりと擽る。
    「 、ぅ、……ッ」
    嫌悪ともそれ以外とも取れる音をもらしながら、ブルーの体が少しだけ跳ねた。
    「まあまずは僕を信じてみてよ……ほら、わかる?今、僕と触れてるところ全部で、僕の術力を感じて」
    ルージュの吐息に身を捩らせながらも、ブルーが集中する。急な展開に視界とともに思考も奪われながら、言われるがままに身体中の感覚を尖らせた。
    「ぁ……」
    ──あたたかい。
    一度それを受け入れた途端、じわじわと染み込むように心地よさが広がっていく。
    「ん、いいね、上手」
    適温のお湯に浸かったように先程までの体のこわばりが解け、ブルーの重心がルージュへと寄った。術の合成をする時も、繋いだ手からなんとなく好ましいような懐かしいような感覚を感じていたブルーだったが、今は全身がそれに包まれて、尚且つ、いつもより皮一枚分自分の内側に入り込んでいるような感じだった。
    はぁ、と耳元でルージュが息を吐く。先程までと違って、くすぐる熱が、妙に悪くない。
    「混ざってる……きもちいい」
    どこか恍惚とした様子でルージュが呟いた。
    一番最初に合成した時に言ったこと、本当は半分嘘なんだ。不意に落ちてきた話題に何のことだかわからず黙っていると、密やかにルージュの言葉が続く。酔った、あてられた、って言葉を濁したけど、本当は……すごく、気持ちよくなってしまって。しばらく大人しかったルージュの指先が、すりすりとブルーの手首を撫でる。気持ちいい、という言葉と触れた場所から受ける感覚が噛み合ってしまって、未知の感情にブルーの心拍数が上がった。焦燥感。だけど何故なのかはわからない。
    「ごめん。君を導く努力はするけど、我慢がきかなくなってしまうかもしれない」
    「どういう意味──」
    問わなければ、焦りに突き動かされてブルーが口を開く。しかし不意の感触が言葉を中断して、
    「ひぁッ、」
    代わりにこれまでの人生で聞いたことのないような声が出た。ブルーの耳朶を、ルージュが唇で食んだからだ。
    「ゃ、なに、ルージュ、なにを」
    もぐもぐと揉まれて、ちゅ、と響いたリップ音に、全神経がそこに集中したみたいに熱くなる。反射的に抵抗しなければと思うが、体に力が入らない。同時に、束ねられた両手の内側にするりとルージュの手指が入り込み、手のひら同士が向かい合っている方をきゅっと握られた。ブルーの指一本一本の間にルージュの指が入り込んで、ぐにぐにと遊ぶように動く。これまでの人生、使命や鍛錬、常にその時々の問題解決に向けて一辺倒に突き進んできたブルーは、他人とこうした触れ合いをするという発想すらなく過ごしてきていて、ただただその熱に翻弄されてしまう。
    こんなことは知らない。どうすればいいのかわからない。肌が粟立ち、恐怖とラベルをつけられそうな情動に戸惑うが、伝わる体温は、交わるぬくもりは、いやになるほど優しくて居心地が良くて泣きたい気持ちになる。
    「きもちいいね」
    きもちいい。耳の穴から吹き込まれた言葉が、実感を伴ってブルーの奥に刻み込まれていく。焼きたてのパンに染み込むバターみたいに、思考がぐずぐずととける。ぬるりと耳元に舌が這って、新しい刺激に肩が跳ねた。知らず噛み締めた口端から、荒く息が漏れる。ちゅくちゅくと水音を立てられながら舐められて、齧られて、吸われて、くらくらと頭の芯が揺れた。
    「……良かった、感じてくれてるんだ」
    濡れた音が止んだと思ったら少し離れたところでそう聞こえて、やっぱり言葉の意味がわからずに茫然と聞き逃す。握り合った手のひらから熱が動いたと思ったら、
    「っおい……!」
    とんでもないところにルージュの指先が触れた。そこは、ブルーの性器の先端。だけど、触られた場所に驚いたはずだったのに、触られたことによってその状態に気が付いてしまってそれ以上の混乱がブルーを襲う。それは、これまで感じたことがないほど熱く、身に纏った布の内側で窮屈そうに膨れていて、先端を中心に明らかに濡れそぼっていた。なんだ、これは、どうしてこんな。頭の中がぐちゃぐちゃなまま、布を押し上げる根本からそろりと撫で上げられて、耳を塞ぎたくなるような情けない声が出た。ルージュの手は一度で止まらず、上から包むように手を添えられて、優しく上下に扱かれる。
    「ぁ、ぅぅ、んっ、ァ、く、〜〜〜ッッ」
    「誰かに触れられるのは初めて?」
    問いかけられても答える余裕なんてなく、急に与えられ始めた強烈な快楽にチカチカと眩む頭の中で、当然だろう、くそ、馬鹿、と悪態をついた。
    どうせもうこんなんだし、このまま続けようか。慣れてないなら布越しの方がイイかもしれないし。言いながらもう何度かゆるくさすった後、先端をかりかりと引っ掻かれて、強すぎる、けれど甘い刺激にブルーの腰が大きく跳ねた。濡れた感触が一層、じわりと強くなる。
    「くそ、ふざけ、う……」
    舌の回らない口でなんとか言葉を発しようとするが、
    「腰、動いてるよ」
    指摘され、動きを止めていたルージュの手のひらに押し付けるように自分から動かしていることに気が付いて、信じられない気持ちになる。羞恥に脳を灼かれながら、それでも腰を止められない。こんな自分は、知らない。
    「大事なのはここから。調整するけど、強かったらごめん」
    「は、」
    これ以上何を、そら恐ろしさに息を呑んだ瞬間、だらしなく蜜の染みる先端の、穴を塞ぐようにルージュの人差し指が充てがわれて──
    「や、ッ──」
    尿道から逆流する電流のような刺激に、真っ暗なはずの視界で星が散った。一瞬そのスパークに放心したが、奥で燻るじんじんとした熱に引き戻される。性器の奥、体の内側、ブルーが認知したこともないような場所で、快感が渦巻いている。
    「気持ちいいから、よくわかるだろう?君のと僕のと混ざった術力で、ナカの性感帯を刺激してるんだけど」
    説明しながら、ルージュが上下の動きを再開する。
    「ひっ、ゃめ、ルージュ、それ、へんッ、」
    外側を擦られてどんどん熱が集まっていくのに、尿道から内側に入り込んでいる何かに阻まれて、解放する道がない。苦しいのに、悦びは無限大に膨らむようで、終わりが見えなくておかしくなりそうだ。息を乱し、小刻みに震えながら、初めて知る快楽を無意識に追いかけて腰を揺らす。腕の中のブルーを見つめて、ルージュの喉がゴクリと鳴った。
    「本当は、このまま仕上げるつもりだったんだけど……」
    低く呟いて、一度ブルーから体を離す。
    「るー、じゅ?」
    心許なさを感じたのは一瞬で、覆い被さるように跨られた気配と、怒張した自身に添わせるように押し当てられた、自分と同じかそれ以上に熱を持ったルージュのそれに、ぞくりと腰が浮いた。
    「も、限界……ブルー、僕ので擦るから、離れないように君の力で引き寄せて」
    ぐり、少しだけ力をかけながら、ルージュはゆっくりと上下に動き始める。
    「僕に集中して……服、通り越す感じで、エナジーチェーンを巻き付けるみたいに……」
    暗闇の中、手を動かすこともできないまま、享楽につられて、ブルーは必死で言われた通りに意識する。暴かれて剥き出しになった感覚は、鋭敏にルージュを捉えて、束ねた。混ざり合った中心は境界なんて何もかも存在しないみたいに合わさって、腰からとけていきそうになる。
    「ふ、やばいな、腰振ることしかかんがえられない、……」
    言いながら、ルージュの動きが段々と突き上げるように激しくなる。
    「あぁ、う、ルージュ、る、ぅ、」
    ブルーも呼応するように腰を擦り付けて、懇願するように名前を呼んだ。
    「ん、いいよ、そろそろ……ぬく、ね、」
    腰の動きはそのままに、楔を引き抜くように、ルージュはブルーの中心を戒めから解放する。
    「あ、!、なに、、ッ〜〜〜〜〜〜〜」
    堰き止められていた熱が一気に解放されて、思い切りブルーの真ん中を駆け抜けた。頭の中が真っ白になって、強烈な多幸感が奥から奥から湧いてくる。閉じることのできない口から、吐き出されるように喜悦の音が抜けていく。
    「ん、ッ……」
    絶頂を迎えたブルーに続いて、ルージュもどくどくと熱を吐き出す。目の奥で灼くような快感が爆ぜる。
    詰めていた息を吐き出しながらブルーの様子をみると、少し我慢をさせすぎてしまった影響か、まだ余韻の中にいるようだった。不規則に小さく痙攣しながら、荒い呼吸を続けている。ルージュが目隠しを外すと、閉じられていた瞼がゆっくりと開いて、何か言いたげにルージュと目を合わせた後、そのまま再び閉じられた。くったりと力が抜けて、次第に落ち着いていった呼吸が規則正しい寝息となるまで、そう時間はかからなかった。
    ブルー。小さく名前を呼んで、反応がないことを確かめる。線を引こうと思っていたのに、暴走してしまった。ゆっくり脱力しながら、静かにブルーと額を合わせる。やってしまったという気持ちと、それで覆ってしまいたいのに隠しきれない、充足感。それから。
    「僕は、やっぱり君のことが──」

    ***

    「「リヴァイヴァ」」
    重ねた手から、高密度のエネルギーが波及して、ブルーとルージュ双方の体を包む。生命力が染み込んで、生命の核に保護を得る。
    発動が完了して、ふう、とルージュは息をついた。
    「いい感じだ。発動までの時間も短くなってきてるんじゃないか?」
    「……ああ、そうだ、な」
    ブルーは目を閉じたまま、何かを堪えるように、ゆっくりと息を逃している。
    "手っ取り早い方法"の効果は覿面だった。しばらくはまともにルージュの顔も見られないほどだったブルーだが、しかし普段の鍛錬を行う中でこれまでと明らかに違う制御感覚を得たことに気が付き、程なくして二人で過ごす夜の習慣は復活することとなった。何度か試すうち、命術の発動まで漕ぎ着けることができ、以降はより練度を上げるためにこうして努力を続けている。
    まだまだ未熟であるこの合成術を高めること以外にも目下、解決が急がれる課題があった。
    「……まだ、つらそうだ」
    指先を絡めて、ルージュはブルーの手を自分の口元へ引き寄せる。音を立てて甲に吸い付くと、ピクリと反応があって、それでもその手が離れていくことはない。
    制御感覚を得た際に開かれた性感を、ブルーはいまだ扱いあぐねていた。自分の術力について用いる際は問題ないのだが、ルージュの術力と混ぜようとすると抗い難い官能が引き出されてしまう。
    「おいで」
    優しく呼ばれる声に顔を上げ、ルージュを見るその瞳は葛藤している。けれど、揺れる青の奥、一度火がついてしまった情欲をねじ伏せることはできなくて──

    「あ、はあ、ルージュ、んん、」
    強請るように揺れる腰つきに、手放してしまいたくなる理性をルージュは強い精神力で引き寄せた。名前を呼ばれる度に、たまらない気持ちになる。まだ、だめだ。まだ、今は。
    術の合成で火照った体を、望む通りに追い立てて発散させてやる。ただし、あの日のようにルージュの欲をぶつけることはない。刺激に慣れれば閾値も上がるのでは、なんて短絡的な発想が採用されて鍛錬の後になだれこむようになったこの時間は、あの夜、改めて自分の想いを自覚したルージュにとって、得難き幸福をもたらすとともにつらい時間でもあった。
    自分から与えられる、わかりやすい快楽に成す術なくよがるブルーを追い詰めながら、めちゃくちゃに抱き潰してやりたい衝動を抑え込む。この先の悦びを教えたい。もっと深く、暴いて、引きずり出して……愛し合うことができたら、どんなに。そもそも、もっと強烈な肉体的快楽で上書きしてやれば、そっちの方が早く問題解決に進むのではなんて考えを抱いては振り切る。
    ただでさえ色々と疎いブルーに対して、様々なことを有耶無耶にしたまま体だけ先に進むのは嫌だった。気持ち良くなってもらえる自信はあったけど、最初の夜みたいに暴走して、また避けられるようになったら、という不安もあった。このままでは困るのもまた事実だから、いずれにせよ、近い未来にこの関係は形を変えることになるのだろう。
    愛撫を受けながら俯き悶えるブルーを覗き込むようにルージュが顔を寄せると、その気配にブルーも顔を上げ、至近距離で視線がかち合った。熱に浮かされ濡れた瞳に、険しい顔をした自分が映っている。鼻先が触れ合って、甘えるように擦り寄ったのはどちらだったか。
    「 、う、ッ」
    唇まで届く前に、小さく呻いてブルーが果てた。脱力する体を受け止めながら、ルージュは気付かれないように、ブルーの髪にキスを落とす。まだぶつけるわけにはいかない、胸の内で暴れ回る想いを宥めるように。

    体ばかりが饒舌で、不器用な二人の夜が明けるのは、まだ、もう少し先になりそうだ。
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