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    Jeff

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    お題:「空腹」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2025/04/20

    #ラーヒュン
    rahun

    Herbcandy 少々の侮辱に耐えられないことは、ない。
     と、ラーハルトは反芻する。
     
     ――なんとまあ、魔族ですか。
     ――女王猊下、いくらなんでも。
     ――敵性人物を国際会議に招くとは。

     人間社会の反応は辛らつだ。
     主君ダイの思い人、賢者姫は眉ひとつ動かさずに言い返した。
    「笑っちゃうわね。神々にとっては、我ら等しく見慣れぬ生き物では?」
     大戦の記憶を軽んじるようなその言葉は、翌日の三面記事になった。
     
     好奇の目。
     護衛としてラーハルトを連れ出したレオナ女王の意図が分からなかった。
     数日間、肌を焼く視線をまっすぐ跳ねのけ続けた。
     触れたリンゴのみずみずしさすら感じ取れない程、指先が冷たくなっていた。
     提供される豪奢なレセプション・ディナーは、ひとつも味がしなかった。

    「ねえ」最終日に、女王は言った。
    「二日目のパレードで、あなたの名を呼ぶ一群に気づいた?」
     ラーハルトは硬直し、いいえ、と呟いた。
    「孤児たち」
     と、レオナは続けた。
    「人間に見えたと思うけれど。彼らはあなたと同じ、混血児たち」
     
     極上のワインをこともなげに開けて。
    「顔をあげて。世界を見て」
     そう言って、ラーハルトのグラスに注いだ。
    「あなたはひとりじゃない。ダイ君と同じ――誰かにとっての、英雄なんだから」
     
     うつむいた帰り道。
     まだ脳がざわめいている。
     無意識に、古書店を目指していた。
     二階に間借りしている、友人の部屋へ。
     
    「ああ、来たのか」
     ヒュンケルは驚いた様子もなく、宿敵を招き入れた。
    「どうだった、初の護衛業務は」
     返事のないラーハルトをじっと見て、小さく頷いた。
     
     そして、引き出しから紙袋を取り出してきた。
     言葉もなく見つめるラーハルトの前で、欠けた皿に中身を広げる。
    「……飴玉?」
     闇色の四角いキャンディ。
     見覚えがある。

    「お前に憧れる子供たちからだ。渡してくれって、きかなくて」
     ヒュンケルは微笑する。
    「魔族に伝わる、古いレシピらしい。パレードでも王宮でも『魔族の近衛兵長さま』がずっと黙っているから。沢山のハーブの恵みで、声に良い飴を、と」

     ハゴロモグサ、ニワトコ、ビロウドアオイ、ベロニカ、セージ――
     母と一緒に良く作った、滋味あふれる咳止め薬だ。
     懐かしい香り。
     
     ラーハルトの中で、何かが決壊した。
     友の静かな視線を確認もせず、衝動のままに抱きしめる。
     ヒュンケルは戸惑いもせず、優しく抱擁を返した。
     銀色の髪に目をうずめて、嗚咽を押し殺す。
     白い首筋は、シナモンの香り。
     
    「――そろそろ焼ける、食っていけよ」
     古めかしいキッチンから、甘い風が漂ってきた。
     オーブンに鎮座したパウンドケーキの気配。
     
     そうか、そう言えば。
     ずっと空腹だった。
     やっと思い出した。
     
     ぽつり呟くと、ヒュンケルは噴き出して、重い金色の頭を押しのけた。
     
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