Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Jeff

    @kerley77173824

    @kerley77173824

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 66

    Jeff

    ☆quiet follow

    お題:「お気に入り」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2025/07/05

    #ラーヒュン
    rahun
    #LH1dr1wr

    Emblem 数十秒熟考の末、おもむろに指を伸ばす。
     からころと散る、虹色の封蝋たち。
     目の覚めるような薔薇色を取ると、慎重に、先端を火であぶる。
     溶けた赤を雪のようなカール王国産上質紙に垂らして、金の輪で形を整える。
     蜜蝋の淡い香り。
     革袋に投げ込んである金属をランダムに取り出して、ゆっくりと押し付ける。
     満月草が三つ並んだ、可愛らしい家紋だった。
     ヒュンケルはため息をついて、出来栄えを確かめる。
    「良く飽きないな」
     じっと見ていたラーハルトが、ハッカを齧りながら呟く。
    「ん」
     ヒュンケルは封蝋印を丁寧に拭いて、また袋に投げ込んだ。
     かれこれ半日。ダイニングテーブルにはカラフルな蝋印が整然と並んでいる。
     知り合いの古物商に押し付けられたものだ。もう使われることのない、絶えた家系やレプリカ品の封蝋コレクション。
     現在でも王家の儀式で使われることはあるが、すっかり過去の道具だ。
    「やってみたかったんだ、これ」
     元不死騎団長ともあろうヒュンケルが、五歳児の口調で言う。
    「古代魔界の古い道具スタンプが、地底魔城に転がっていて。ずっと何に使うのか疑問だった」
    「楽しいか」
    「楽しい」
     今度は真夏の星空のような藍色を取り、またランプの炎に差し入れた。
     ラーハルトの相棒は基本、モノに執着しない男だ。が、いったん興味を持つと、研究し尽くすまでのめりこむ。
     そんなわけできっと今回も、満足するまで時間がかかる。
     手紙の封という本来の意味を失った蝋の紋章が、栄華をしのびながら量産されていく。
    「どうせだったら、自分の紋を選んだらどうだ」
     そう言うと、ヒュンケルはきょとんと顔を上げた。
    「自分の? 全部、誰かのものなのに」
    「みんな死んでる。借りたっていいだろう」
    「何のために」
    、正気か貴様」
     そうか、と面食らった顔。
    「でも、誰に?」
    「ダイ様に、その他有象無象の人間どもに」
    「ああ……」
    「もしくは、十年後の俺たちにでも」
     適当な提案に、神妙に頷く。
     ラーハルトは、ヒュンケルの文字が好きだった。
     光の師アバンから学んだという読みやすい楷書と、闇の師ミスト仕込みの華麗な筆記体がごっちゃになった、癖のあるカリグラフィー。
     魔界の匂いがする、古い文字。
     同じくらい心おどるのは、主君ダイのたどたどしい手紙だ。
     ラーハルトの指導を吸収して、少年は徐々に文字を覚えている。
     彼から届く王室印付の書簡は、生涯の宝物になるだろう。
     ヒュンケルは、ふたつのスタンプを取り出し、じっと見た。
     ひとつは、煌めく五芒星の家紋。これには魅了される。
     が、もうひとつのほう、指輪型の印を選んで、ラーハルトに笑いかける。
    「これにする」
     と、人差し指に嵌めた。
     銀の輪に刻まれているのは、吠える火竜のエンブレムだった。
     ラーハルトがかつて属した、竜騎衆の紋にそっくりな。
     ……なんと言っていいか分からず、後頭部を掻いて立ち上がる。
    「まあ、ほどほどで寝ろよ。キッチンが蜜蝋だらけになるのはかなわん」
    「ああ、大丈夫だ。あとちょっとだから。ありがとう――それと」
     自室に向かう相棒の背中に、小さく呟く。
    「すまない」
    「?」
     なぜ謝られたのか。特に気にせず書斎に戻って。
     ラーハルトは脱力した。
     ――ダイ様から頂いた手紙が。
     神聖なる書簡が。
     ひとつのこらず、丁寧に封印され直していた。
     はしゃぎながら蝋印を押しまくるヒュンケルが目に浮かぶ。
     全部開き直すのに、それこそ半日はかかるだろう。
     大きく息を吸って、吐いて、もう一度吸う。
    「ヒュンケル!!!」
     怒号と同時に、どたばた、ばたん、と逃走の気配が響いた。
     
     


      
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜💜💜✉☺☺❤☺☺☺☺☺💌💌☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works