裁つ 弟は兄から裁ち鋏を受け取ってみたもののどうしたものかと思案している。
それはハサミにしては大きく分厚くずっしりと重い。
持ち手の穴に指を入れ動かすとジャキジャキと音がする。
これで切れというのか、こんなのハサミではなく凶器だろう。
それに、いくら芸術のためとはいえ、洋服をスーツを切り刻んでも良いものなのだろうか。
しかも人が着たままで。
いや、芸術のためだからこそ良いのかと思い直していると、兄が早くやれと催促してくる。
今度は兄の顔とハサミを交互に見て、思わず本当にいいのかと確認してしまう。
再び促され意を決した弟は、紺のスーツの袖口に少し切り込みを入れた。
目の前で仁王立ちしている大男は、年甲斐もなく所謂リクルートスーツと呼ばれるものを着ている。
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