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    ほぼ日朝菊 12

     果てしなく長い間この世を彷徨っていると、ふと「この感情は何だったか」と立ち止ることがある。数百年ほど拗らせた恋人との付き合いも、突然我に返ることがある。「今一緒にいなくても、まだまだこの先はずっと続く。別に、必死にならなくても良いのではないか」と思うものの、結局は彼をここに呼び寄せ、短い休暇を共に過ごしているのだからいよいよ自分が分からない。ぼうっとしながら、昨晩遅くまで起きていたために未だ布団に体を横たえている国の化身を想像した。手元には冷えて硬くなった鶏肉がある。醤油ベースのタレが付いており、ところどころ黒い焦げ跡が見えるので「炭火焼き」は実際本当なのだろう。
     昨日の夜、仕事終わりにコンビニへと立ち寄った。その日、イギリスがやってくることをすっかり忘れていたために、自分だけの夕食に缶ビールとカップに入ったサラダ、レジ横のスナックケースから焼き鳥を購入し、帰路を辿っている。しばらく住宅街を歩き、着いた自宅には明かりが点いていた。アポイントなく訪れる大国の化身を想像したり、もしかすると先ほど別れた部下がなぜだか日本宅へと先回りしており、「あ、日本さん」とこちらを見る姿を思い浮かべた。引き戸を開くと途端に辺りの寒々しい風が遮断され、遠くの方にオレンジ色の光が見える。沓脱に目をやると、見慣れた革靴がきちんと揃えて置かれていた。「あっ」
    「やっと思い出したようだな」
    「スマホ、充電切れていたんでした。すみません、イギリスさん。昼頃到着したのでしょう?」
     光の灯るキッチンからイギリスが顔を出し、廊下をまっすぐ歩いて玄関へとやってくる。慣れた様子で暗がりにある壁のスイッチを操作し、ジジ、と低い音を出した電球が数秒遅れて灯った。ぱっと視界が明るくなる。
    「昼頃ここに着いて、ちょっと仮眠した。布団、借りたぞ」
     その割には着乱れていないスーツ姿で腕を組み、背筋が伸びた彼は美しい。「すぐに食事にしましょう」と言えばふわりと表情を柔らかくし、後ろを振り返ると頭上には寝ぐせがついていた。ようやく、安心する。
     キッチンに行き、ダイニングテーブルに鞄を置く。机上にはイギリスが読んでいたらしき本が伏せてあり、その横に、ビニール袋があった。手を伸ばす。まだ、温かい。
     覗き込むと購入したものと同じ焼き鳥が入っており、さらには同じ銘柄のビール――以前、イギリスが好きだと言ったものだ。ついでにサラダカップまで同じものだった。
    「え?」
     慌てて自分の手元を見る。やはり先ほどコンビニに立ち寄った際のビニール袋は存在し、つまり同じ簡単な夕食が二つキッチンに揃っていた。「イギリスさん、これって」
    「ああ、さっき買ってきた。日本は帰りが遅くなるんだと思って」
     はは、と思わず笑いがこぼれる。笑い出した日本の姿をイギリスはぽかんとした表情で見つめ、ビニール袋を指さし、日本が説明するとやっと笑った。
     こんなところで揃うなんて。と、愉快になる。次の瞬間、この人が好きだな、と日本は感じる。果てしなく長い間この世を彷徨っていると、ふと「この感情は何だったか」と立ち止ることは当然ある。が、今この時は離れていてもどこかかみ合ってしまう彼を、愛しく思わずにはいられない。
     結局一晩では食べきれず、翌朝に少しだけ焼き鳥を残した。冷蔵庫から卵を取り出しボウルにあけて溶き、スライスした玉ねぎを炒めて焼き鳥を同じフライパンで温める。だし汁と溶き卵とを流し込むと親子丼が完成するはずだが、背後で「日本、米が炊けていない!」と声があった。振り返るとイギリスが起きてきて、炊飯器を指さしている。金色の髪の毛がほうぼうに散っており、襟元が緩く伸びたシャツからは首筋が覗いていて、気の抜けた姿はまさに休日の象徴という気がした。「嘘でしょう!」
    「こんな時は、あれだ。パンに挟もう」
    「えっ、親子丼ではなく親子パンですか?」
    「サンドイッチは間違いねえだろ。大丈夫」
     イギリスの言葉に偽りはなかった。食パンにしみ込んだ出汁と卵の味は組み合わせとしては悪くなく、得も知れぬ香ばしささえ感じる。
    「なんのおもてなしもできず、すみません」
    「いいや、まったく。お前といると、意外となんとかなるもんだよな」
     頷きながら親子丼の具材を挟んだ食パンを、ぱくぱくとかじっている。ふよふよと揺れる寝ぐせが視界に映る。長く一人暮らしをしているものの、この人となら一緒に暮らしても楽しそうだな、と日本はしみじみとした。「なんかついてる?」と口の端にパンくずを付けて、イギリスは首を傾げる。
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    gmksk

    MOURNINGクリスマスイベント用の漫画を小説にしました。言い訳でございます。どっちが得意とかそういうのより、私は絵を描けないということがはっきりしました。イベントはとても楽しかったしみなさんの朝菊は最高にエモかったです。
     小説すら、間に合わない。もういい、適当に書こう。アーサー・カークランドはその日、なんやかんやあってファストフード店に入った。クリスマス限定アルバイトとしてさんざんホールケーキを売り、着ぐるみを着用しアーケードの通行人にキャンペーングッズを配り、時折上司にあたる製菓店員に叱られながら、なんとか終業を迎えたころだ。クリスマスイブに当たる二十四日である今日は、どこも飲食店には客がひしめき合い、行列は店の外まで飛び出している。
     一緒にアルバイトをこなしていた、本田菊はとある店を指さした。「あそこなら、空いてるんじゃないんですか」と物静かな視線が店の明かりに向かう。そこが、ファストフード店だ。牛丼と呼ばれるこの国の人気料理を取り扱う店で、明らかに一人客が多く、やはり普段よりは混雑しているものの、滞在時間が短く回転が速い。よし、ここで、とどこでもいいから休みたい学生の二人は、慌てて店内へと入った。
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    gmksk

    TRAINING朝菊 13 妖精さん
     今朝、見つけた四つ葉のクローバーを頭に乗せると、彼は黒くて丸い瞳をきらめかせてわたしを見た。滑らかな黒髪の上にあるクローバーは今にも滑り落ちそうで、羽根を使って宙に浮き、茎を必死に両手で押さえる。「ああ」と優し気な声がして、瞳の縁から放射線状に生えた繊細なまつ毛が揺れた。
    「これ、頭に乗せるとあなた方を拝見できるのですか?」
    「そういうこと。ちょっと、ニホン。これ持っててちょうだい。離れたら見えなくなるのよ」
    「では、私に何か用でもあるのでしょうか」
     あるわ、と自分の口から言葉が飛び出したものの、その尖った響きに我ながらびっくりする。想像以上に、わたしはこの男に嫉妬心を抱いているらしい。
     日本がロンドンへとやってきたのは、昨晩のことだ。イギリスは今日どうしても外せない用事があって、早朝、庭にやってきてわたし達に挨拶と優しいキスを送ったあと、そのまま出かけてしまった。「じゃあニホンは一人で家の中にいるのね」と、わたしはそのままマナーハウス近くに流れる小さな川に行く。小一時間ほど飛び回り、探し出したクローバーを、ブランチを食べるためにテラスへとやってきた日本の頭に乗せた。よく知られてはいることだが、わたし達ピクシー妖精は人間の目には見えない。――イギリスとはしっかりと目が合い、彼はわたし達をひとしく認めてひとしく愛してくれるのだけど、「国の化身だから」という理由ではないらしい。日本には、数百年も前からずっとわたし達の姿は見えなかった。
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    gmksk

    TRAININGほぼ日朝菊 12
     果てしなく長い間この世を彷徨っていると、ふと「この感情は何だったか」と立ち止ることがある。数百年ほど拗らせた恋人との付き合いも、突然我に返ることがある。「今一緒にいなくても、まだまだこの先はずっと続く。別に、必死にならなくても良いのではないか」と思うものの、結局は彼をここに呼び寄せ、短い休暇を共に過ごしているのだからいよいよ自分が分からない。ぼうっとしながら、昨晩遅くまで起きていたために未だ布団に体を横たえている国の化身を想像した。手元には冷えて硬くなった鶏肉がある。醤油ベースのタレが付いており、ところどころ黒い焦げ跡が見えるので「炭火焼き」は実際本当なのだろう。
     昨日の夜、仕事終わりにコンビニへと立ち寄った。その日、イギリスがやってくることをすっかり忘れていたために、自分だけの夕食に缶ビールとカップに入ったサラダ、レジ横のスナックケースから焼き鳥を購入し、帰路を辿っている。しばらく住宅街を歩き、着いた自宅には明かりが点いていた。アポイントなく訪れる大国の化身を想像したり、もしかすると先ほど別れた部下がなぜだか日本宅へと先回りしており、「あ、日本さん」とこちらを見る姿を思い浮かべた。引き戸を開くと途端に辺りの寒々しい風が遮断され、遠くの方にオレンジ色の光が見える。沓脱に目をやると、見慣れた革靴がきちんと揃えて置かれていた。「あっ」
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