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    朝菊 13 妖精さん

     今朝、見つけた四つ葉のクローバーを頭に乗せると、彼は黒くて丸い瞳をきらめかせてわたしを見た。滑らかな黒髪の上にあるクローバーは今にも滑り落ちそうで、羽根を使って宙に浮き、茎を必死に両手で押さえる。「ああ」と優し気な声がして、瞳の縁から放射線状に生えた繊細なまつ毛が揺れた。
    「これ、頭に乗せるとあなた方を拝見できるのですか?」
    「そういうこと。ちょっと、ニホン。これ持っててちょうだい。離れたら見えなくなるのよ」
    「では、私に何か用でもあるのでしょうか」
     あるわ、と自分の口から言葉が飛び出したものの、その尖った響きに我ながらびっくりする。想像以上に、わたしはこの男に嫉妬心を抱いているらしい。
     日本がロンドンへとやってきたのは、昨晩のことだ。イギリスは今日どうしても外せない用事があって、早朝、庭にやってきてわたし達に挨拶と優しいキスを送ったあと、そのまま出かけてしまった。「じゃあニホンは一人で家の中にいるのね」と、わたしはそのままマナーハウス近くに流れる小さな川に行く。小一時間ほど飛び回り、探し出したクローバーを、ブランチを食べるためにテラスへとやってきた日本の頭に乗せた。よく知られてはいることだが、わたし達ピクシー妖精は人間の目には見えない。――イギリスとはしっかりと目が合い、彼はわたし達をひとしく認めてひとしく愛してくれるのだけど、「国の化身だから」という理由ではないらしい。日本には、数百年も前からずっとわたし達の姿は見えなかった。
     だからクローバーを頭に乗せるのだ。それも、幸福を呼ぶ四つ葉でないといけない。三つ葉でも五つ葉でもなく、四つ葉。
     日本は指先でわたしが乗せたクローバーをつまむ。こうでしょうか、と風で飛ばされないように頭に固定し、わたしはバケット入りバスケットの縁に腰かけた。ふう、と彼がため息を吐き、こちらに優しく微笑みかけてくる。
    「初めて、お話できましたね」
    「わたし達のこと、知ってるの?」
    「それはもちろん。気配はあるけれど、姿は見えませんでした。イギリスさんからもよく聞いておりますよ。まさか、こんなに綺麗な方だとは思わず」
     寝起きの姿ですみません、と目を細めて恭しく接する姿は、なぜだか紳士的なイギリスを想像した。小さく心が跳ねる。いや、違う。わたしは楽しくお話するために彼の前に現れたのではない。春の日差しにあたためられた風がふわりと舞い起こり、日本はクローバーをよりいっそう握りしめた。
    「突然だけど」
    「ええ」
    「わたし達にあなた、ニホンが認められていると思わないでちょうだい」
    「おや、それはもしかすると」
    「そうよ。わたしはイギリスが好きなの。ニホン、あなたはイギリスのどこが好きなのよ」
    「なるほど、あなたはイギリスさんが好きなのですね」
     足を組み替えてむっとした表情をつくり、わたしは「悪い?」とつっけんどんに言い放った。その態度にも嫌な顔を見せず、彼は嬉しそうにする。「イギリスさんも、あなたのことを大切に思っていますよ」と微笑む。知ってるわよ、そんなこと。
    「あの方の好きなところですか。なんだろうなあ。しいて言うなら、孤独なところ、でしょうか」
    「えっ、確かにイギリスは一人でめそめそしてるけど……。その悲しんでる姿が好きってこと?」ニホンの趣味を疑う、とわたしは怪訝な顔をする。
    「そうではなくて」
     曰く、目的のためなら孤独をいとわず、ストイックなまでにやり遂げる姿勢が好きなのだという。「本当は、誰かと親しくしたい。嫌われたくないって怖がっているのに」それでも、イギリスは高みを目指すことをやめない。
    「そんな彼の孤独が、美しく思えるから好きなんでしょうね」
     日本はそこで、ソーサからカップを摘まみ上げ一口飲んだ。「おいしい」と表情を和らげるので、わたしも張りつめていた気持ちが解け、ああ、と肩を落としたくなる。
    「本当はいじわるでも言いたい気分だったけど、なんだか拍子抜けしちゃった」
    「えっ、そうなんですか。どうしてですか?」
     それはあなたが、わたしと同じ考えだからよ。でも、ライバルにそれは教えてあげない。
    「でも、あなたがイギリスさんのことを好きでも、申し訳ないのですが引いて差し上げるのはできません」
    「あら、ニホンもそんなこと言うのね」
    「これまでも、たくさんのライバルを蹴落としてきましたから」
     彼は少しだけ胸を張り、自慢げにわたしを見下ろした。「ええ、どんな人を?」と恐る恐る訊ねるが、それでも今話す気はないらしい。
    「長くなるので、またお時間が合うときにお話ししてもよろしいですか?」
    「もちろん!また、クローバーを探すわ」
    「いえ、あなたにお手数おかけするのはいけません。私が探して、お呼びしますよ」
     約束ね、とわたしは顔を上げる。日本は笑って、絶対に、と小指を差し出す。
     化身の手はわたし達にとって少し大きい。両手で小指に抱き着くようにして触れると、日本はゆっくりと動かした。指切りげんまん、とわたしが知らない遠い異国の歌を歌う声は穏やかで、身体の奥底が浮かぶようにあたたかくなる。イギリスがこの人のことを好きな理由は、十分に理解できる。
     でも、ライバルだから絶対に教えてあげない。歌い終わると日本はまた笑いかけ、「食べ終わるまでもう少しお付き合いいただけますか?」とわたしの顔を覗き込んだ。大きく、頷く。
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    gmksk

    MOURNINGクリスマスイベント用の漫画を小説にしました。言い訳でございます。どっちが得意とかそういうのより、私は絵を描けないということがはっきりしました。イベントはとても楽しかったしみなさんの朝菊は最高にエモかったです。
     小説すら、間に合わない。もういい、適当に書こう。アーサー・カークランドはその日、なんやかんやあってファストフード店に入った。クリスマス限定アルバイトとしてさんざんホールケーキを売り、着ぐるみを着用しアーケードの通行人にキャンペーングッズを配り、時折上司にあたる製菓店員に叱られながら、なんとか終業を迎えたころだ。クリスマスイブに当たる二十四日である今日は、どこも飲食店には客がひしめき合い、行列は店の外まで飛び出している。
     一緒にアルバイトをこなしていた、本田菊はとある店を指さした。「あそこなら、空いてるんじゃないんですか」と物静かな視線が店の明かりに向かう。そこが、ファストフード店だ。牛丼と呼ばれるこの国の人気料理を取り扱う店で、明らかに一人客が多く、やはり普段よりは混雑しているものの、滞在時間が短く回転が速い。よし、ここで、とどこでもいいから休みたい学生の二人は、慌てて店内へと入った。
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    gmksk

    TRAINING朝菊 13 妖精さん
     今朝、見つけた四つ葉のクローバーを頭に乗せると、彼は黒くて丸い瞳をきらめかせてわたしを見た。滑らかな黒髪の上にあるクローバーは今にも滑り落ちそうで、羽根を使って宙に浮き、茎を必死に両手で押さえる。「ああ」と優し気な声がして、瞳の縁から放射線状に生えた繊細なまつ毛が揺れた。
    「これ、頭に乗せるとあなた方を拝見できるのですか?」
    「そういうこと。ちょっと、ニホン。これ持っててちょうだい。離れたら見えなくなるのよ」
    「では、私に何か用でもあるのでしょうか」
     あるわ、と自分の口から言葉が飛び出したものの、その尖った響きに我ながらびっくりする。想像以上に、わたしはこの男に嫉妬心を抱いているらしい。
     日本がロンドンへとやってきたのは、昨晩のことだ。イギリスは今日どうしても外せない用事があって、早朝、庭にやってきてわたし達に挨拶と優しいキスを送ったあと、そのまま出かけてしまった。「じゃあニホンは一人で家の中にいるのね」と、わたしはそのままマナーハウス近くに流れる小さな川に行く。小一時間ほど飛び回り、探し出したクローバーを、ブランチを食べるためにテラスへとやってきた日本の頭に乗せた。よく知られてはいることだが、わたし達ピクシー妖精は人間の目には見えない。――イギリスとはしっかりと目が合い、彼はわたし達をひとしく認めてひとしく愛してくれるのだけど、「国の化身だから」という理由ではないらしい。日本には、数百年も前からずっとわたし達の姿は見えなかった。
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    gmksk

    TRAININGほぼ日朝菊 12
     果てしなく長い間この世を彷徨っていると、ふと「この感情は何だったか」と立ち止ることがある。数百年ほど拗らせた恋人との付き合いも、突然我に返ることがある。「今一緒にいなくても、まだまだこの先はずっと続く。別に、必死にならなくても良いのではないか」と思うものの、結局は彼をここに呼び寄せ、短い休暇を共に過ごしているのだからいよいよ自分が分からない。ぼうっとしながら、昨晩遅くまで起きていたために未だ布団に体を横たえている国の化身を想像した。手元には冷えて硬くなった鶏肉がある。醤油ベースのタレが付いており、ところどころ黒い焦げ跡が見えるので「炭火焼き」は実際本当なのだろう。
     昨日の夜、仕事終わりにコンビニへと立ち寄った。その日、イギリスがやってくることをすっかり忘れていたために、自分だけの夕食に缶ビールとカップに入ったサラダ、レジ横のスナックケースから焼き鳥を購入し、帰路を辿っている。しばらく住宅街を歩き、着いた自宅には明かりが点いていた。アポイントなく訪れる大国の化身を想像したり、もしかすると先ほど別れた部下がなぜだか日本宅へと先回りしており、「あ、日本さん」とこちらを見る姿を思い浮かべた。引き戸を開くと途端に辺りの寒々しい風が遮断され、遠くの方にオレンジ色の光が見える。沓脱に目をやると、見慣れた革靴がきちんと揃えて置かれていた。「あっ」
    1880

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