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    クリスマスイベント用の漫画を小説にしました。言い訳でございます。どっちが得意とかそういうのより、私は絵を描けないということがはっきりしました。イベントはとても楽しかったしみなさんの朝菊は最高にエモかったです。

     小説すら、間に合わない。もういい、適当に書こう。アーサー・カークランドはその日、なんやかんやあってファストフード店に入った。クリスマス限定アルバイトとしてさんざんホールケーキを売り、着ぐるみを着用しアーケードの通行人にキャンペーングッズを配り、時折上司にあたる製菓店員に叱られながら、なんとか終業を迎えたころだ。クリスマスイブに当たる二十四日である今日は、どこも飲食店には客がひしめき合い、行列は店の外まで飛び出している。
     一緒にアルバイトをこなしていた、本田菊はとある店を指さした。「あそこなら、空いてるんじゃないんですか」と物静かな視線が店の明かりに向かう。そこが、ファストフード店だ。牛丼と呼ばれるこの国の人気料理を取り扱う店で、明らかに一人客が多く、やはり普段よりは混雑しているものの、滞在時間が短く回転が速い。よし、ここで、とどこでもいいから休みたい学生の二人は、慌てて店内へと入った。
     店内には醤油の匂いが立ち込め、誰もが無言でカウンター席についている。留学生であるアーサー・カークランドは同期である日本人の本田菊に食券の買い方を教えてもらい、カウンター越しに牛丼を受け取った。まずは無言で口の中に入れ、「おいしいですね」と本田菊が小さく呟くのに「うん、うまい」と返事をする。そうするうちに今日のアルバイトの話になり、「疲れた、まだ手がしびれてる」「寒かった」「給料はいいんだけど、仕事が多い」と会話が始まった。
    「バイト、お疲れ様です。でもアーサーさん」
    「ん?」
    「イギリスってクリスマスは家族と過ごすんじゃないんですか」
     ああ、とアーサー・カークランドは頷く。確かに自国では、クリスマスといえば家族の日だ。教会に向かうことも多いし、寮に住んでいる学生はほとんど実家に戻る。日本のクリスマスとは様子が違う。
    「兄貴からさ」
    「お兄さんから。上に三人いらっしゃるんでしたっけ」
    「そう。俺の三番目の兄貴が、クリスマスは帰ってこいってメールを送ってきたな。何通も」
    「何で帰らなかったんですか?」
    「のんびりしてたら」「ええ」「飛行機の予約、埋まってたんだよ。取れなかった」
     本田菊は黒い瞳を少し膨らませて、頷いた。どうやら、日本ではクリスマスシーズンにヨーロッパへ旅行をすることも多いらしい。混雑することが分かっていたら早めに予約したのにな、とアーサーは彼に伝えたが、本当はこの同期と一緒に過ごしたい気持ちが大きかった。
     留学してすぐに知り合った日本人の友人、本田菊に、アーサーは友情とは異なる感情を抱いていることに、自分でも薄々気付いている。彼とは話がよく合い、一緒にいて負担にならず、心地良い。彼の律儀で真面目な性格もあるのだろうが、まあ波長が合うのだろう。なぜ、ここまで彼と一緒に過ごす時間が楽しいものなのか、その深い理由については考えないでおいた。
    「だから、バイト入れよっかなって。働いてるわけだ」
    「そうなんですね、偉すぎる……」
     二人して食べ終わり、端を置く。食器をカウンターの上に出しておけばそれで良い、というマナーらしく、たどたどしくアーサーは本田菊の動きに従った。食後に何かゆっくり飲み物でも、という気分にも牛丼店ではさほどならず、多くの客と同じように店を後にする。
     マフラーで冷たい空気を防いだにもかかわらず、冬の風が衣服の隙間を縫うようにして二人を包み込む。駅前から続くアーケードはイルミネーションで明るく賑やかで、往来する姿も多いものの、ずいぶんと冷え込んでいた。空気が澄んでいるのか、街頭や店頭の光、樹木を飾る電飾の輝きが妙に目立って見える。
    「ああ、お腹いっぱい」
     本田菊が満足げにマフラー越しにくぐもった声で呟いた。光り輝く街に、「日本のクリスマスはすげえな」と率直な言葉が出る。見る限り恋人同士の姿が目立ち、それに視線を向けながら「独り身って辛くならないの」と小さな声で聞いてみる。
    「いや、辛いですよ。恋人たちの日ですから」「だよな」「イルミネーション、眩しいですね」「おう、痛いほどに」
     人の波を漂うようにして駅へと向かっていたが、本田菊が「あ」と足を止めた。「コンビニ」と目の前を指さす。
    「アーサーさん、このまま解散するのも寂しいしビール飲みましょうよ」
    「えっ、外で?」
    「そう、公園で」
     ほらほら、と本田菊がアーサーの腕に触れ、コートを引っ張ってコンビニエンスストアへと歩を進めた。「これこそ青春」とよく意味の分からない日本語も話している。目の前に手をつないだカップルの姿があり、その二人と、引っ張られる自分と本田菊の姿をなんとなく重ねてしまう。
     この男の心地よさは、友人としての距離が近いことにあるのかもしれない。“友人”がいた試しがないから、なんとなく本田菊を気に入ってしまうのだろう。そういえば性別にかかわらず、友情関係に恋愛感情が芽生えるというのは、脳の錯覚としてよくある例だ、といつかの授業で聞いた気もした。
     

     繁華街に囲まれた公園に到着したとき、明るさが目立った。キンと張りつめたような寒さもあり、よく見れば簡素な遊具の上に雪が積もり始めている。色褪せたベンチを見つけて、雪を取り払う。「クリームケーキ」と本田菊は積もった雪を指さして、アーサーは笑った。「今はしばらく、見たくない」
    「メリークリスマス」
     ビールの蓋を開け、瓶を傾けて重ねる。カチンと小気味よい音がし、一気に喉へ流し込んだ。ちらちらと紫色の闇夜からちぎれ落ちたような雪が降ってきて、明日も寒そうだなあとクリスマスを想像する。
    「すみませんね、アーサーさん」
    「何が」
    「クリスマスのお相手が、私で。もったいないなあ、アーサーさんはモテそうなのに」
     言葉とは裏腹に、本田菊はなぜか楽しそうに笑った。気になる異性や大勢の仲間とパーティするよりも、気楽なお前といる方が愉快に決まってる。そう伝えても良かったが、アーサーの口から出てきたのは「お互い様だろ」という無難なものだった。
    「菊と一緒なら楽しいから、何の問題もない」
     本田菊はビールを飲む手を止め、一瞬笑顔を消してこちらを見た。まじまじと黒い瞳がアーサーの身体をなぞり、それから柔らかな弧を描いて微笑む。「私も、楽しいです」と小さく返事したが、繁華街から聞こえてくる車のクラクションやスピーカーから流れるクリスマス・ソングと入り混じり、うやむやになって冬の夜にさっと溶けた。
     座っているベンチに積もった雪を、本田菊が素手で掬う。「つめたい」と言うものの、立ち上がって次々に雪を固めていき、小さな雪だるまを作り始めた。その間、「どうですか、日本は」と本田菊が話しはじめる。彼の長く繊細なまつ毛に雪の結晶が乗り、次第に溶けて水滴に変わる様子をアーサーは見つめていた。「だんだん慣れてきたよ、バイトできるぐらいには」
    「なあ、菊」
    「はい、なんでしょう」
    「それ何?」
    「これ? スノウ・アーサー・マン」
     丸い二つの雪の球に、上部分に木の枝をしっかりと押し付けている。やや眉毛の主張が強いそれを、アーサーだと言って彼は笑った。アルコールが回っているのか、歯を見せるその笑顔は爽快で、「なんだそれ」とアーサーが苦く笑っても本田菊は気にしていない。
     うっすらと積もる雪が、公園内を白く染めていく。寒さもあるが、ビールを飲む分身体は温かい。アーサーも立ち上がって雪だるまを作り始める。
    「ロンドンでは雪が積もると、スノウ・マンを作ることが推奨される」本田菊はせっせと雪球を作る手を止め、「本当に?」と訊ねてきた。
    「積雪量が相当だから、雪をまとめる意味で作れって言われるんだ。だから、俺は慣れている。技術はかなりあるぞ」
    「まあ、確かにアーサーさん器用そうですもんね」
    「腕前に自信はある」
    「はは。すごい」
     しばらく雪を触り、ああでもない、こうでもない、と雪球を作る。ビールを飲みつつ、クリスマスイブの夜に男二人が小さなさびれた公園で、何をやっているんだろう、という気分にもなる。本田菊が雪球をアーサーに投げつけてきたところから雪球を飛ばし合うゲームが始まり、アルバイトの疲れや、浮かれた街並みに高まる気分なども相まって、しばらくは身体を動かして遊んでいた。
    「手が冷たい!」
     本田菊はついに降参を口にし、アーサーは「やった」とガッツポーズを作る。息を切らして向かい合うと、アーサーよりも背の低い本田菊とまともに目が合った。綺麗な顔をしているな、とも思うし、雪に触れた指先が赤くなり、冷たそうだとも思う。ほら、と手を差し伸べたら、本田菊は拒否もせずアーサーに両手を突き出した。触れ合ったところがじわっと熱を持ち、なんとなく、はあと息を吹きかける。
    「あ、あったかい」
    「指、冷てえな」
    「私の家、来ます? 二次会でも」
    「いいね」
     雪はまだ降っていた。手をつないで向かい合うその姿勢は聖なる夜に妙に似合っていて、なんとなく本田菊の黒い瞳に、吸い込まれそうなめまいを覚えた。あ、このまま近づくと、もしかするとなんかこう、一線を越えてしまいそうな気がする。と、頭のどこかでアーサーの冷静な部分が囁いている。
     しかも、それをアーサーは「嫌だ」と思わない。むしろ好ましく、この雰囲気ならそうなってもおかしくないな、と肯定している。
     では、本田菊はどうなのか、というとじっとアーサーを見つめていた。彼の指を手のひらで包み、少しばかり顔を近づけてみる。もし、本田菊がさっと視線を外していつも通りの“友人である”二人に戻るのなら、もちろんそこでこの妙な空気は終わっていただろう。だが、ゆっくりと合図するように本田菊は目を閉じる。
     瞬間、この男とキスをする想像をした。仮に、この男に恋愛感情があり、さらにそういう仲になった、とすると、恋人には彼はこんな顔を見せるのか、と知らない一面を覗いた気分にもなる。冷たいはずだった手先に気付けば汗をかき、意識していないのに喉元に唾が落ち、ゆっくり嚥下した。
     距離を詰めてもよかったが、アーサーが息を吸い、その瞬間に咳が出た。すると甘ったるい空気がさっと身をひるがえすようにして霧散し、本田菊も「わあ」と間の抜けた声を出す。
    「な、なんか」
    「うん、なんか」
    「なんか、すみません。なんだろう? この空気」
    「な。いやすまない、こちらこそ」
     よし、本田菊の家に行こうぜ。とアーサー・カークランドはわざと明るい声を出す。夜でよかった。心許ない街頭の下だと、火照る顔に気付かれることはない。
     つないでいた手をさっと放した。雪だるまと砕けた雪球を残して、二人してビール瓶を片手にあとにする。このあと、“友人”に戻れるか? それとも、奥底に見えた気持ちを掘り返して、確かめてみるか? 自分に訊ねるもののその答えはなく、とにかく二人は歩き始めた。
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    MOURNINGクリスマスイベント用の漫画を小説にしました。言い訳でございます。どっちが得意とかそういうのより、私は絵を描けないということがはっきりしました。イベントはとても楽しかったしみなさんの朝菊は最高にエモかったです。
     小説すら、間に合わない。もういい、適当に書こう。アーサー・カークランドはその日、なんやかんやあってファストフード店に入った。クリスマス限定アルバイトとしてさんざんホールケーキを売り、着ぐるみを着用しアーケードの通行人にキャンペーングッズを配り、時折上司にあたる製菓店員に叱られながら、なんとか終業を迎えたころだ。クリスマスイブに当たる二十四日である今日は、どこも飲食店には客がひしめき合い、行列は店の外まで飛び出している。
     一緒にアルバイトをこなしていた、本田菊はとある店を指さした。「あそこなら、空いてるんじゃないんですか」と物静かな視線が店の明かりに向かう。そこが、ファストフード店だ。牛丼と呼ばれるこの国の人気料理を取り扱う店で、明らかに一人客が多く、やはり普段よりは混雑しているものの、滞在時間が短く回転が速い。よし、ここで、とどこでもいいから休みたい学生の二人は、慌てて店内へと入った。
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    TRAINING朝菊 13 妖精さん
     今朝、見つけた四つ葉のクローバーを頭に乗せると、彼は黒くて丸い瞳をきらめかせてわたしを見た。滑らかな黒髪の上にあるクローバーは今にも滑り落ちそうで、羽根を使って宙に浮き、茎を必死に両手で押さえる。「ああ」と優し気な声がして、瞳の縁から放射線状に生えた繊細なまつ毛が揺れた。
    「これ、頭に乗せるとあなた方を拝見できるのですか?」
    「そういうこと。ちょっと、ニホン。これ持っててちょうだい。離れたら見えなくなるのよ」
    「では、私に何か用でもあるのでしょうか」
     あるわ、と自分の口から言葉が飛び出したものの、その尖った響きに我ながらびっくりする。想像以上に、わたしはこの男に嫉妬心を抱いているらしい。
     日本がロンドンへとやってきたのは、昨晩のことだ。イギリスは今日どうしても外せない用事があって、早朝、庭にやってきてわたし達に挨拶と優しいキスを送ったあと、そのまま出かけてしまった。「じゃあニホンは一人で家の中にいるのね」と、わたしはそのままマナーハウス近くに流れる小さな川に行く。小一時間ほど飛び回り、探し出したクローバーを、ブランチを食べるためにテラスへとやってきた日本の頭に乗せた。よく知られてはいることだが、わたし達ピクシー妖精は人間の目には見えない。――イギリスとはしっかりと目が合い、彼はわたし達をひとしく認めてひとしく愛してくれるのだけど、「国の化身だから」という理由ではないらしい。日本には、数百年も前からずっとわたし達の姿は見えなかった。
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    gmksk

    TRAININGほぼ日朝菊 12
     果てしなく長い間この世を彷徨っていると、ふと「この感情は何だったか」と立ち止ることがある。数百年ほど拗らせた恋人との付き合いも、突然我に返ることがある。「今一緒にいなくても、まだまだこの先はずっと続く。別に、必死にならなくても良いのではないか」と思うものの、結局は彼をここに呼び寄せ、短い休暇を共に過ごしているのだからいよいよ自分が分からない。ぼうっとしながら、昨晩遅くまで起きていたために未だ布団に体を横たえている国の化身を想像した。手元には冷えて硬くなった鶏肉がある。醤油ベースのタレが付いており、ところどころ黒い焦げ跡が見えるので「炭火焼き」は実際本当なのだろう。
     昨日の夜、仕事終わりにコンビニへと立ち寄った。その日、イギリスがやってくることをすっかり忘れていたために、自分だけの夕食に缶ビールとカップに入ったサラダ、レジ横のスナックケースから焼き鳥を購入し、帰路を辿っている。しばらく住宅街を歩き、着いた自宅には明かりが点いていた。アポイントなく訪れる大国の化身を想像したり、もしかすると先ほど別れた部下がなぜだか日本宅へと先回りしており、「あ、日本さん」とこちらを見る姿を思い浮かべた。引き戸を開くと途端に辺りの寒々しい風が遮断され、遠くの方にオレンジ色の光が見える。沓脱に目をやると、見慣れた革靴がきちんと揃えて置かれていた。「あっ」
    1880

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