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    Yotubainko

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    アルベロ・ディ・ジウダ=ヴァレンテ

    17話「フェーネルリアの端にあるピーニアという集落を知っているか」
     ヴァレンテがシラーに投げかけた地名にシラーは首は振る。フェーネルリア内都市部の名前は1度目を通したことあるが、1度も聞いた事のない名前だった。
    「有名な所なんですか?」
     そう問いかければヴァレンテは視線を落とす。
    「いや⋯浮浪児や家を失った者たちが集まったいわばスラムのような所"だった"場所だ」
    「"だった"ということは⋯」
    「今はもう、誰もいない。あるのは廃墟となった空き家郡と掃き溜められた無数の墓だけだ」


     私はそこで生まれ、数年をそこで過ごした。この国の端、いつ地面が崩れ出すかも分からない恐怖はあったものの、私と同じ浮浪児の兄弟達は満足して生活していた。
     ただ、十分なお金があった訳では無い。ろくな仕事もなく、その日を暮らす日銭を稼ぐのでさえもままならなかった。
     ────ある日、フェーネルリア帝国の聖騎士を名乗る男が来た。名をネフィラ・カルヴェといい、その時最年長だった私へ聖騎士への道を提案してきた。
     別段彼らが私たちに何かを施す訳ではなかったようだが、十分だった。ろくな仕事はなく、身売りをするしかお金を稼ぐ方法がなかった私にとっては、たとえ辛く厳しい訓練が待っていたとて弟達に暖かく美味しいご飯を買い与えられる賃金を貰えるのなら、私は喜んで彼について行くことにした。

     初めて訪れた帝都は全てがキラキラして見えた。見たこともない食べ物に、綺麗な服、綺麗な建物。目に映る全てが鮮やかに見えて密かに胸を高鳴らせていたのを覚えている。
     連れてこられた建物で、ネフィラは私を風呂へと入れた。暖かかった。溜めた冷たい雨水が当たり前だと思っていた私が戸惑っている間に、彼に指示されたらしい他の聖騎士が髪の毛を洗ってくれたり、服を着せてくれたりした。
     白くシミのない綺麗なシャツ、着馴染みのない素材だったから、少し擽ったくは感じたがとても充実していた。
     身支度そうそうネフィラはこちらを待つことなく次の場所へと連れていかれた。
     次はどんな素敵なことが待っているのだろうとわくわくしながら彼について行った先は、白く綺麗な建物だった。これがいつかに聞いた王子様のお城なのだろうかと思った。普通の人は入ることの出来ないような美しい建物をキョロキョロと見つめながら私はある部屋へと通された。
     まっさきに私の目に飛び込んできたのは、今自分がいるところが現実ではないと錯覚させるようなバイオレットカラーのステンドグラスだった。
     細かい絵が細工されているそのガラスに魅了されていれば、ネフィラに背中を押され、目の前へと進まされていく。
     その先にいたのは白い神様だった。
     いいや、神様ではない。厳密に言えば純白の衣を纏った人間だった。が、幼少期の私が神と見紛うほどには神々しさを纏っており、微笑みを浮かべる彼の人の顔を見れば、誰もが跪いてしまうような魅力を持っている。
     彼の人は足音を感じさせない足取りで目の前まで来ると私の顔を見た。
    「うん。ネフィラから聞いた通り、いい子だね。」
     近くで見ても均一の取れた美しい顔は彫刻作品のようだった。どこまでも完璧で、神の最高傑作とでも称されてもおかしくはない。
    「君の名前を聞いてもいいかな?」
    「なまえ⋯?」
    「そう、君が父上や、母上、それか親しい人からもらった最初の贈り物」
    「⋯分からない⋯。とぉさんとかぁさんは私がモノゴコロ着く前に死んじゃったんだって」
     そう自分にシゴトをくれた人に言われたことを伝えれば、次の瞬間には自分の体は白に包まれていた。
     一瞬の間を置き自分が目の前の人に抱きしめられているのだと分かった。
     弟達を抱きしめたり、抱きしめらりということはしたことがあるが、それとはまた違った感覚がする。心をじわりと暖めるような、涙があふれるような安心感を感じる。
    「君は、今まで頑張ってきたんだね」
     耳に、心に染み込むような陽光のような言葉に、私の目は勝手に涙を流した。それを皮切りに、いままで抑えてきたらしい寂しいやら、悲しいやらの感情が溢れ出し、大いに泣いた。
     落ち着いたころ、かの人は私の頭に手を置くと優しく撫でてくれた。
    「私が君に名前をあげてもいいかな?贈り物時は遅くなってしまったけれど、どうか君に貰って欲しいんだ」
    「ほんと?私にくれるの?」
    「もちろん。そうだね⋯アルベロ・ディ・ジウダ⋯。アルベロ・ディ・ジウダ=ヴァレンテなんてどうかな?」
     初めて貰った名前を噛み締め、私はこくりと頷いた。
    「アルベロ、私は君の父上や母上には及ばないとは思うが、君を大切に思っているんだ。それと同じように、これからは自分のことも大切に思ってあげてくれるかな」
    「うん。⋯ねぇ、あなたのお名前聞いてもいい?」
    「私はネニュファール。ネニュファール=フェリ・プランタン」
     蓮の名前を冠するかの人はゆっくりと立ち上がると、私の後ろに立っていたネフィラを見る。
    「ネフィラ、君の仕事増やしてしまうかもしれないけれどアルベロの面倒。見てくれるかな」
    「⋯はい。お任せ下さい猊下」
     そう胸に手を当て頭を下げた彼の行動の意味をその時の私はまだ理解出来ていなかった。
     彼に引き連れられ部屋を出ようとした私の視界には、あいも変わらず美しい白い神様が佇んでいた。

     その日から、私は弟達を守ることに加え、白い神様の為に行動しようと心に決めた。
     予想していたよりもネフィラの稽古は辛いものではあったが、耐えて、耐えて、技術を着実に身につけて言った。
     辛くはあったが、楽しみ日々ではあった。こんな日がずっと続けばいいと心の底から思っていた。

     しかし、戦争が始まってしまった。
     エルプズュネーテ皇国とフェーネルリア帝国、二つの国の国教は相反するもので前々から地方でぽつぽつと争って吐いたが、ついに火種が炎へとなってしまった。
     戦況はフェーネルリアが押され気味、国の中からも魔法使いや成人が徴兵されているらしく、どうやら私もその中の一人だったらしい。
     戦争は怖かった、だが、周りの仲間達はすぐ終わると、こちらが勝つのだと言い聞かせてくれた。
     ついには前線へ立つ時が来た。周りは地獄一色。鳴り響く轟音は耳をつんざき、毎日砲弾に怯え浅い眠りを繰り返す日々。そして何より、今日隣に立っていた戦友でさえも、明日の朝には冷たくなっていることがざらであったのが辛かった。
     戦闘のさなか、落ち着かない戦況では仲間をまともに埋めてやることも出来ず、体温のない体と長く夜を共にした。
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