芸能パロのお酒CM出る義勇さんと様子のおかしい炭治郎くん冨岡さん、視線は正面固定で。
表情は、気だるげな様子を”作ってます”とわざとらしく。
体は少し斜めに、だらしないくらいで丁度かも。
そう言われてからこちら、ずっとカシャカシャとシャッター音がとまらない。
わざとらしく気だるくしているつもりはないが、眼の前で「惨めったらしくうずくまっている」という形容詞が似合う恋人を眺めてたら、フォトグラファーの審美眼に適っただけだ。
酒類のCMに無言で良いから出てくれ、と言われたと伝えたときの恋人はもう最初はすごかった。
「酔っ払った義勇さんを全世界に配信できるわけがないだろうが」
配信するわけがないだろう戯けが。
ものすごい勢いで叫んだ恋人を物理的に止めるには、目覚まし時計を止める要領で手刀を噛ますのが一番効果がある。
「酒のCMで本当に飲んでるやつなんぞいない」
少なくても、俺の知っている界隈では。
下戸、だったり下戸という設定だったりの相手に本物はそう出されない。
だから宇髄は界隈に入らない。
俺は下戸という設定を崩す気はないので、最後の一本取りまでは飲む気もない。
涙目で頭頂部を抑え振り向く恋人の可愛さに蹌踉めきながら、手刀を落とした場所をなでさする。
「え、でもビールとか『グビグビ、プハァ』ってやってるじゃないですか」
ずっと昔は麦茶を全力で振って、さらに泡だけ上乗せしていたりと苦労していた話も聞いたことがある。
しかし今回の収録には関係ない。
「俺が出るのはワインのCMだ」
「…じゃあぶどうジュースがワイングラスに?」
それは流石にないと思うが、出演したことがないのでなんともいえない。
「かもしれない」
確固たる答えがない時の俺は、恋人全肯定一択である。
そんな回想をするくらいには、うずくまる恋人を見るのにこの両目は慣れすぎていた。
なんなら、一緒に入った控え室に用意されたバスローブを両手に抱きしめて顔を真赤にした恋人も思い出しておこう。
「俺、ちょっと抗議してきます…義勇さんの色気は、こんな小道具不要だってことがわからないみたいなんで」
そこなのか、と思った。
バスローブを全世界にだなんて破廉恥な!と叫ぶのかと思っていた。
酔った俺は配信不可なのに、バスローブは嗜好性の違いで憤っていたらしい。
着るのは良いのか。
結局、スラックスと首元までしっかり閉めた濃い色のシャツというシンプルな装いにこちらが心配になるような取りまとめだった。
鼻息荒く帰ってきた恋人は、腕を組みやりきった顔でうなづいていた。
「いや、推すのはワインです。わかってます。だからこそ、義勇さんは普段通りにかっこよければ、それで良いんです」
いやあ監督が話の分かる方で良かったです!
そんなひまわりのような明るい笑顔で言われれば、手数をかけた礼しか出てこなかったが恋人は確か俺のマネージャーではなかったはず。
たしか、同業だったはず。たしか。たぶん。
そうして始まった撮影は、今に至る。
照らされた証明の真下に置かれた、細身の足がスラリと伸びた一人がけのハイバックソファは青緑色をしていた。
良く青系統、暗い色などがコーディネートされる傾向の自分には少し新鮮だった。
「竹雄の色みたいだ」
同じ緑でも個性の光る緑をまとう恋人の家庭では、この色は次男の色らしい。
そこに、更に細身の布がアクセントにかけられるのを見ていた。
ずいぶんと明るい青色に、六太の好きそうな画用紙色だなんて思っていた。
「良いなあ、今日は義勇さんウチの子まみれみたい」
そこで妬みにならず、羨む所がたまらなく俺の恋人が誇らしくなる一瞬だ。
「ピンクが入ってきたら、いよいよお前も侍らせないとな」
あはは、と笑った恋人はその後侍るどころかうずくまったわけだが。
ソファに座り、足を組めという。
浅い肘置きは腕の半分ほどしか支えがなく、仕事をする気がない。
まるで自分のようだと思っていたら、その組んだ足をもう少し斜めに座るよう指示が飛ぶ。
確かにこのソファの構造なら膝もぶつからない、それでいて背も後ろへ預けて窮屈のない仕様だ。
はい、と持たされたグラスには何も入っていない。
きっと零すことを考慮して、事前に恋人が進言したのだろう。
そこまで子供扱いされても困る、と思うが実際零さないと断言できる気もせず無言で座ったままを貫いた。
そこで、視線を正面に据えた所に入ってきたのが恋人の変わり果て…いや、惨めったらしく蹲った姿だった。
なぜそこでうずくまる。
配線を踏まないよう、カメラワークに入らない絶妙な位置をキープしながら何故うずくまる。
そのまま差し替えられたワイン入りのグラスに持ち替えて、今に至る。
「え、むり。義勇さんのかっこよさが無理」
無理ってなんだ、失礼な。
「足長いっていうか、いや足が長いのは知ってる。違うんだ、誰だあの足の長いソファ用意した人、天才じゃないか」
俺が恋人全肯定だとしたら、今の恋人は入れへのコーディネート全肯定マンというべきだろう。
「明るい色もお似合いですがそうなんだよ、義勇さん濃いめで統一すると色気が…知ってた!」
知ってたのか、そうか。
次回のデートの時には、深い色合いでまとめてみよう。
あわよくばスマートにお持ち帰りしてみたい。
自宅じゃなくて、たまにはホテルとかのお持ち帰りをしてみたい。
「あああふんぞり返っているようにも見えるけど、足を組んでいて偉そうかと思うけれど、とてもお行儀の良さが出ていてなんだこれカッコよすぎる」
座り方一つでここまで言われても、どんな気持ちの顔をしたら良いのかわからない。
冨岡さん、視線は正面固定で。
固定せざるを得ない、眼の前に恋人がいるのだから。
表情は、気だるげな様子を”作ってます”とわざとらしく。
気だるいかはわからないが、その恋人の所作のせいで胡乱な目つきにはなっているだろう。
体は少し斜めに、だらしないくらいで丁度かも。
恋人の一言一言に、心の中だけでツッコミを入れていたら少し疲れもでる。
「うあああああお行儀宜しい御御足が崩れてきてるぅうカッコいいよぅうううう」
全肯定されすぎて、今日の仕事がなんなのかちょっと良くわからなくなってきた。
その間に、撮影がほぼ終わっていたのでやっぱり炭治郎はすごい子だ。
撮影が終わったあと、ありがとうございましたと挨拶をしながらさっとソファを立った。
その頃には、蹲るのをやめて剣道の試合の待機のように正座で両手を膝において眺めていた炭治郎も一緒に立ち上げってこちらへ歩いてきた。
「あ、義勇さんチャプチャプ揺らすのは駄目です」
揺らしてない。
「くゆらせるってのはこう…」
そう言って、持っていたグラスをそうっと手放させトスリと先程まで温めておいたソファへと恋人が座った。
いつもなら快活に見開いた零れ落ちそうな瞳が、ゆるりとすがめられる。
気合を入れている、といつも上げるよう意識した眉尻はハの字に変わり、いつもなら優しい印象を与えるそれはベッドで見るそれと変わらない錯覚をもたらした。
ぶつけないように、と控えめに組んだろう足はスラリとした脛をボトムの陰影から感じさせた。
背の上部だけをゆるく預けたソファは、緑を基調としたいつもの炭治郎の色合いと違うのに妙にまとまって魅せている。
「スワリングっていうんですって、どっちだっけ…反時計周り?」
声だけは朗らかさを維持していてアンバランスさに、たったそれだけの時間だったろうが魅入っていた。
カシャリ。
片付けを始めようとしていただろうスタッフもいつの間にか誰一人として動いておらず、静まり返ったスタジオに一度、二度とシャッター音が落ちた。
「竈門くんごめん、今から事務所には聞くからさ、良かったら冨岡さんとCM出てくれない?」
一枚ずつでも良いからさ。
先日二十歳を超えたばかりの恋人には、CMに出る権利がある。
だが。
「済まないが、この顔を晒すわけにはいかない」
あんな淫靡な仕草を全世界には飲されては溜まったもんじゃあない。
すぐさまグラスを引き取りながらもう片方の手で腰ごと受取り立ち上がらせる。
わわ、と驚く声が恋人から上がるが今は少々乱雑でも勘弁願いたい。
一刻も早く、ここから連れ出さないと。
カシカシカシカシカシカシ。
響く連写音を背に、腰を抱えたまま足早に去ったあと。
正式に二人でCMの打診が来てしまい、自宅で惨めったらしく蹲ったのはどちらだったかは伏せておく。
ワイングラス、ゆらゆらさせたかっただけなのに!!!