3.目が回る酒は人を狂わすという。
百薬の長ともいうが、過ぎたるは及ばざるが如し。
そう、何事も過ぎてはいけないのである。
「たん…じろぉ」
首元に懐く年上の恋人は、いつもと様子の違う懐き方をしている。
炭治郎を膝に乗せて、優しく髪を梳く仕草は幼い頃から変わらないのに、その手はとても暖かい。
緩く支えるだけの片手はなく、話さないと言わんばかりに腰に巻き付く片腕で炭治郎の姿勢を固定しているかのようだ。
ソファの背もたれに緩く押し付け、撫で付ける様はいつもと同じようだが、その熱さが違う。
「好きだ」
優しく甘さを載せた声色も、いつもより熱さを携えているけれど、そのまま押し倒されるような熱さには至らない。
触れるだけのキスを首元に、頬を擦り寄せ、髪を梳き…随分と炭治郎を甘やかしているように見えて、そのじつ甘え倒しているのは義勇の方だ。
「愛しい」
その声が、触れる口先が、温かい手が。
全部で『愛しい』と告げてくる。
いつだって言葉の足りない義勇は、その分行動で示したいと口にしていた。
人は酔うと本心を隠せなくなるという。
大手を振って交際を始めてからこちら、惜しみなく注がれる愛情を、それまでも…きっとこれからだって疑うことはなかったが、それでもあまり聞けることのない言葉が先程から延々と口からこぼれ落ちてくる。
本心を疑ったことはないけれど、少し惜しいと炭治郎が感じていたのも事実だった。
「愛してる」
ベッドの上の熱さに目を回し、茹だった思考で聞くばかりだった言葉が、頭からひっきりなしにまぶされている。
真っ赤ないちごの上に降り積もる粉砂糖のような甘いそれは、どんどん降り積もっていく。
「勘弁してほしい…」
「んぅ?」
こちらはシラフなんですよ、と零す炭治郎に喉だけで返事をしてなおも首に懐く義勇はいつも通り愛しいと伝えているつもりだ。
そのタガが外れていることも、喜びを噛みしめるより先に爆発してしまいそうで目を回す炭治郎のことも目に入っていない。
「このままでは爆死する」
不穏な単語に、ようやっと顔を上げた義勇はとろりと愛しさを溶かした瞳で同じく蕩けた炭治郎の瞳を覗き込む。
「たんじろ、人は愛しさで爆死はしない。俺は知ってる」
だって、義勇もまた毎日優しく降りそそぐ木漏れ日のような愛しさを注がれても爆発はしていない。
それを耳元で、滔々と語る義勇にとうとう炭治郎は叫んでしまった。
「義勇さんのそれはダムの決壊と同じなんですって!!」
炭治郎の容量は今、爆発してしまったらしい。
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お題:酔っ払った義に抱きつかれた炭。
人は酔うと本心を隠せなくなるという話を思い出しながら、
こうも耳元で好きだ愛してるとばかり囁かれたら喜びを噛みしめるより先に爆発してしまいそうだと目を回している。