口を開けば、いつだって私の事ばかりで。
誰よりも何よりも私の事を一番に気にかけてくれた。
だから、まさか

「御免よ、愛弟子。キミの気持ちには応えられないよ」

断られるなんて、思ってもなかったの。
呆然とする私に、教官は続ける。

「キミには、もっとお似合いの人が見つかるだろうよ。俺みたいなおじさんじゃなくてね」

私にお似合いって、何？
私は、私の好きな人の隣に居たい。

「ずっとキミと一緒に鍛錬して来たからなぁ。キミは勘違いしているんだよ、きっと」

私の気持ちが勘違いだと言う。
私だって、勘違いかそうじゃないかくらい分かる。
私の気持ちを勝手に決めないでよ。

「外の世界を見てご覧。キミが思うより外の世界は広いんだよ」

外の世界が広かろうが狭かろうが関係ない。
狭い世界だろうと構わない。
貴方が居ない世界なんて、何の魅力もない。

「貴方が…っ、何と言っても、っ私の心は、っ、変わらない…」

教官の目が見開かれる。
何で泣いているのかなんて、私にも分からない。
色々な感情が入り混じって、説明のつかない心は、涙となって表に出た。

「私はっ、教官が、…大好きよっ！」

教官だって、私の事を大好きなんだからっ！
そう、捨て台詞の様に言い放って教官の前から立ち去った。

走馬灯の様に記憶が流れていく。

地に大穴を開けて雷神龍は落ちていった。
倒れ込んだ私の体から、命が抜けていく。
心臓の音しか聞こえない。
指一本も動かせない。
視界も少しずつ霞んできた。

教官に会いたいなぁ。
瞼の裏に浮かぶのは、誰よりも愛おしい人。
想いを否定されても、受け入れられなくても、私の心には、ずっと教官がいる。

瞼の裏に教官を映して、このまま眠ってしまおうかと思っていたら、思い切り体を起こされて、激痛に顔が歪む。
余りの痛さに腹が立って、誰だと目を開けたら、瞼の裏と同じ顔があった。

「愛弟子っ！！」

必死な顔で私を呼ぶ教官の目から、熱くて大きな雨粒が落ちてくる。
なぁんだ。
ほら、やっぱり。
教官も私の事、大好きじゃない。