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    10ゲージのポイポイ

    @honey_bee_19se

    書けないものとか色々ポイポイ

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    POIPOI 89

    前にポイした🔥さん生存if夢の続き。書きかけだった所まで。
    ♾列車の所書いてたので供養。

    誓い03「杏寿郎、継子の彼女を連れて任務にあたってくれ」
    「彼女を、ですか…?」
    「彼女がきっと助けになるだろう」
    「分かりました!」

    お館様に無限列車の任務を告げられ、杏寿郎様と共に列車に乗り込む。
    この列車で何人もの人が行方知れずになっている。
    隊員を送り込んだが乗客と同じように皆、行方知れずになっているらしい。
    十二鬼月がいるかもしれないと、柱である杏寿郎様に任務が引き継がれた。

    私も向かうようにお館様に言われ共に任務にあたることになったが、階級は甲とは言え
    実力は杏寿郎様に遠く及びはしない。
    何故、私が?と思ったが、お館様が仰るのならば何か理由があるのだろう。
    足手纏いにならないように気を引き締めていかねば…。

    「うまい!」

    ……気を引き締めねばならないが、杏寿郎様の食欲に気が削がれていく。
    いつも思うが、この人はどれだけ食べるのだろう…。
    桁外れの力量を持ち合わせる柱ともなれば、これが普通なのか?
    いや、だが、他の柱の方々はこんなに食べていなかった気がする。
    蜜璃さんは体質もあるから食べなければいけないらしいが…。

    「炎柱様…まだ食べるのですか…」
    「うまい!うむ!君もまだ食べるか?」
    「いえ…」

    ずいっと出された弁当は、先程一ついただいたが、とても美味しかった。
    だが、一つで十分。
    正直、見ているだけでお腹いっぱいだ。
    食べる度に、うまい!と口にするので他の乗客の視線が痛い…。
    ふ、と通路に目をやれば三人の少年達がこちらを見ていた。
    額に痣がある少年…もしかして彼が例の鬼を連れた鬼殺隊員か?

    「あの、煉獄さんですか?」
    「うまい!!」
    「あ、それはもうよく分かりました…」



    「黒刀か!それはキツイな!」
    「キツイんですか!?」
    「私と同じですね」

    「どの呼吸を極めればいいか分からないと聞く!」
    「安心するといい!彼女と同じ黒刀ならば俺の所で面倒を見てやろう!」
    「どこ見てるんですか!?」
    「ははは…」

    「何ですか?」
    「車掌さんに切符を見せるんですよ」

    車掌さんが切符に切り込みを入れていく。
    顔色が悪いが大丈夫だろうか?
    パチン、と切り込みが入った瞬間、何かぞわりとするものが背筋に走った。

    何だ?
    何か変な感じがした気がする…。

    ハッと気づけば、何処かの家の外にいた。
    見覚えのある家は、あの悪夢の夜に地獄と化した我が家だった。

    「ど、うして…」
    「あら?お庭で遊んでいたの?」

    聞こえた鈴のような声に弾かれたように振り返る。
    そこには微笑みを浮かべた母が居た。
    ヒュッと喉の奥が鳴る。

    「二人とも、そこに居たのか」

    背後から、力強くも優しい声が聞こえる。
    壊れた絡繰人形の様に振り向けば、縁側に佇む父が居た。
    あの日壊れた優しい日々がそこにあった。

    「まあ!どうしたの?」

    母が声を上げる。
    視界は滲み、ボロボロと涙が零れた。

    当たり前にあった日々。
    一瞬で壊れてしまった儚い幸せ。
    もう戻らない愛しい世界。

    夢だと、本能が告げる。
    もう失ったものだと。
    それでも。
    それでも縋ってしまうのは、その日々が眩しく、愛おしく、幸せだったから。

    「お母さんっ……お父さんっ……」

    涙を流す私をそっと抱きしめてくれた母は、柔らかく温かかった。





    「動ける人は怪我人に手を貸してやってください!………!?」

    何だ?何か、嫌な予感がする…。
    そう思った瞬間、爆音と共にゾッとするような気配が現れた。

    まだ鬼がいたのか!?
    だが、乗客を放ってはおけない。

    杏寿郎様…!

    動けない怪我人を運び出し、軽傷の人に手伝ってもらう。
    ゾワゾワと気が落ち着かない。
    あの日の最悪な夜が思い出される。
    ドォン!と、また大きな音が聞こえた。

    「其処のお方!もうすぐ救援が来る!すまないが後を頼みます!」

    そう告げるや否や、全速力で駆け出す。
    もうすぐ隠達も来るだろう。
    どうか杞憂であってくれ。
    視界に、土煙と杏寿郎様の剣技の軌道が見える。
    さらに近づくと、座り込む竈門少年と立ち尽くす嘴平少年、そして血に濡れた杏寿郎様が見えた。

    「炎柱様!!」

    鬼と戦う杏寿郎様の左目は潰れ、止めどなく血が滴り落ちる。
    怒りが身体中の血を沸騰させた。
    腹の底から湧き上がる燃えるような怒りを、呼吸に変えた。

    「貴様ぁぁっ!!炎の呼吸、伍ノ型、炎虎!」

    杏寿郎様と鬼の間に技を放つ。
    鬼は私の技を躱し、邪魔をされたと言わんばかりに顔を顰めた。
    全身から悍ましい程の気迫。
    体中に刺青のような模様があるその鬼の金色の瞳には、上弦の文字が刻まれていた。

    「上弦の参…!?」
    「気を抜くな!」

    杏寿郎様が私に声をかける。
    柱の杏寿郎様ですら傷を負っている。
    杏寿郎様に及ばない私が力になれる事はないかもしれない。
    それでも、やらねばならぬ時がある。
    私は杏寿郎様を守るんだ。

    「邪魔が入ったな…女、貴様には用は無い」

    猗窩座は私をチラリと横目で見て、吐き捨てるように告げる。
    物凄い気迫だ。
    だが、それに怯む訳にはいかない。

    「杏寿郎!!さあ、鬼になると言え!」

    鬼は杏寿郎様に向き直ると、そう告げ、目まぐるしい速さで攻撃を繰り出す。
    躱し、斬り込み、刀で受け止め、杏寿郎様は応戦する。
    杏寿郎様を鬼に?
    刀を握る手に力が篭る。

    「貴様!巫山戯るな!炎の呼吸、弐ノ型、昇り炎天!」

    横から技を繰り出す。
    腕を切り落としたが、凄まじい速度で再生される。
    二対一だが、そんな事を言ってはいられない。
    鬼は頸を斬らない限り死ぬ事はなく、どれだけ斬撃を浴びせても瞬く間に再生してしまう。
    生身の私達は欠けた肉体が再生する事などない。

    「ぐ、ぅっ」

    鬼の拳が頭を掠り、視界が揺れる。
    直ぐに体勢を立て直さねば、と霞んだ視界、鬼の方を見れば、鬼の側、ゆらりと影が見えた。
    女の人のような形をしたそれは鬼に縋り付き何かを必死で叫んでいる。

    「は、く、じ?」

    誰かの名前のようだ。
    一時も気を抜けない筈なのに、彼女の口の動きを読んだ。
    ぼんやりとしか見えないが、彼女の様子があまりにも痛ましかったからかもしれない。

    「!!」

    私が誰かの名を口にした途端、鬼の闘気が一段と増した。
    切り裂く様な闘気が空気を揺らす。

    「何故だか分からんが…貴様はここで始末しておかねば…っ!」

    練り上げられた闘志を纏った鬼の腕が私の方に向かって来た。

    「させるかぁ!」
    「炎柱様!」

    彼女に向かって行った猗窩座の腕を刀で飛ばす。

    「ぐっ!」
    「炎柱様っ!うっ!」

    猗窩座の蹴りが繰り出され、刀で受けたものの、勢いは殺せずに吹き飛ばされた。
    彼女は再生した腕からの攻撃を腹に食らい、苦痛に顔を歪めた。
    瞬時に態勢を立て直し、猗窩座と向き合う。

    「あぅっ…ぐっ…ぅっ!」
    「そうだ。なぁ杏寿郎…こいつを鬼にすればお前も鬼になるか?」

    彼女も態勢を立て直そうとした瞬間、猗窩座が彼女の髪を掴んで持ち上げた。
    彼女の顔が苦痛に歪む。

    「誰が鬼になんぞっ…!」
    「黙れ」
    「止めろぉぉ!!」

    叫んで走り寄るが、距離が遠い。
    ザワリ、と肌が粟立つ。
    猗窩座は冷たく言い放つや否や、彼女の肩の傷に自身の傷ついたままの腕を突き立てた。

    「ぐっ!ぅ…あああっ!!」

    ぐちゃり、と嫌な音が響く。
    猗窩座は腕についた彼女の血を払い、彼女がのたうち回るのを静かに見下ろしていた。

    「壱ノ型、不知火!!」

    猗窩座向けて技を放つが、ヒラリと躱される。
    次々と技を放ち、猗窩座の腕が飛ぶ、体が斬れる。
    それでも、その表情は先程までとは打って変わって無表情だった。

    「グァァァァ!!!」

    背後で聞こえた声に、背筋がヒヤリとし、嫌な汗が一筋流れた。
    先程まで何の感情も表さなかった目の前の鬼が、ニィッと嗤う。
    ドクドクと、自分の心臓の音が耳に響く。

    「そ、んな…」

    竈門少年が小さく驚愕の声をあげた。
    振り返り目に映った彼女の口元には鋭い牙が見えた。
    俺達を見据える彼女の目は、まさしく、鬼のそれだった。

    「ウゥゥゥ!!」
    「さぁ!杏寿郎!お前も鬼になれ!」

    さも愉快だと言わんばかりに猗窩座は笑って高々にそう言った。


    苦しい。
    苦しい。
    視界の端に誰かの足が見える。

    杏寿郎、様?

    体中が痛い。
    何かが私の中で蠢いている。
    徐々に視界が暗くなっていく。
    あの赤いものは、何だったか。
    朧げに視界に入る足は、誰のものだったか。

    真っ暗だ。
    苦しい。
    痛い。
    苦しい。
    誰か助けて。
    私の側にいつも居てくれた人は誰だったか。
    思い出せない。

    誰だ?
    誰かの声がする…。

    『呼吸を使える剣士にはもう興味がないが、貴様が鬼になれば鬼狩り共も梃子摺るだろう』

    黒い人影が見える。
    誰だ?
    頭に響く声。
    黒い人影が私に話しかける。

    『猗窩座と共に鬼狩り共を殺せ!』

    黒い人影は少しずつ輪郭を見せ、青白い男の顔が見える。
    頭が割れるように痛い。

    『殺せ!』

    嫌だ!
    身体が軋み、激痛が走る。
    ーーー様!
    助けを求めたいのに誰だか思い出せない。

    『鬼狩り共を殺せ!』

    嫌だ!!
    鬼になんぞなりたくない。
    苦痛と悔しさに涙が溢れた。

    『もっと心を燃やすんだ!』

    ハッと、脳裏に浮かんだ声。
    日の光のような鮮やかな金色。
    炎のように燃える瞳。

    杏寿郎様。

    脳裏に、次々と記憶が蘇る。
    何処からともなく、風鈴の音が聞こえた。

    『杏寿郎と千寿郎の力になってあげて下さい』

    いつもより顔色は良いが、その肌は白く痩せていた。
    上半身だけ起こした瑠火様は私を見据えて、そう告げた。
    私は、もう永くありません、そう告げる言葉に涙が溢れそうになる。
    私を救ってくれた槇寿郎様。
    そして瑠火様は見知らぬ私を当然のように受け入れてくれた。

    『貴女にこんな事を頼むのは、酷かもしれません…』

    哀しそうに伏し目がちになった目。
    私に何か出来る事があれば、何でもしてあげたい。

    『あの人は…、槇寿郎様は、優しい人です』

    槇寿郎様は、とてもお強い人だ。
    けれども、とてもとても心優しい人だ。
    瑠火様を亡くされたら、とても気を落とされてしまうだろう。
    それ程に瑠火様を深く愛していらっしゃる。

    『どうか…支えてやって下さい』

    いつだって見てきた。
    いつだってみんなと一緒に過ごしてきた。

    『…煉獄家を頼みます』

    抱き寄せられた温もりは、あの時と同じで温かかった。
    私を救ってくれた温もり。

    『本当の娘のように、思っていましたよ』
    『瑠火様…っ!』

    震える声で紡がれた言葉に、ぼろり、と涙が零れ落ちた。
    一度、涙が落ちれば、もうそれを止める事など出来なかった。
    ボロボロと泣く私の涙を、手拭いで優しく拭ってくれた瑠火様の目からも涙が溢れていた。
    部屋を出て、廊下に立っていた杏寿郎様の目元は赤く腫れ、瞳は揺れていた。
    あの日、私を温めてくれた優しい温もりを思い出す。
    彼の優しさが私を救ってくれた。
    今度は私が彼を救う。
    瑠火様と約束した通り、彼らを守るんだ。

    『…杏寿郎様』

    杏寿郎様の背に腕を回し、そっと抱き寄せた。
    そろそろと私の背に腕が回され、その手に力が篭った。
    私の肩に額を乗せて、震える体をギュッと抱きしめる。

    瑠火様。
    瑠火様。

    脳裏に優しい笑顔が浮かぶ。
    哀しさに涙が溢れた。

    「きょう、じゅろう、さま」

    そうだ。
    私は瑠火様と約束したんだ。
    家族を守ると。
    杏寿郎様を、守るんだ!

    目の前に居た男は、いつの間にか消えていた。



    ボタボタと肩から血を流し、口からは鋭い牙が覗き、グルグルと喉を鳴らし、金色の瞳がこちらを見据えた。
    彼女が鬼にされた。
    最悪の出来事に思考が乱れる。
    それでも、牙を剥き出しにし、飛びかかる勢いで走り出した彼女に刀を構えた。

    彼女を、殺さなければならない。

    「グアァ!!」
    「!?」
    「鬼の方に向かって行った…?」

    俺達に向かって来るかと思われた彼女は、俺の横を通り過ぎて猗窩座に鋭い爪を振るった。
    俺も竈門少年も、驚き呆然とする。
    彼女は鬼にされても、鬼に立ち向かって行った。

    「鬼になっても俺に向かって来るとは、どこまでも勘に障るヤツだ!」
    「グアアァ!!」

    猗窩座は苛立ちを隠しもせずに彼女の攻撃を躱す。
    この機を逃すまいと闘気を練り上げ、呼吸を整えた。
    一瞬で広範囲を抉る!

    「玖ノ型、奥義!煉獄!!」
    「ぐっ!?」

    猗窩座の腕を切り、頸を狙う。
    再生した腕が俺を狙ったが、彼女の蹴りが猗窩座の腕を吹き飛ばした。
    それでも止まない攻撃に俺も彼女も弾かれ、距離が開いた。
    日の出が近いのか、辺りが、ほんのりと白んで来た。

    「チィッ!陽光が差す!」
    「逃げるなぁ!!」

    差し込んできた光に猗窩座の顔色が変わり、森の中へと走り出す。
    走って追いかけた竈門少年が森の中に日輪刀を投げつけ、その刀は猗窩座の胸を貫いた。
    好機に猗窩座を追いかけ、技を繰り出そうとしたその瞬間、

    「いいのか!?あの女も灼け死ぬぞ!」
    「!!」

    猗窩座が叫んだ。
    ハッと、振り向いた先の彼女が陽光に当たった瞬間、ジュッと音を立てて彼女の皮膚が灼け爛れた。

    「ギャアッ!!」
    「!!」
    「日が差して…!」

    竈門少年が彼女に駆け寄るのが見える。
    振り向いた一瞬、猗窩座はもう居なくなっていた。

    「ウゥゥ…!」
    「煉獄さん!!」

    竈門少年が必死で影を作ってくれているが、彼女の肌はどんどんと灼けていく。
    日が昇りきっていないのに、こんなにも灼けるものなのか!?

    「これを羽織れ!」
    「体を!体を小さくするんです!」
    「グウゥゥ…!」

    俺の羽織を彼女にかける。
    竈門少年は妹で分かっているのか、体を縮めるように告げる。
    彼女の体が少しずつ小さくなっていく。
    羽織の中、灼け爛れた彼女の顔が苦痛に歪んでいる。

    (鬼にされた…このまま殺さなければ…)

    咄嗟に守ったが、彼女は今、鬼だ。
    鬼は、滅さねばならない。

    (だが…彼女は俺達を守ってくれた)

    鬼にされても猗窩座に立ち向かい人間を守った。
    竈門少年の妹のように。
    隣の竈門少年も同じことを思っているだろう。
    彼の妹は血を流しながらも乗客を守った。
    それは正しく鬼殺隊の一員と言っていい。

    だが、彼女は?
    本当に、人を襲わないと言い切れるのか?

    言葉無く、日輪刀に手をかけた。
    竈門少年の視線が痛い。
    柱として、鬼は滅殺せねば。
    彼女が人を襲う前に。
    彼女が人を殺す前に。
    刀を握る手に力を入れた瞬間、彼女が何か呟いた。

    「きょ、じゅ、…さま……ごめ、なさい」

    途切れ途切れ、そう呟くと、ポロポロと涙を流した。
    脳裏に、幼き日の思い出が蘇る。

    『杏寿郎様!夕餉が出来ましたよ〜』

    笑いながら駆け寄ってくる彼女は、彼女の両親が亡くなってからずっと一緒だった。
    哀しみも喜びも、共に分かち合ってきた家族だ。
    母上が亡くなった後も共に支え合い生きてきた家族だ。

    母上。
    俺は、どうしたらいいのか。

    『後を頼みます。力を合わせて、共に強く生きなさい』

    母上の言葉が浮かんだ。

    『杏寿郎なら出来ます』

    あの日、母上に託された。
    彼女もまた託された。
    弱き者を守り、共に強く生きようと。

    刀を握った手からは力が抜けていた。
    涙を流しながら眠りに落ちる彼女を、殺すことはできなかった。




    人を襲わない証明をしなければならない。

    「鬼にされましたが、竈門隊士の妹と同じく鬼に立ち向かい人々を守れると判断致しました」
    「煉獄よォ、お前まで何言ってるんだァ!鬼を殺してこその鬼殺隊だろォ!」
    「………」
    「殺せねぇェなら柱を辞めちまえェ!!」

    ボタボタと不死川の血が落ちる。
    それを食い入る様に見つめる彼女はまさしく鬼だ。
    グルグルと喉を鳴らし、口からは涎を垂らし、手は隊服を握り締めている。
    その様子を黙って見つめる。
    握り締めた拳には、痛い程に力が入って血が滲む。

    頼む。
    耐えてくれ。
    俺は、君までも失いたくない。


    痛い。痛い。
    目の前の男からは、甘い甘い香りがする。
    啜りたい。
    喉が渇く。
    けれど、あれを口にすれば、私は…。

    『遠慮するな…お前は…俺の娘だ』

    優しく慈しむように笑う人。

    『…煉獄家を頼みます』

    涙を流しながらも凛と美しい笑みを浮かべた人。

    『姉上は大切な家族です!』

    一所懸命に稽古して豆だらけの手で優しく笑う人。

    『母上と同じ味がする!わっしょい!』

    いつだって明るく私を支えてくれる人。

    大好きな人達が脳裏に浮かぶ。
    彼らを、彼を、悲しませたくない。


    「覚えているか?煉獄杏寿郎だ」
    「きょ、きょじゅ、ろさま」
    「!」

    『杏寿郎様』


    「お前がついていながらなんて様だ!」
    「申し訳ありません」
    「きょうじゅろうさま、おこる、だめっ」



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