「左近くん」と呼んでくれるその声があの険しい顔に似合わずとても穏やかで、つい心をふるわせてしまう。
あの人はぼくよりもずっと大人で、タソガレドキの為に、忍者隊の為に、そして何よりも雑渡昆奈門さんの為に生きている人だ。偶々彼の上司がぼくの先輩と知り合いになっただけ、偶々上司のお供で彼が来ているだけ、だから、ぼくと彼に特別な繋がりなんかない。そんな関係だと解っているはずなのに、心のどこかで期待をしてしまう自分が情けない。こんな気持ち、なくなってしまえばいいのに。お茶を出した時に礼を言われることも、委員会の作業を手伝ってくれることも、転びそうになったところを助けてくれることも、ぼくだけじゃなく他の保健委員にもしてくれている。彼が手をさしのべるのはぼくだけじゃない。わかってる。わかりきっているのに。触れてくる指先にほんの少しでも特別な想いを乗せてくれていたらと望んでしまう。
ほら、今だって。
「お邪魔するよ、左近くん」
細められた目。頭に乗せられる掌。やわらかな声。高坂さんのそんな仕草に胸がぎゅうっと締め付けられる。それを悟られないようにぼくは唇を引き結んで眉を寄せた。