エレベーターを降りてすぐに目の前、重い扉を押し開ける。照明を落とした店内、室中に満ちる甘ったるい匂いと薄っぺらな音楽。ここにはもう何度も通っているけれど、この瞬間はいつも妙に緊張してしまう。
「いらっしゃいませ、主さん」
出迎えてくれたかわいらしい笑顔に、私は一気に肩の力が抜け、自分の気持ちが浮き上がるのを感じた。
「堀川くん……!」
思わず大きな声が出たけれど、すぐにBGMにかき消されていく。ここでは私が少しくらい大声を出したって、誰も気にする人はいない。堀川くんは私の正面へまっすぐに向かい合うと、首を傾げてにこりと笑った。
「また来てくれて嬉しいです。ご来店、ありがとうございます」
私はその姿にしばし見惚れる。今日の彼は、なんと初めて目にする軽装の姿だった。淡い縞模様の入った紺の浴衣。堀川くんにとてもよく似合っている。全体的に落ち着いた色合いだけれど、帯の飾り紐が目を引いた。
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