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    naco__1616

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    naco__1616

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    推しカプ喫茶で散財する話(兼堀)の続き書きました!
    載っけてるのは最初から

     エレベーターを降りてすぐに目の前、重い扉を押し開ける。照明を落とした店内、室中に満ちる甘ったるい匂いと薄っぺらな音楽。ここにはもう何度も通っているけれど、この瞬間はいつも妙に緊張してしまう。
    「いらっしゃいませ、主さん」
     出迎えてくれたかわいらしい笑顔に、私は一気に肩の力が抜け、自分の気持ちが浮き上がるのを感じた。
    「堀川くん……!」
     思わず大きな声が出たけれど、すぐにBGMにかき消されていく。ここでは私が少しくらい大声を出したって、誰も気にする人はいない。堀川くんは私の正面へまっすぐに向かい合うと、首を傾げてにこりと笑った。
    「また来てくれて嬉しいです。ご来店、ありがとうございます」
     私はその姿にしばし見惚れる。今日の彼は、なんと初めて目にする軽装の姿だった。淡い縞模様の入った紺の浴衣。堀川くんにとてもよく似合っている。全体的に落ち着いた色合いだけれど、帯の飾り紐が目を引いた。
    「堀川くん、今日は浴衣姿なの? かわいいね」
    「えへへ、ありがとうございます。今日は月に一度の軽装デーなんですよ」
     照れたように頬をかく仕草もびっくりするくらいにかわいい。隙なく着込んだブレザー姿も、見慣れた赤いジャージ姿ももちろん好きだ。けれど初めて見る浴衣姿の威力はすさまじい。堀川くんが動くたび、いつもは見えない足首がちらちらと覗く。私はこれからの時間を想像して、思わずこくりと喉を鳴らした。
    「じゃあ、お席にご案内しますね」
     堀川くんはそう言うと、私の前に立って歩き出した。私もその背中について行く。

     長い廊下の左右、仕切らた個室がずらりと並ぶ。しばらく歩き、奥から二番目の部屋に案内された。軽い音を立てて引き戸を開く。シックな色合いでまとめられた狭い室内、小さなテーブルを挟んでソファが二つ、向かい合わせに並んでいる。
    「どうぞ」
     堀川くんが手で指し示してくれるのに従って、奥のソファに腰掛けた。
    「今日もいつものコースで大丈夫ですか?」
    「うん、六十分コースでお願いしようかな。それから、堀川くんの好きな苺パフェをひとつ注文してもいい? 私の飲み物は、えっと、ジンジャーエールで」
    「ありがとうございます!」
     堀川くんは顔いっぱいに笑顔を浮かべる。そしてじわりと頬を染め、今度は目尻をとろりと緩めた。
    「じゃあ、しばらく待っててくださいね。準備してきますから」
     これまでの元気いっぱいの接客から一点、その表情には甘い色がたっぷりと見える。
     こくこくと頷く私に一礼をして、堀川くんが部屋を去っていく。遠ざかる軽い足音を聞きながら、私は落ち着かない気持ちで浅く息を吐き出した。



     万屋街には様々な店が並んでいる。一番のメイン通りに並ぶ店で扱っているのは、本丸の運営に必要な道具類、それから食料に日用品。そこから横の通りに入ると、茶屋やレストランの並ぶグルメ街、もうひとつ奥には専門店の並ぶ通りが続く。家具や着物、装飾品なんかも一通りはここで買うことができるので、給金を貯めて訪れる男士も多いのだとか。
     そしてさらに進んだ最奥のエリアに、私の今いる店は位置している。古風な店構えの他の通りと反対に、ここに立ち並ぶのはコンクリートでできた四角いビル。様々な店が雑居するそのうちのワンフロア。この店で提供されるのは飲食物だけではない。刀剣男士そのものが、サービスの中心となっている。
     刀剣男士にそんなことをさせるなんて罰当たりな、と思うかもしれない。私も常連の身でありながら、堀川くんに尋ねてみたことがある。この商売に嫌悪感はないのか、と。
    「このあたりのお店は運営管理がすごくちゃんとしてるんですよ。所属本丸の審神者と政府の許可、それから本刃の希望がないと働けないですし。非番の日なんかに空いた時間分だけ働けて、お給金もしっかり出るので、すごく助かってます。嫌な思いをしたことだってないですよ。ここで働いてる他の子達も皆そうです。変わったことを考えるんだなぁとは思いますけど……、でも、僕、ここで働く時間が好きなんです」
     そう答えて、にこりと笑った。そして堀川くんははっきりと口にしなかったけれど、一番の理由は、この店のシステムにあるのだろう。

     そんな風にぼんやり考えごとをしていると、通路の向こうから足音が聞こえてきた。
     今度は二人分。ぱたぱたと軽い足音と、ゆったりと歩く重い足音。私がドキドキしながら待っていると、部屋の扉がノックされる。
    「主さん、お待たせしました! 失礼しますね」
    「は、はーい!」
     からりと戸を開き、堀川くんが入ってくる。手にはパフェとジンジャーエールの乗ったお盆。そしてその後ろから、一回りも二回りも大きな姿が続く。
    「兼さん……」
     呟いた私の顔を見やり、兼さんはにやりと口の端を上げる。
    「よォ、またあんたか」
    「もう兼さん、せっかく来てくれた主さんにそんなこと言っちゃだめだよ」
     二人は仲良く言い合いながら、私の向かいのソファに並んで腰掛けた。
    「今日もよろしくお願いします」
    「よろしく頼むぜ」
     二人、にこりと微笑んでくれる。
     この店は、こうして刀剣男士と話ができる場所。……それだけでは無い。例えば手を繋いだり、抱きしめあったり、そんな風に二人が触れ合っている所を間近で見ることのできる店なのだ。追加料金を払えば、なんと二人のキスも見ることができる。私はここの兼さんと堀川くんの大ファンで、毎月給金が出るたび、自由に使える小遣いを握りしめ、二人に会いに来ているのだ。
     ちなみにペアを指名することはできるけれど、誰と誰を組ませてほしいとこちらから指定することは一切出来ない。これは以前堀川くんに聞いたのだけれど、同じ本丸の二振り一組で登録している男士がほとんどで、皆決まった相手と働きに来ているのだという。男士側からしてみれば、自分の好きな相手と手を繋ぎ、触れ合い、時々キスをして、給金がもらえる。遠慮なく注がれる視線に慣れてしまいさえすれば、とても割の良い仕事なんだそうだ。
     ちなみに堀川くんはここで稼いだお金で、洗濯や掃除、料理の為の家電を買い揃えているらしい。堀川くん達の便利で快適な暮らしの助けになるのなら、これ以上良いお金の使い道は無いと思う。



    「それじゃあ、始めますね」
     私の前にジンジャーエールを置いて、堀川くんは手にしたタイマーのボタンを押した。これから六十分、至福の時間が始まる。
    「今日は何をしたいですか? 遠慮せず何でも言ってください」
     堀川くんは胸の前で小さくガッツポーズを作る。かわいい。浴衣の袖から除く白い手首に胸がときめく。
    「パフェ、溶けちゃう前に食べてね。その間いつもみたいに色々お話聞かせてくれたら嬉しいな」
    「いいんですか? いつもありがとうございます」
    「すまねぇな。じゃ、遠慮なくいただこうぜ、国広」
     私の言葉に堀川くんは少し眉を下げ申し訳無さそうな顔を作る。けれどすぐに兼さんを見上げ、視線を交わすとにこりと笑い合った。二人揃って、いただきます、と手を合わせる。
     堀川くんがスプーンを手に持ち、少しすくって口へ運ぶ。私はピンク色をした苺アイスが小さな口の中へ消えていくのを幸福な心地で眺めていた。堀川くんはアイスを食べ、目を細めて頬に手を当てる。
    「んー、美味しい!」
     ひとつひとつの仕草に癒されながら眺めていると、堀川くんが兼さんの方へ向き直った。
    「兼さんも一口どうぞ」
    「オレは甘い物はそんなに好きじゃねぇんだけどな」
    「まぁまぁそう言わずに、美味しいよ」
    「んじゃ、せっかくだからいただくかね」
     今度はアイスや果物、クリームなんかをバランス良くすくい取り、スプーンを兼さんに差し出した。
    「はい兼さん、あーん」
     兼さんは腕を組んだまま大きく口を開け、自然な仕草で堀川くんのスプーンを口の中へと招き入れる。
    「美味ぇな」
    「そうでしょ?」
     もぐもぐと口を動かし兼さんが頷く。その言葉に堀川くんが満面の笑みを浮かべた。私に向けてくれる笑顔も素敵だけれど、兼さんと過ごす時の堀川くんの笑顔はやっぱり特別だ。兼さんと同じ色の瞳をキラキラと輝かせて、心から嬉しそうに頬を染める。見ているだけで私も幸福な気持ちでいっぱいになった。

    「ほら、お前も貸してみろ」
    「えっ、僕は大丈夫だよ」
     そうしていると、今度は兼さんが堀川くんの手からスプーンを抜き取った。戸惑う堀川くんを横目に、兼さんはパフェの器にスプーンを入れる。苺のソースをたっぷり絡めたバニラアイスを乗せ、堀川くんの口の前に差し出した。
    「ほら国広、あーん」
     兼さんはそう言って、口の端を上げてにやりと笑う。堀川くんは眉を下げて困った表情を作りながらも、そっと口を開けスプーンを迎え入れる。そしてもぐもぐと口を動かし、今度は素直ににこりと笑った。
    「美味しい! 兼さんが食べさせてくれると特別美味しいね」
    「だろぉ?」
     二人、笑みを交わし合う。私はときめきのあまり痛む胸をそっと押さえた。喜ぶ堀川くんは天使のようにかわいいし、何と言っても兼さんである。兼さんが堀川くんに食べさせてあげた苺のソースがかかったバニラアイス。これはパフェの中でも堀川くんの一番の大好物だ。
     好意を言葉にすることは堀川くんの方が多いけれど、兼さんだってちゃんと堀川くんのことを大切に想っていて、その愛情がこんな風に節々に現れている。堀川くんを見つめる兼さんの瞳は、慈しみの色でいっぱいに溢れ返っていた。

    「あっ、主さん、いつも僕達ばかりすみません。主さんも何か食べますか?」
    「いやいや大丈夫だよ! 私は見てるだけでお腹いっぱいだから! 堀川くん達こそ他に欲しい物があったら遠慮なく頼んでね!」
     幸せな気持ちに浸っていると、堀川くんが話し掛けてくれた。私は急いで首を振った。二人のことを眺めているだけで、私はいつも胸もお腹もいっぱいになってしまう。
     ちなみに飲食代金は全て私が払うことになっていて、堀川くん達の給金にもいくらか加算されるはずだ。二人が仲睦まじくパフェを食べる姿を見られる上に推しに貢ぐことができるなんて、夢のようなシステムである。



    「堀川くんとはさっきお話したけど、兼さんも浴衣すっごく似合ってるね」
     相変わらず仲良くパフェを食べさせあっている二人の姿を眺めながら、私は口を開いた。堀川くんと同じく兼さんも今日は軽装姿だ。華やかで粋な装い。兼さんの強くたくましい美しさを一層煌びやかに引き立てている。
    「兼さん、すっごくかっこいいですよね!」
     私の言葉に堀川くんが身を乗り出し、目を輝かせて頷いた。自分が褒められた時以上に嬉しそうな堀川くんの様子に、私はますます頬が緩む。
    「それに、お揃いの帯と飾り紐も素敵だね」
     私はずっと気になっていたことを口にしてみた。二人の浴衣はそれぞれ色も模様も違うけれど、帯と飾り紐はお揃いのようだった。灰色の帯に、堀川くんが赤、兼さんが水色の飾り紐。これはもしかしてお互いの色を交換して身につけているんじゃないだろうか。
    「ありがとうございます。僕に、似合ってるいると嬉しいんですけど」
     私の言葉に堀川くんは少し俯き、はにかむように小さく笑った。
    「似合ってるよ! すごく似合ってる!」
     私が勢いよく肯定すると、照れたように笑みを返してくれた。兼さんとお揃いの、兼さんの色をまとって笑う堀川くん。私の方を向いてはいるけれど、これは兼さんに向けられた笑顔だ。そしてその兼さんはと言えば、得意げな顔をしてうんうんと頷いている。堀川くんを見下ろす瞳はとても優しい。私はそんな二人の様子にぎゅっと心臓が痛んで、思わず小さく拍手を送った。
       
    「オレはもう良い、後はお前が食え」
    「そう? じゃあ遠慮なく、いただきます」
     器が半分ほど空になった所で、兼さんが言った。堀川くんは自分でスプーンを手に持ち、目を輝かせたり頬を染めたりしながら美味しそうにパフェを食べ進める。私はその様子に癒されつつ、兼さんに向かって話しかけた。
    「兼さん、いつものあの話を聞かせてほしいんだけど……」
    「またかぁ? あんたも好きだな」
     兼さんは呆れたような顔をしながらも、私のリクエストに応えてくれる。
    「そもそもオレ達の本丸では、国広が早くに顕現したんだよな」
     私は兼さんの言葉に頷き、一心に耳を傾ける。何度も聞いているので、その内容はすっかり頭に入っていた。私が毎回ねだって聞かせてもらっているのは、二人の馴れ初め話だった。
     堀川くんは本丸が始動したばかりの頃に顕現し、ずっと兼さんのことを待っていたらしい。季節が二つ巡った頃に兼さんがやってきて、堀川くんはその懐に飛び込み、涙ながらに何度も名前を呼んだのだとか。そうして共に過ごす中で、相棒としての親愛、敬愛の中に、焦がれるような想いが混じっていることに気が付く。肩を並べて戦うことができて嬉しい、毎日顔を合わせて暮らすことができて楽しい。けれどそれ以上に、もう少し近くで触れてみたい。二人ほぼ同時に芽生えたこの想いを、兼さんはすんなりと受け入れることができたらしい。兼さんがこういった気持ちを抱えることがあるなら、相手が堀川くんであることは自然なことだろうな、と。悩み迷ったのは堀川くんの方だった。相棒として自分を認めてくれている兼さんに、こんな想いを抱えていて良いのだろうか。そんな風に悩んで態度のぎこちなくなった堀川くんを兼さんは問い詰め、その本心を聞き出すことに成功した。
    「だからオレはその時国広に言ってやったんだ」
     今日も兼さんの話はクライマックスに差し掛かる。私は胸の前でぎゅっと手を握り合わせ、無言で頷きながら続きを待った。
    「オレ達の間にどんな感情が増えようが、オレの隣はお前のもんで、お前の隣はオレのもんだろ。これまでもこれからも、ずっとな、ってよ」
     私は大声で叫び出しそうになり、自分の口をぐっと押さえた。何て素敵な話なんだろう。それを兼さんの口から直接聞けることもあまりに贅沢だけれど、それより何よりこの話をしている時の兼さんの様子がたまらないのだ。その表情や語る声、今隣に居る堀川くんを眺めるまなざし。全てが深い優しさに満ちていて、愛しくてたまらない、そんな色をしている。一方の堀川くんはと言えば、一言も喋らずもぐもぐと口を動かしながら、頬と耳を赤く染めている。けれどその目尻がとてつもなく幸せそうに緩んでいた。
     きっと顕現した瞬間から互いが特別な存在であっただろう二人が、それでもお互い必死に手を伸ばし、懸命に想いを重ね合って、今の仲睦まじい二人が居るのだ。そんなことを実感できるので、私はこの話を聞く時間が大好きだった。話を聞く度、ますます二人のことが好きになってしまう。

     



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