Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    なふたはし

    モバエム時空です。「/(スラッシュ)」は左右なしという意味です。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 47

    なふたはし

    ☆quiet follow

    くろそら🍰🎅

    「また今年もケーキ買ってきたのー? 洋菓子苦手なのにー」
    「苦手ではありませんよ。量が食べられないだけで」
    「それを苦手って言うんだよー。去年、生クリーム食べられないって言って、半分以上僕に押し付けたの忘れたのー?」
     北村さんは呆れたように言う。私の買ってきたクリスマスケーキの紙箱を見て、「あっ」と声を上げた。
    「しかもこれ、有名なところのじゃないー」
    「そうなのですか? 偶然通りかかったもので」
     ケーキを箱から取り出し、真ん中で切って二等分にした。真っ白な生クリームでコーティングされ、イチゴとサンタクロースの飾りが載っている円形のタイプだ。チョコレート味や正方形のもの等さまざまな種類があったが、クリスマス定番のものを選んだ。
     切り分けられた分を三分の一くらい食べると、生クリームの重さで胸のあたりがいっぱいになってしまった。
    「すみません、北村さん。残りをお願いしてもいいですか?」
    「ほら、言ったじゃないー。食べ切れないのにどうして買ってくるかなー」
     そうは言いながらも引き受けてくださる。
    「ふふ、お味はいかがですか?」
    「九郎先生もさっき同じもの食べてたでしょー」
    「北村さんの感想が聞きたいのです」
    「美味しいよー。買ってきてくれてありがとう」
     北村さんは手を止めて、「赤と白、織りなす味わい後を引き」と詠んだ。
    「九郎先生、口開けてー」
     イチゴをフォークに刺して、私へ差し出す。
    「生クリームはキツくても、イチゴなら食べられるよねー?」
    「そうですね、イチゴなら。ありがとうございます」
     差し出されたイチゴを受け入れる。甘いクリームに合うよう選ばれているのか、やや酸味が強かった。
    「美味しいー?」
    「ええ、みずみずしいですね」
    「僕ばっかり食べてて悪いし、来年は僕が用意するねー」
    「いえ。食べ切れませんし、次は料理だけで十分でしょう」
     北村さんが私の顔をじっと見つめる。
    「……同じこと、去年も言ってたよー」
    「そうでしたか?」
    「それも忘れちゃったのー?」
     北村さんは小さくため息を吐いて、ケーキに戻る。
     北村さんが食事される姿を見るのが好きだ。明言しないけれど彼は多分食べるのが好きで、中でも甘いものが(私と違って和洋問わず)お気に入りらしい。甘いものを食べている時、気の緩んだ表情になるのが愛しくて、ずっと眺めていたくなる。
     後日、改めて卯月さんにお礼言わねば。そして来年もオススメを教えてもらおう。目の前の様子を見るに、もうひとまわり大きくても良いかもしれない。
    「来年は抹茶のにしようよー。それなら九郎先生もたくさん食べられるでしょー?」
    「検討してみます」
     端に寄せたサンタクロースの飾りを手に取る。丸くデフォルメされたサンタクロースは大きな袋を担いで、にっこり笑っている。
     二人でクリスマスケーキを選んでみるのも楽しいかもしれない。しかし、年に一度のこの日、来年もまたサンタクロースでありたいと思うのは欲張りだろうか。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏👍👍💗💗💗🌠🌠🌠🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works