「また今年もケーキ買ってきたのー? 洋菓子苦手なのにー」
「苦手ではありませんよ。量が食べられないだけで」
「それを苦手って言うんだよー。去年、生クリーム食べられないって言って、半分以上僕に押し付けたの忘れたのー?」
北村さんは呆れたように言う。私の買ってきたクリスマスケーキの紙箱を見て、「あっ」と声を上げた。
「しかもこれ、有名なところのじゃないー」
「そうなのですか? 偶然通りかかったもので」
ケーキを箱から取り出し、真ん中で切って二等分にした。真っ白な生クリームでコーティングされ、イチゴとサンタクロースの飾りが載っている円形のタイプだ。チョコレート味や正方形のもの等さまざまな種類があったが、クリスマス定番のものを選んだ。
切り分けられた分を三分の一くらい食べると、生クリームの重さで胸のあたりがいっぱいになってしまった。
「すみません、北村さん。残りをお願いしてもいいですか?」
「ほら、言ったじゃないー。食べ切れないのにどうして買ってくるかなー」
そうは言いながらも引き受けてくださる。
「ふふ、お味はいかがですか?」
「九郎先生もさっき同じもの食べてたでしょー」
「北村さんの感想が聞きたいのです」
「美味しいよー。買ってきてくれてありがとう」
北村さんは手を止めて、「赤と白、織りなす味わい後を引き」と詠んだ。
「九郎先生、口開けてー」
イチゴをフォークに刺して、私へ差し出す。
「生クリームはキツくても、イチゴなら食べられるよねー?」
「そうですね、イチゴなら。ありがとうございます」
差し出されたイチゴを受け入れる。甘いクリームに合うよう選ばれているのか、やや酸味が強かった。
「美味しいー?」
「ええ、みずみずしいですね」
「僕ばっかり食べてて悪いし、来年は僕が用意するねー」
「いえ。食べ切れませんし、次は料理だけで十分でしょう」
北村さんが私の顔をじっと見つめる。
「……同じこと、去年も言ってたよー」
「そうでしたか?」
「それも忘れちゃったのー?」
北村さんは小さくため息を吐いて、ケーキに戻る。
北村さんが食事される姿を見るのが好きだ。明言しないけれど彼は多分食べるのが好きで、中でも甘いものが(私と違って和洋問わず)お気に入りらしい。甘いものを食べている時、気の緩んだ表情になるのが愛しくて、ずっと眺めていたくなる。
後日、改めて卯月さんにお礼言わねば。そして来年もオススメを教えてもらおう。目の前の様子を見るに、もうひとまわり大きくても良いかもしれない。
「来年は抹茶のにしようよー。それなら九郎先生もたくさん食べられるでしょー?」
「検討してみます」
端に寄せたサンタクロースの飾りを手に取る。丸くデフォルメされたサンタクロースは大きな袋を担いで、にっこり笑っている。
二人でクリスマスケーキを選んでみるのも楽しいかもしれない。しかし、年に一度のこの日、来年もまたサンタクロースでありたいと思うのは欲張りだろうか。