十月十二日。この日は玄関を出ると、待ち構えたように佐倉が立っている。
「おはよう。誕生日おめでとうヒロ」
「おはよ。ありがとな、一足先に選挙権ゲットだぜ」
「選挙権か…僕と違ってもうおじさんなんだねヒロは」
「なにおう!お前もあと半年もしないうちに十八だぞ?」
俺がちょっとだけ年上自慢して、佐倉に言い返されて、二人して馬鹿みたいに笑う。それがここ数年恒例の、通学前のやりとりだ。
高校に入ってからは、次は加治の番だなってお祝いの計画を先に二人でたてている。そうこう話してるうちに学校に着けば、皆からお祝いの言葉をたくさん貰う。相変わらずすごいなお前、と木戸がぼやく。別にいいだろ、友達が多いに越したことないし。なんなら先生からもお祝いしてもらってますけども!そう言えば今度は花井に小突かれる。三年で同じクラスになってからより当たり強くなってない?ま、嬉しいけどさ。
放課後は、少しだけ練習に顔を出す。夏の大会を見た一年生が入ってくれて、俺達が卒業しても大会に出られる人数が揃った。とはいえ選抜経験者はいないから、指導者が必要だ。ようやく決まったコーチは仕事の都合で年明けまでは来られない。それまでは俺と佐倉が平日は一時間、土日は三時間までって約束で指導役として顔を出している。
「ヒロ先輩、誕生日おめでとうございます!」
「土曜の練習後のメシどこがいいっすか〜?」
「こら時間すぐ来ちゃうだろ!早く練習、お祝いの相談はライン!今日もよろしくお願いします!」
「おう、ありがとな〜!じゃ、練習始めるか」
わちゃわちゃ寄ってくる後輩たちはかわいい。部活を作った時は、多分自分たちの代で終わるだろうなと思っていた。カバディ経験者は他の強豪校に流れるし、一つ下の学年は勧誘する暇もあまりなくて、結局誰一人捕まらなかった。また一年だけのチームだけど、その分チーム絆も強い。
俺たちを見てるみたいだよな、なんて前に言ったら、部長の色が似てるからなと軽くあしらう石田の横で、確かに占いでもタイプが…と三村が真剣な顔で返す。ちょっとその占い結果詳しく!って話し込んじゃったんだよな。あの日は楽しかったなぁ。
そんな事まで思い出しながら練習してたら、一時間なんてあっという間で。後輩たちと挨拶を交わして体育館を出る。
本当はいつも通り佐倉とこっそり練習して帰りたいところだけど、今日はまっすぐ二人で家へ向かう。これから、二人きりの誕生会だ。
この誕生会が始まったのは、佐倉と付き合いだした去年から。煮え切らない状態だったのを知って、くっつけるアシストをしてくれたチームメイトたちは別日に改めて祝ってくれるんだから余計にありがたいね。