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    ho23novereha

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    ho23novereha

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    王城さんが久納ちゃんからパパのことを聞く話。

    「わー、かわいい!」
    「生まれたてってちっちゃいなー」
     練習後の体育館は歓声に包まれていた。
     きっかけは関くん。先週生まれた甥っ子の写真が送られてきたって聞いて、皆でスマホをのぞきこんでいるところだ。
    「赤ちゃんってなんであんなにかわいいんだろうなぁ!」
    「皆の写真とかも見たいよね」
    「確かに興味深いな」
    「……おい井浦、まさかそこまで持ってたりしないだろうな」
    「さすがに持ってないが、お望みなら一週間後には全員分集めて来るぞ?」
    「アンタが言うと冗談に感じないんですけど!」
     わいわい言いながら、各々帰る準備をする。慶がちょっと悪い顔してたから、きっと集めてやろうと思ってるんだろうな。後でほどほどにしなよって言っとかなきゃ。
     そんなことを考えてたら、コーチに声をかけられた。
    「正人ちゃん、この後時間あったらうちに寄ってくれる?」

    「ごめんなさいね、いきなり来てもらっちゃって。今ごはんも用意するから座ってて」
    「大丈夫です。でも待ってるより、また料理も教えてもらっていいですか?」
    「あら、免許は皆伝したけど嬉しいわね。じゃあ一緒に作りましょうか」
     久納さんの家のキッチンに立つのは久々だ。任せられたエビの下処理をしながら、久納さんの説明に耳を傾けて時折手元を眺める。その手さばきはいつ見ても素早く丁寧で。僕も三年間の自炊生活で鍛えられたけど、この領域まではまだまだだなあと改めて思う。
     二人で話ながら作ると普段よりも楽しくて。気が付いたら食卓には食べきれない量のおかずが所狭しと並んでいた。今日食べる分を少しずつお皿に取り分けて、後はタッパーに詰めて皆に配ることにしようと話しながら食卓を囲む。うん、どれもおいしい。
    「本当に料理の腕も上達したわね。免許皆伝からもう一段昇格よ」
    「ありがとうございます、でも久納さんの手つきまではまだまだ追いつけないですよ」
     一通り食べて片付け終えると、ちょっと待っててと再度テーブルに座るように促される。
    そういえば今日は料理教室じゃなかった。一体何だろうと考え込んでいると、久納さんがミルクコーヒーと少し古ぼけた封筒を持って帰ってきた。
    「今日はね、これを渡したかったの。開けてみてちょうだい」
     手渡された封筒の文字には、見覚えがあった。ちょっと斜めになる癖がある、父さんの字。
     連絡不精の父さんが、久納さんに出した手紙ってどんなのだろう。封筒を開けると、入っていたのは、よくある手紙じゃなくて。
    「年賀状……?」
     大きな賀正の文字と、干支の墨絵が描かれた、よくある大量印刷タイプの年賀状だった。
     でもそれだけで、特に手書きのメッセージも見当たらない。封筒に入ってるのは不思議だけど。なんでこれを僕に渡したかったんだろうか。思わず久納さんの方を見ると、その反応になるわよねと苦笑される。
    「この年賀状ね、見てほしいのは宛名側なの」
     ひっくり返してみて、と言われて裏面を見る。そこにはびっしり並んだ父さんの癖字と、一枚のチェキがあった。


    『あけましておめでとう!新年とほぼ同時に息子が生まれたので年賀状と一緒に写真を送る。名前は正人だ。正月生まれだし、自分に正直に、まっすぐ生きてほしいと思ってつけた。いい名前だろ?もう少しこっちが落ち着いたら合流する。また今年もいい試合しよう!』


    「これ、僕……?」
    「そう、今日の話で思い出したの。先輩から送られてきた、正人ちゃんの生まれた日の写真」
     あわせて久納さんは、写真に関して思い出した限りの父さんの様子を教えてくれた。
     発売したばかりのチェキを買って、子どもが生まれたら撮りまくると言っていたこと。
     水堀さんや不破のお父さんにも同じような年賀状レターが届いていること。
     産後の母さんが落ち着くまで、あのカバディバカが帰ってこないと心配されるほど長期間家にいたこと。
     インドでチェキをなくしてしまい、帰ったらまた買って写真を撮ると拗ねていたこと。
     久納さんを通して知る父さんの姿はなんだかこそばしいような、不思議な感覚だった。
    「ごめんなさい、思い出話が長くなっちゃったわね。もう遅くなったし寮まで送りましょう。車を出してくるからコップだけ流しにおいて、タッパーを持ってきてくれるかしら」
     久納さんは車の鍵を持って先に席を立った。ちょっとだけ目尻をぬぐって、言われた通りに体を動かす。
     皆への差し入れを詰めたタッパーと、封筒を持って玄関を出る。夜風は冷たかったけど、体はどこかほかほかとして寒さは感じなかった。
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