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    ましゅ*

    リヴァジャン信者

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    ましゅ*

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    リップクリームと現パロリヴァジャン。

    活字のリハビリに書いてはみたものの納得がいかず、埋めておくのも勿体無いのでここに供養。

    #リヴァジャン
    lover

    日が暮れて、窓の外を行き交う車や登った月から隠れるようにベランダにつながる窓のカーテンを、中心に向かってレールの音を立てて閉める。今日も一日終わったとダイニングテーブルに腰を落ち着ければ、ジャンはリビングのソファに座る彼のある一点を見つめつつ、ふと声をかけた。
    「リヴァイさん、やっぱりリップクリーム塗ったらどうですか」
    「…必要ないと何度も言っているだろ」
    テレビの天気予報に目を向けながら断固として首を縦に振ろうとしない恋人の横顔に、ジャンはため息と共に頬杖をつく。
    テレビからは明日の最高気温も10℃を下回ると告げられていた。
    冬はコートを着てもマフラーを巻いてもヒヤリとした空気が容赦無く体に寒い寒いと悲鳴をあげさせる。ポケットや手袋から出した手は悴むし、朝の布団で暖まった体もその温さを留めたいと布団から出ることを拒否しがちだ。
    しかし冬の天敵はそれだけではない。
    鼻を赤くしたお天気キャスターは今日も、乾燥による風邪に気をつけてとカメラに向かって呼びかける。
    「キスされる時にカサついてると気になるんですよ」
    「…してるうちに気にならなくなるだろ」
    天気予報の終わったテレビから視線を横に流したリヴァイはその唇を僅かにへの字に歪める。
    「そんなにベタつくのが嫌ですか」
    「平気でいられる奴の気がしれん」
    そう一蹴するとリヴァイはソファから立ち、風呂へ入ると部屋を出ていく。
    「ちっさい子供みたいなこと言うんだよなぁ」
    閉まる扉を見つつ肩をすくめる。
    小さな頃自分も同じことを言って、母親に塗られるリップクリームを嫌がった。だから彼の言い分が理解できないわけではないのだが、そんな幼い日の感情をまさか年上の恋人で思い出すとは思わなかった。
    強面なリヴァイにはギャップがあって可愛らしいと感じないこともない。潔癖症なところもあるのでそれが原因かなどとも考えられる。
    一度だけ無理やり塗らせたところ、苦虫を噛み潰したような、今すぐにでも拭いたくて仕方がないような顔をしていたのをよく覚えている。あまりの形相だったのでおかしくて笑ったらクリームでてかりが出た唇で「笑うな」と怒られて、余計に笑ったっけ。
    あれはあれでなかなか面白い出来事だったと微笑む。
    しかしそれでもジャンとてやはり気になるものは気になる。
    「んー…うまくいくか分かんねえけど…」
    頭の中には一つだけ妙案があった。
    成功率は五分五分か、もしくはそれ以下か…。
    失敗したらかなり恥をかくことになると分かりつつ、とにかくやってみないことには始まらないと、ジャンはその妙案に賭けてみることにした。







    風呂から上がったジャンは先に寝る支度を済ませたリヴァイの待つ寝室の扉を開ける。
    同棲を始めた時からずっと寝室は一つで、真ん中に二人でも広々と眠れるダブルベッドとその脇には夜に使う…まあいわゆる生活雑貨などが入っている棚が置いてある。
    既にベッドに座っていたリヴァイは明日の予定の確認でもしているのか黒いスマートフォンを片手に眉間に縦皺を入れていた。
    「リヴァイさん」
    その横に腰掛けリヴァイが顔を上げると、ジャンはすかさずその唇にちゅっとキスをした。
    「っ…!?お前っ……!」
    普段ならジャンからのキスは全く不満を持たずに受け入れるリヴァイが、今回に限ってジャンに怪訝の目を向ける。
    それもそのはず、この季節のジャンには寝る前に必ずリップクリームを塗る習慣があった。
    「おやすみのキスって奴ですよ」
    してやったり顔で言ってのける。
    「やって欲しがってたでしょ?」
    目元をヒクヒクとさせながらもリヴァイは過去に自分の言ったことを思い出した。

    その時はまだ夏が始まったばかりで、春から同棲を始めてしばらく経った頃だった。
    ほんの冗談のつもりで、あわよくば、という程の願望。
    「ジャン」
    「ん、なんですか」
    ベッドで横になりながら、眠気に誘われているヘーゼルの瞳を見つめ返す。
    「寝る前にすることないのか」
    「はい?」
    やり忘れた家事があったかと小首を傾げて思考を巡らせるジャンにリヴァイは自らの唇を指差した。
    「おやすみのキス、とかあるだろ」
    いつもと変わらぬ無表情で言うので微睡みかけていたジャンが目を丸くしてポカーンとする。
    「つ、疲れてます…?」
    数秒の後に言葉を発したと思えば困惑したジャンが深刻な様子でリヴァイの顔を覗き込む。
    確かに、暑さと仕事の忙しさで疲れていたといえばそうかもしれない。しかしこれは単に、滅多に自分から行動を起こさないジャンに甘えてみたのと、リヴァイが新婚っぽいことをしてみたかっただけなのだが、どうやらうまく伝わらなかったらしい。
    「…冗談だ」
    一言で誤魔化して、代わりに自らジャンの唇にキスをする。
    強請らなくともしたければ自分からすればいいか。
    所詮「あわよくば」の願望だった。
    だがこのリヴァイの行動はなんだったのかと不思議に思ったジャンは、その翌日になってはっとその本意に気がついた。
    思えばあの人は一般人なら恥ずかしいようなセリフを顔色一つ変えずに言う人だった。
    どうしてすぐに気が付かなかったのかと、応えられなかったことをジャンは悔やんでいた。しかしリヴァイと違ってジャンは一般人側で、なかなか行動に移せずにいつの間にか冬になっていた。

    そこで、今回の件にジャンは少々その夏の出来事を利用することにした。
    「っ…お前…やったな…」
    喉の奥から絞り出したかのような声を出すリヴァイを若干申し訳なく思いながら見つめる。
    さあ、リヴァイさんはどうするのか。
    口元を拭われたらそれなりにショックだろうがそうされる覚悟は既に風呂の中で済ませてきた。ある種の嫌がらせとも取られることをしているのだから仕方がない。
    出された腕がどこに行くか注意深く観察する。
    顔の前まで行ったかと思えばすぐに降ろしたり、降ろしたかと思えばまた上げたり。逡巡する様子は珍しく、ちょっと愉快な気持ちになる。
    加えて、そう忙しないながらも一向に拭うことはしないのでジャンは更に気をよくする。
    理由はわからないが成功したかもしれない。
    目を輝かせると同時にどこかホッとした。
    一方リヴァイはそんなジャンの嬉しそうにする様子を複雑な心境で視界に入れていた。
    自分の「あわよくば」がここに来て叶った喜びと、唇に感じる無視できない不快感とが混ざり合う。
    嬉しいのに嬉しくない。
    拭いたいが、拭いたくない。
    洗面所に走りたい自分をもう一人の自分が許さない。
    高々クリームごときで愛した人間を裏切るような真似はリヴァイの中にある謎のプライドに反していた。
    「我慢してくれたら、これから毎日おやすみのキスしてあげます…って言ったらどうします?」
    葛藤に歪むリヴァイの顔色を伺いながらジャンが申し出ると、リヴァイの眉がピクリと動く。
    「ジャン…その言葉に二言はないな…」
    リヴァイの目つきが変わる。
    「え。は、はい…」
    その変化に狼狽え、ジャンは尻すぼみに返事をする。
    威圧感に少しばかり身を引いていると不意にリヴァイは手に持っていたスマートフォンを置いて、布団の中に入り寝る体制に入った。
    無言の行動にジャンは首を傾げる。
    「何してる、お前も早く寝ろ」
    変わらず不快そうな表情ではあったが、リヴァイはぽんぽんと自身の横を叩いてジャンを促す。その腕が唇に触れることはない。
    「本当に我慢してくれるんですか?」
    ジャンは目を丸くしてリヴァイの顔を覗き込む。今まで頑なに拒否してきたのがあっさり受け入れたことに驚きを隠せない。
    おやすみのキスって、たったそれだけで本当に??
    信じられないと言いたげな目にリヴァイは眉間の皺を濃くする。
    「克服しちまえば俺には得しかないからな」
    なかなか動こうとしないジャンに痺れを切らしてリヴァイが腕を引けば、ジャンはあっという間にその両腕の中に収められた。
    「ただしヤる時だけは勘弁しろ」
    「それは…もちろん…」
    ジャンは自ら仕掛けておきながら、キス一つであんなに嫌がってたこともやろうとしてくれている事実に心臓をドキドキとさせていた。
    (リヴァイさんのこと、俺ちょっと舐めてたかも…)
    厳密に言うと自らの愛され加減を。
    頬が熱くなる。
    ジャンは腕をリヴァイの背に回してぎゅうと抱きしめる。
    「ありがとうございます、リヴァイさん」
    腕の中で無邪気な笑顔を作るジャンにリヴァイはふんっと鼻を鳴らした。







    ───一ヶ月後
    「大分慣れてきましたね」
    「まあな」
    習慣になったキスの後、ジャンは指先でふに、と潤いが出てきたリヴァイの唇に触れた。クリームとの相性がいいのか、自分よりも治りが早いような気がする。
    「そろそろ自分のリップクリーム買ってもいいんじゃ…」
    「それはしない」
    食い気味な否定に思わず口を噤む。
    「お前のキスがないなら意味がない」
    「でもリヴァイさん、俺がした後に自分からもお返ししてくるくらいにはもうこれに抵抗ないでしょ」
    ジャンのいう通り、リヴァイは確かに苦手をほぼ克服していた。不快感もほとんどなく、洗いな流してしまいたい衝動も起こらない。
    しかしそれでも尚リヴァイは躊躇いなく不満を露わにした。
    「買っちまったらお前、それでキスするの止めるつもりだろ」
    「うっ…!」
    鋭い視線をくれてやればジャンは図星だったようでギクリと肩を強張らせる。
    まさか見透かされていたとは思わず、睨む視線から恐る恐る目を逸らす。
    「だ、だって、毎日はちょっとやりすぎっていうか、せめて三日に一回とかにしたいなぁーと…」
    しどろもどろに言い訳を並べる。
    キスしてくれるなら我慢すると言ったリヴァイの手前、ジャンがそれを無碍にするはずはなかったのだが、リヴァイの克服するスピードは意外に早く余裕が出てくるとだんだんとジャンに照れが顔を出してきた。なんのためにしているのだか分からなくなり、キスする度になんだかとても恥ずかしいことをしている気分に襲われていた。
    「二言はないんだろ」
    かけられた言葉がゴン!と音を立ててジャンの体に重くのしかかる。過去に戻れるならリヴァイに二言はないなと聞かれた後に期間を設けて言い直しただろう。
    「取り消しは…」
    「俺が許すと思うか?」
    おずおずと口にした提案をペシっと払いのけて、過去を嘆いて唸るジャンにリヴァイはククッと楽しげに笑った。









    (以後書ききれなかった設定)
    ・本当はリヴァイはジャンに隠れて自分用のリップクリームを買っていて、こっそり個人でも克服に励んでいた。治りが早かったのはそれが原因。
    ・またリヴァイをそこまでさせた理由は、クリームを使い始めてから情事の間ジャンが積極的にキスしてくれるようになったから(本人は無自覚)。
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