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    chicocco2222

    @chicocco2222

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    chicocco2222

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    時渡〜同居。特にこれといった表現はないですがカミュ主風味。イレブンとカミュが刺青を入れます。苦手な方はご注意ください。

    しるしベロニカを救える、過去に戻ることができる。
    そう忘れられた塔で告げられた時から僕の気持ちは決まっていた。
    すぐにでも行きたかったけれど、今のみんなに会えなくなるのは寂しくて、一度塔を離れ、みんなでキャンプをした。
    旅の最中、いつも作っていた料理を作り、少し重たい空気の中、みんなで食べたご飯は美味しかった。
    食事が終わっても誰もテントへ入らなかった。
    「じゃあ、僕そろそろ寝ようかな。久しぶりに早起きしたから眠たくなってきた」
    わざとらしく明るい声を発しながらテントへ入り、眠気など全くないと言っていいのに寝床を整えているとカミュが入ってきた。
    「なぁ、ほんとに行くのか」
    「うん」
    「もう世界は救っただろ」
    「でも大樹は一度落ちたし、世界は崩壊した。ベロニカもいない」
    「だからってお前1人で背負うことじゃない」
    「じゃあカミュも背負ってくれる」
    「戻れるのは勇者だけってさっき番人が」
    「僕に何か一生消えないものを残して。カミュの代わりに」
    「お前何言って」
    「ピアスはもう開けてもらってるから何か違うものがいいな。刺青とか」
    目を見開き、口をパクパクさせているカミュはいつもより可愛く見えた。多分本人に言ったら怒るから伝えなかったけど。
    ペルラ母さんやユグノアの父さんと母さん、テオじいちゃんにロウじいちゃん達に申し訳が立たない、というカミュを説き伏せ、まだ火の周りにいたみんなにちょっと出かけてくる、とルーラを唱えた。

    バイキングのアジトに程近いクレイモランで道具は揃えられた。
    親切な彫師のお姉さんが色々教えてくれた。針はしっかり消毒すること。施術後はクリームを塗ること。瘡蓋になって痒くなっても決して瘡蓋を取らないこと。ホイミはあまりお勧めしないこと。
    その間もカミュは苦々しい顔をしていた。でも彼はやりたくない、とは言わなかった。

    キャンプに戻るとみんなテントに入っていた。起きていたかもしれないけど。とにかく僕は早くカミュの痕跡をつけて欲しかった。
    どこか宿屋に入ったほうが明るくていい、と言われたけど、キャンプに無理やり戻った。
    髪を纏め、左耳の後ろを丁寧に消毒してもらう。
    ちくりちくりと彼の左手が僕の皮膚を刺す。
    これがカミュに触れてもらえる最後かもしれない。
    時を渡った先で今のような関係になれる確証など何もない。
    インクの入ったビンと針が触れる音、焚き火の音、カミュが鼻を啜る音。それだけを聞きながら少し泣いた。
    刺青を入れる痛みは感じなかった。

    「終わったぜ」
    カミュにそう告げられ、涙の流れた後を見られないよう手で擦った。
    「ありがとう」
    「ん」
    「いい感じにしあがった」
    「おう」
    「ちゃんとオオカミに見える」
    「失礼な。見える」
    「そっか。カミュ器用だもんね」
    「鏡、要るか」
    「大丈夫。カミュのこと信頼してるから。あっち行ってから見るよ」
    「なぁ」
    「なに」
    「俺にも入れてくれ」
    「何を」
    「お前の痕」
    「えっと・・・」
    「頼む」
    「・・・わかった」
    カミュに要領を教えてもらいながら、彼が希望したものを彼が希望した場所へ残した。
    左手の薬指になんの変哲もない黒いラインを一周。まるで指輪のような。



    無事過去に戻ることができ、勇者の剣を手に入れた。デルカダール城へと招待され、ウルノーガも討ち果たした。
    ──やったよ、カミュ。世界は守れた。
    そうひとりごちながらカミュの入れてくれた刺青を初めて城の部屋の鏡で見た。美しいオオカミがそこにいた。

    ケトスに乗っている時だけ少し気を遣ったけれど、あとは普通に戦っても何をしていても誰も何も言ってこなかったので多分バレていなかったんだと思う。
    コンプレックスだったサラサラすぎる髪の毛に少しだけ感謝した。

    2本目の勇者の剣を作った。未来で一度見た光景にベロニカもいるのが嬉しかった。
    その夜はホムラの里で一泊することになった。
    カミュは酒場へ顔を出してくると部屋を出ていった。
    道具を整理して、みんなで作った勇者の剣を手に取っていると声がした。
    「なぁ、最近左耳、よく触るよな」
    「カミュ⁉︎酒場行ったんじゃなかったの⁉︎」
    「行ってきたよ。別に深酒しに行ったわけじゃない」
    カツカツとブーツを鳴らしながら近づいてくるカミュはいつもより少し虫の居所が悪いらしい。
    「そ、そっか。じゃあそろそろ寝る」
    「左耳の話が終わってない」
    カミュ曰くウルノーガを倒した後辺りから僕は無意識に左耳を触るようになっていたらしい。
    勇者の剣を手に取りながら、無意識に刺青に触れていた左手を取られ、カミュに彫ってもらったオオカミがついに見つかってしまった。
    左目は眼帯をしているし、そもそもカミュの顔が真横にあるので彼の表情はわからなかった。
    「これ」
    「あ、あのクレイモランに彫師さんがいてね」
    「違うだろ。俺だろ」
    「な・・・なんで?」
    「子供の頃、風穴の床に書いてたのに似てる」
    未来のカミュ、なんてものを彫ってくれたんだ。
    彼の表情も見えず、黙っていると横から息の漏れる音がした。
    「お前は正直だなぁ。俺に隠し事なんざ100年早い」
    そう言うと彼はデコピンをしてきた。痛い。
    「でも、そう言うとこが好きなんだ」
    「デコピンした後に言うかなぁ‼︎」
    「手が出ちまった」
    「痛い」
    「こっちとどっちが痛かった?」
    するりと耳の裏を撫でられ、僕は即答した。
    「デコピン‼︎」
    彼は気障ったらしく、赤くなっているであろう僕のおでこに唇を落とした。

    晴れて僕達は再び(カミュにとっては初めてだけど)お付き合いすることになった。
    未来のカミュへの後ろめたさもあったけど、カミュはカミュだった。
    カミュは詳しく聞くことはしなかった。カミュのそういうところはとてもありがたかった。
    毎晩、寝る前にカミュは僕のオオカミにキスをしてから少しだけ歯を立てた。

    ある日、マヤちゃんの様子を見にクレイモランへ寄った。
    カミュは立ち寄ったあちこちでマヤちゃんへのお土産を買っていて、それを渡してくる、とひとりで風穴に行ってしまった。
    まだ宿屋へ戻るには早いので各々自由時間にして僕はクレイモランの街並みを歩いた。
    ザクザクと小気味のいい音をさせながら時を渡る前に行った彫師のお姉さんのお店の前を通ろうとすると後ろから肩を掴まれた。
    「ここか」
    何が、と聞かずとも質問してきた声の主と質問の意図を把握した僕は縦に首を振った。
    「ふーん」
    カミュは掴んだ肩から手を離し、慣れた様子で雪道を歩き、店の扉を開けた。
    「なぁ、刺青入れたいんだけど」
    「あら、イケメンのお兄さん。何入れたいの」
    「そうだな・・・竜を」
    「どこにする」
    息を切らせながらやっとの思いでお店に入るとお姉さんはサラサラと何かを描きながらカミュと話していた。
    「んー足首か手首。あとこいつの刺青に満月を」
    「あら、綺麗なお兄さんもいいの彼に勝手に決められちゃって」
    「えっと、カミュ」
    ──俺が知らないものだけってのが悔しいんだよ。
    そう耳元で内緒話をするように彼は告げた。バツが悪そうに背けられた顔は少し赤くなっている気がして、僕は分かった、と言ってしまった。

    「じゃあかっこいいお兄さんのドラゴンを相談しながら綺麗なお兄さんに三日月入れちゃおっかー」
    ずっと残り続けるものを相談しているとは思えない軽さだ、と思いながらも髪の毛を縛った。
    お姉さんの左手の薬指には細かい柄の描き込まれた刺青があった。
    「その、指の・・・」
    「あ、これエンゲージリングの代わり。仕事柄指輪は邪魔になるから」
    お姉さんはケラケラと笑いながら作業を進める。
    「できたはい、鏡」
    未来のカミュがゆっくりゆっくり慎重に刺してくれたものとは比べ物にならないぐらい、あっという間に僕のオオカミの背景に満月が浮かんでいた。

    「じゃ次、かっこいいお兄さんね。手首足首」
    「手首にする」
    「そうね、足首は靴で擦れちゃうからメンテナンスが必要になるかも」
    コートを脱いで晒されたカミュの手首に下絵が施された。しっぽをもう少し長めに、と彼が希望したドラゴンは旅の途中に倒したものより優美なシルエットをしていた。
    僕の時より少し長めにかけて、カミュの右手首の内側に僕のオオカミと同じぐらいのドラゴンが鎮座した。
    「暫くはこのクリーム塗って保湿してね。瘡蓋になっても掻いちゃだめよ、濃淡にムラが出ちゃうから。あとホイミはオススメしないわ。インクののりが悪くなるから」
    「ありがとう」
    あの時と同じ注意事項を聞いて代金を支払っているとお姉さんに
    「君のオオカミ、誰が彫ったのとても丁寧に彫られてる。いい彫り師ね、紹介して欲しいわ」
    「えっと、」
    「俺だよ。あんたもいい腕だな、さすがバイキングから仕事を頼まれるだけの事はある」
    そう言うとカミュはおもむろに僕の手を掴み、半ば引き摺られながら店を出た。
    雪道に慣れたカミュに歩幅を合わせられない僕はいつ転んでもおかしくないような歩き方になり、そして転んだ。
    「っ悪い・・・」
    「雪だから大丈夫、ちょっと顔が冷たかったけど」
    「いや・・・引っ張ったのもだが・・・勝手に刺青増やして」
    「あぁ、それか。大丈夫、嫌だったら嫌って言うよ」
    まだ赤く腫れている竜のいる彼の右手が僕の左耳を撫でる。いれたばかりの満月には触れないようにか、いつもより慎重な触り方のような気がした。
    「なんつーか・・・俺がしたはずなのに、知らないうちにあったのが悔しかったんだ。ほんとは俺がやりたかった。オオカミも月も」
    「カミュ」
    「竜だってお前に入れて欲しかったけど・・・そこは失敗されたら困るしな」
    「失礼な」
    「お前も俺に彫ったのか」
    「あー・・・うん」
    「そっか。同じ俺なのに度胸あんな」
    時を渡ったことはカミュに言ってない。でも何となく察してくれている節はあった。それでも、あの世界の事は僕の中だけに留めておきたかった。
    「どこに彫ったんだ」
    「左手の薬指に線をいれただけだけど・・・さっきのお姉さんも一緒のところに入れてたから聞いてみたら」
    「エンゲージタトゥーか」
    「ご存知でしたか・・・」
    入れて欲しいと言われたところに彫っただけ、と言えばそれまでなんだけど何となくいたたまれなくなり僕の目線はみるみる下がっていった。
    カミュの顔を伺うことも出来ずにいると、カミュは左手で頭をガシガシと掻きながら大きなため息をついた。
    「告白だって旅が終わってからしたかったのに」
    いつもより声のトーンが低い。居心地の悪さからか、絶望感からか、目が熱くなる。
    泣いてもどうにもならないだから、と堪えようとする僕の意志を無視して雪の上に1粒、涙が落ちた。
    「イレブン。俺と、結婚しよう」
    「えぇ」
    びっくりして顔を上げると何故か驚いたカミュの顔があった。
    「な、泣くほど嫌か確かにこんな嫉妬ばっかりで・・・自分がこんなに嫉妬深いなんて思ってなくて」
    「ち、違う」
    僕より少し小柄なのに逞しいその体を抱きしめる。
    「僕もカミュと結婚したい」



    「じゃあ母さんのとこ、行ってくるね」
    今朝採れた野菜を母さんのところへもっていこうと玄関のドアを開くと同時に髪の毛を後ろで結んでいた紐をするりと解かれた。
    「あ、忘れてた。ありがとう、カミュ」
    「ん。気をつけてな」
    「すぐそこだよ、渡したらすぐ帰ってくるから」
    行ってきます、と同時に踏み出した外は午前中にも関わらず暑かった。
    旅をしていた頃より少し伸びた髪の毛が首筋に当たって鬱陶しい。畑仕事や鍛治の時は結んでいるけど、家の外では髪は下ろしている。
    左耳の後ろの刺青はカミュ以外の人に見せないことは、カミュの数少ない要求の1つだった。

    ニズゼルファを倒し、マヤちゃんがメダ女に入学したのを見届け、僕達はイシの村の外れに新居を構えた。
    未来の世界が徐々に収束しているのか、カミュは近頃、左手を見て僕の彫ったタトゥーリングがないことに違和感があるらしい。
    全部思い出したら左手の薬指に線を彫り合おう、と提案したけど、「そんな見えるとはダメだ」と全力で却下された。

    カミュがクレイモランに帰っていた時に勇者の剣を大樹へと返した。その時に会った聖竜はカミュが彫ってもらった竜にそっくりだった。
    僕がイシの村へと帰り、その翌日カミュが帰ってきてその事を伝えるとカミュは愛おしそうに自分の右手首を撫でていた。

    「それにしても暑いな」
    ひとりごちながら実家のドアを開ける。帰ったらまずは水浴びをしたいな。ルキもついでに洗おうか。
    「母さん、ただいま。カミュと朝採った野菜持ってきたよ」


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