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    chicocco2222

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    カミュ主。ハンモックと戯れる2人。再掲です。

    ピクニック「じゃあシーツも洗ってくるね」
    袖を捲りあげた腕で2床分のシーツが放り込まれた大きな桶を抱えながらイレブンはカミュに告げた。
    「おう、頼んだぜ。オレは昼飯の用意しとくから」
    「うん、お昼ご飯楽しみ」
    もう何年も一緒にいるというのに自分が作るご飯に期待し、声を弾ませたイレブンに口角が勝手に上がってしまう。
    「じゃあ行ってきます」
    「気をつけてな」
    イレブンが開けたドアから差し込む外の光が眩しい。カーテンも窓も開けているとはいえ、石壁の部屋は外に比べ薄暗い。カミュは思わず先程勝手に上がった口角を上げたまま維持しようと頬に力を込めた。

    いつからだったか、イレブンが自分より明るいところに居ると何故か心がざわつく。イレブンが太陽に向かって歩こうものなら自分が前を歩いたり、日陰を歩かせたり、時にはあえて寄り道をして太陽が傾くのを待ったり。
    原因が何か分からないのでイレブン本人に打ち明けたこともある。すると決まってイレブンは困ったような微笑みを返してくる。確かに恋人とはいえ他人に明るいところに行くな、と言われてもどうすることも出来ない。
    そうしているうちにこの心のざわつきとの付き合い方は心得た。
    心のざわつきの存在を認めつつ、上げた口角をそのままに声を弾ませるぐらい楽しみにしてくれている恋人との昼食のメニューを考えることに頭を切り替えた。

    イレブンは川岸に座り込み、シーツを抱えながら先程のカミュの様子を考えていた。
    ポーカーフェイスが上手なカミュだが、イレブンは気付いていた。
    カミュだけでなく、彼らが滅んだ世界のことを覚えているという確信はない。しかし記憶のもっと深くに何かが残っている。
    「失敗したな」
    何度かカミュから相談されたがイレブンは何も言えなかった。せめてなるべく不安に思われる様なことはしないでおこう。そう思ってはいるものの、難しい。
    「どうしたらいいかな」
    そのとき背中に衝撃を感じ、シーツを抱えていたイレブンは水中にため息をこぼした。

    「カミュー」
    ドアの向こうから平素とは違う、しかし聞き馴染みのある声がした。
    これは何かあった時の声だな。独り言ちるカミュはドアを開け、どうした、何かあったか?と聞くまでもなく、ずぶ濡れになった元勇者の姿を見た。

    「ルキが後ろから突撃してきて・・・あ、でもシーツは綺麗になったよ。後で絞るのだけ手伝ってもらっていい?」
    カミュから受け取ったタオルで滴る水気を拭き取りながらカミュに伝えると、器用なその左手にタオルを奪われ、されるがまま髪の毛を拭いてもらう。
    「とりあえず着替えてこいよ。家の中より外の方が暖かいし、その間にオレも準備するから外で昼飯食おうぜ。」
    相棒のこの上ないプレゼンに目を輝かせたイレブンはその場で服を脱ぎ、それから服を取りに行く。カミュはその様子に目を細めつつ昼食用のパンとサラダをバスケットに詰め込んだ。

    世界を救った元勇者とその相棒に両端を持たれ、それぞれ逆の方向へ拗られたシーツは一滴の雫を落とすことなく急拵えの物干しロープへと干された。
    ここ数日降り続いた雨のせいで溜まっていた洗濯物を2人で洗いながら、この上天気を逃してたまるものか、とシーツを洗ったものの2人とも干す場所を考えていなかった。
    そこで家から少し離れたところにある木と木の間にカミュがロープをかけた。少し日陰になる部分もあるが、からりと乾いた風が吹いている。夜の寝床に困ることはないだろう。

    カミュが持ってきたブランケットを敷き、バスケットを開ける。シーツがはためく傍で食べる昼食はとても美味しく、「少し多すぎたか?」というカミュの独り言は杞憂だった。

    「はぁーおなかいっぱい。ごちそうさまでした。」
    ふくふくとにこやかなイレブンの傍から立ち上がり、カミュはブランケットの入っていた袋からロープ2本と編んで作られたような布を取り出した。
    そこからスルスルと木の幹にロープをかけ、布の端を括り付ける。適度に離れたもう一本の幹にも同じように布を結びつけた。
    「カミュ?これなに?」
    「ハンモック。先週デクの手伝いでダーハルーネ行ってただろ?そこで見つけたんだが、雨が続いたからさ。やっとお披露目」
    重たくなったお腹をさすりながらイレブンも立ち上がる。
    「座ってみろよ。寝転んでも気持ちいいぜ」
    元来好奇心旺盛な元勇者は相棒に言われるがまま、ハンモックに腰をかけようとした。
    「いったーーーー」
    ハンモックはイレブンのおしりを包み込むことなく、逃げていった。
    笑いを堪えながらカミュはイレブンに手を貸す。
    「こうやって少し広げながらそーっと乗るんだ」
    カミュはハンモックにもたれ掛かり、そこから足を上げて横になる。恥ずかしさと背中を打った痛みで少し顔を赤くしたイレブンを見上げながら揺られるハンモックの乗り心地は上々だ。
    「僕も乗りたい」
    「いいぜ」
    ゆっくり体を起こし、下に降りる。次はイレブンが落ちないようハンモックを広げてやる。次落ちたらお蔵入りになる可能性だってなくはない。この心地よさをイレブンにも味わってもらいたい。

    「わぁぁぁ」
    次こそ乗り込めたイレブンは落ちないか心配だったのか、恐る恐る横向きになる。靴を脱ぎ、少しハンモックからはみ出る素足をグッと伸ばした。
    「気持ちいいだろ?」
    「これは...寝てしまいそう...」
    イレブンのために作られたご飯をたらふく食べ、イレブンのために用意されたハンモックに寝転がる。そして愛する相棒がそばに居てくれる。なんという幸せだろうか。
    「少し寝ろよ。朝から洗濯疲れただろ?適当に起こしてやるよ」
    この幸せな時間を寝てしまうなんてもったいない。そう思いながらも瞼は重みを増してゆき、微睡みに意識を持っていかれる。
    再びブランケットに戻ったカミュはこうなることを予測して持ってきていた本の栞を挟んだのページを開く。昨日、寝る前に読んだ続きを数行読んでいると横から寝息が聞こえてきた。
    太陽はまだ高く、シーツはまだ乾いていない。今昼寝をしておけば夜ゆっくりイレブンと話せるだろうか。夕飯にアルコールを出してもいい。2人でホムラまでルーラして蒸し風呂に入りに行ってもいいな。
    カミュは読む前に挟んでいたページにもう一度栞を挟み、立ち上がる。愛おしい勇者様は気持ちよさそうに眠っている。風で顔にかかった亜麻色の髪を横に流し、出てきたおでこに唇を落とした。

    2人の家の前ではすっかり乾いた洗濯物が揺れていた。
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