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    chicocco2222

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    chicocco2222

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    表ED後。カミュ主。二人が踊っているだけです。

    僕とダンスをウルノーガをついに倒した。
    晴れない悲しみも抱えながら、イレブンはケトスの上で仲間たちと朝焼けの中、再び空へと昇った大樹を眺め、喜びを分かち合った。
    このままそれぞれの故郷へと送っていくつもりだったのだが、別れ難くなりせめて装備だけでも着替えてから、と一行は最後の砦となったイシの村へと立ち寄ることとなった。


    早朝にも関わらず、砦の人々は勇者一行を温かく迎えてくれ、風呂の用意までしてくれた。
    血に染まった衣を見たペルラは顔を青くしていたが、傷はすでに治っていることを伝えると安堵の涙を流していた。
    「世界に大樹が戻った。勇者たちの無事を祝って宴の用意を‼」
    デルカダール王の一声で宴が催されることになり、村人が慌ただしく、しかし楽しそうに宴の準備を進めている声が聞こえる。 


    湯あみをし、宴まで休んでくれ、と用意されたテントでベットに体を横たえる。
    「さっきまで死ぬかもしれない戦いをしていたから、きっと興奮して眠れないと思ってたのに…」
    イレブンが天井を見つめながらいつもよりさらにおっとりとしたトーンで話す。
    「眠れるなら寝ておけよ。宴が始まったら主役は忙しいぞ」
    カミュはイレブンの瞼に左手を置き、眠るように促した。
    カミュは知っていた。記憶を取り戻してからしかわからないが、大樹が落ちて以来、彼の眠りが浅くなっていたことを。自然に眠れるのなら眠ってしまえばいい。
    「ちゃんと宴が始まる前に起こしてやるから。安心して寝ろよ」
    そう告げるカミュの手を取り、重い瞼を何とか持ち上げイレブンは口を開く。
    「カミュ、本当にありがとう。君がデルカダール城で僕を信じてくれたから、僕は勇者になれた。みんなが喜んでくれて本当にうれしいんだ」
    そういいながらイレブンの美しい瞳は瞼に隠されてゆく。
    俺の方こそ妹を・・・そう告げようとしたとき、
    「ごめんね、ベロニカ・・・」
    一筋の涙を流しながら眠りについたイレブンにカミュの声は届いていなかった。

    カミュは繋がれた手はそのままに隣のベットに横になった。宴が始まる、と起こしにに来てくれたエマが来るまで何の夢も見なかった。


    イレブンを横に置き、デルカダール王が乾杯の音頭を取り、華やかに宴は始まった。
    砦の住人がそう多いわけではない食糧をふんだんにつかってくれた料理の中には勇者の大好物のシチューもある。
    予想通り、イレブンがデルカダールの貴族に囲まれ、飲めないアルコールを勧められているところにカミュは冷静に、穏やかに割って入り、勇者様を救出した。
    「カミュありがとう、助かった・・・まだ8歳の女の子とお見合いさせられそうになった・・・」
    世界を救った勇者様に取り入ろうとする輩がもう出てきたのか、とカミュは眉根を寄せる。
    「あっちにペルラさんのシチューがあったぞ」
    「ほんと!?それは食べないと!」
    たわいもない会話をしながら食事が並ぶ方へ足を向ける。するとイレブン!と呼ぶ、カミュが聞きなれない声がした。
    イレブンは愛想よく、カミュは少し警戒しながら後ろを振り向くとアコーディオンを抱えた男性がいた。
    「おじさん!」
    「あのいたずら坊主が勇者なんてな。生き延びてみるもんだな」
    がはは、と豪快に笑いながらも彼の指先は美しい和音を奏でている。
    「今からやるの?」
    「今から準備だよ。食べ過ぎて踊れないなんてことにならないようにな」
    「それは小さい頃の話でしょ・・・楽器、無事だったんだね」
    「あぁ、こいつはな。鳴らない音もあるんだが、まぁ踊るくらいなら問題ないさ」
    「楽しみだな。その前にシチュー食べてくるね」
    また食べ過ぎるんじゃないぞ、そう笑いながら告げる男性と別れ、カミュと再び歩き始めるイレブンは先ほどとは違い、にこやかな表情を見せる。


    「何かするのか?さっきのアコーディオン」
    イレブンのおなかが落ち着いたころ、カミュは尋ねてみた。
    「あぁ、踊るんだよ。村の収穫祭で毎年踊ってたんだ」
    「なるほど。それで少年イレブンは食べ過ぎて踊れないことがあったと?」
    少し下から覗き込むカミュはニヤリと口角を上げながら揶揄う。
    「小さい頃の話だって!母さんの作るカボチャのシチューが美味しくて、たらふく食べたらおなか一杯で動けなくて、そのまま寝てたらお祭りが終わってた」
    何ともイレブンらしいエピソードを微笑ましく聞きながら少しぬるめのエールをあおる。
    「今日はさっきたっぷり寝たし、食べ過ぎないように気を付けるから大丈夫」
    今では柵や大砲など物騒なものがおかれているが、元は牧歌的な村だ。収穫祭は数少ない娯楽だったのかもしれない。


    しばらくすると先ほどのアコーディオンに加え、バウロンとフィドルの音色も聞こえてきた。ペルラ特製のシチューを左手に抱えていたイレブンははっと顔を上げ、「あ、始まるみたいだよ!カミュ行こうよ」といいながら器に残っていたシチューを流し込んだ。
    「俺はいいよ、まだエール残ってるし」
    「飲み終わったら来て!一緒に踊りたい」
    「わかった、わかった、とりあえず行って来いよ」
    器を置き、ちらちらとこちらを振り返りながら子犬のように駆けていくイレブンをカミュは見送った。
     

    それはとても美しい光景だった。 

    イシの村の者と手を取り、ステップを教わりながら踊るデルカダール兵。
    故郷の踊りだろうか、円を外れ、いつもの艶かしい踊りではない舞いをする下層で人気のあった踊り子。
    各地から難を逃れここへ集い、戦っていた人々が神々に捧げるためでもなく、誰かに披露するためでもなく、喜びを全身で表すために皆踊っている。

    カミュの目を一際引いたのは、自分の腰ほどしか背丈のない少女と踊るイレブンだった。
    身長差ももろともせず、少女に踊りを教えながら自身もくるりくるりと回り、ステップを踏む。
    戦闘中、魔物につられて踊る踊りとは似ても似つかない。
    彼がコンプレックスにしている美しい髪の毛が中央の松明に照らされ、キラキラと光りながら舞っている。

    「カミュちゃんは行かないの?」
    「カミュさまは行かれないんですか?」
    両サイドからの仲間の声に手に持っていたエールを落としそうになり、カミュは内心どれだけイレブンに見惚れていたのかと思案する。
    「イレブンちゃん、楽しそうね」
    「そうだな」
    「イレブンさまのあのような笑顔、久しぶりに見た気がします・・・」
    「そうだな」
    「カミュちゃんがいったらもっと素敵な笑顔が見られると思うけど?」
    「オレはいいよ」
    のらりくらり、踊りに行かせようとするシルビアとセーニャを躱していると、踊っていたイレブンと目が合った。
    イレブンは少女の耳元に何かを告げ、少女が頷くと、踊りに行く時と同じように、子犬のようにかけてきた。


    「みんなも踊ろうよ、そんなに難しい踊りじゃないし」
    「あら、イレブンちゃん、ありがとう。ちょっと楽器が足りないんじゃなくて?」
    「シルビアさん、よくわかるね。ピッコロ、村で一番上手だった人が亡くなったときに一緒に埋葬したらしくて・・・」
    「じゃあアタシも笛で演奏に参加していいかしら?」
    「私もハープでしたら」
    「もちろん!みんな喜ぶよ」
    まるで世直しパレードのときのように笛を吹くシルビアと、優しい音色のハープを奏でるセーニャは演奏している一角へ向かった。


    「さぁカミュ、約束!」
    「いや、オレは・・・」
    行くのを渋るカミュを膝裏に何かが当たり、咄嗟に一歩を踏み出していた。
    ───とっとと行ってきなさいッ!
    とっさに振り返ったカミュは誰もいない視界の隅に赤い帽子を見た気がした。


    互いの腰に手を置き、反対の手を繋ぐ。
    先ほどよりさらに華やかになった音楽に合わせて、イレブンは楽しそうに振付を説明しながらくるくると回る。
    何度か「右に回る」と言われお互い逆方向に行こうとしたり、ぶつかったり、そんな失敗すらイレブンは心底楽しそうに笑っている。
    「魔物に踊らされる君はとてもかっこいいけど、少しドタバタ踊る君はかわいい」
    「言ってろ、かわいい勇者様」
    焚火に照らされ赤みを帯びた髪と紫色のコートが回る度にはためき、広がる。
    「ピッコロってどんな楽器だったんだ?」
    「フルートみたいな形ですごく小さくてすごく高い音が出て、小さいから子供の手にも持ちやすくて、子供の頃に何度か吹かせてもらったこともあるんだ」
    「ケトスを呼ぶフルートの吹き方も堂に入っていたのはそれのおかげか」
    「どうだろ。マノロ、あ、今エマと踊っている男の子のね、お父さんが上手だったんだけど、大樹が落ちたときに亡くなって・・・」
    カミュの脳裏に早朝、寝る前の涙が蘇る。
    大樹が落ちたことを自分のせいだと思っているイレブン。
    旅も終わり、一緒に過ごす理由はもうない。マヤのこともある。しかし、カミュがいないところでイレブンを一人泣かせたくはない。
    どうしたものか、回りながら、ステップを踏み跳ねながら考えているとイレブンが触れていた部分が急に寂しくなった。
    「パートナーチェンジだよ、カミュ」
    ぺこりとお礼をし、顔を上げたイレブンはにこりと笑う。カミュから離れた手はエマと繋がれ、カミュの手を取ったのは満面の笑みをたたえたイレブンの養母、ペルラだった。

    「カミュさん、戸惑ってるけど大丈夫?」
    「大丈夫、大丈夫。彼は器用だから」
    繋いだ右手を中心にくるりくるりと回りながらイレブンはにこやかに踊る。

    先ほどイレブンが踊っているのを見ている時はパートナーチェンジまで見ていなかった。
    しかし、断る訳にも行かず、少し慣れたと思ったカミュの踊りは再びぎこちのないものになる。
    「カミュさん、イレブンのこと、本当にありがとうね」
    にこやかな笑顔は血のつながりはないはずなのに先ほどのイレブンとそっくりだとカミュは思った。
    「大樹が落ちて、再会出来たときはそれはもう険しい顔しててね。大変な旅だったんだろ」
    「いや、オレは何も」
    「さっきあの子がカミュさんと踊ってるの見て本当に楽しそうだった。小さい頃のイレブンみたいだったよ」
    「シチューの食べ過ぎで踊れなかった時の?」
    「あはははは!その話聞いたのかい?その時は本当に悔しそうだったけどね、毎年楽しみしていたんだよ」


    カミュは器用な男だ。
    ぎこちなかったダンスも、足と腕がダンスを覚え、イシの村の出ではない者とも踊る。
    先ほどイレブンが踊っていた少女は行き場がない、と川辺で憂いていた子だ、と踊りながら思い出した。
    「お兄ちゃん、じょうずね」
    「ありがとな」
    「さっきの髪の毛さらさらのおにいちゃんもじょうずだったよ」
    「そうか、それは本人に言ってやってくれ、きっと喜ぶよ」
    「うん、そうする」

    その後、カミュは数人と踊り、再びイレブンがパートナーとなった。
    少し揶揄ってやりたくなり、先ほどより腰に置いた手に力を入れ、手を繋いでいる方は腕をさらに伸ばす。
    「あの、カミュ、ちょっと近すぎない?」
    「そうか?この一周でオレがどれだけ上達したか、地元のやつに確認してほしくてな」
    片方の口角だけを上げ、軽快にステップを踏み、イレブンを少し引っ張るように回る。
    1週目リードしていたはずのイレブンはみるみるうつむき、赤味が差した耳が髪の毛の間から見える。
    「さっきお前が踊ってた女の子がお前のことダンスが上手だって褒めてたぜ」
    「あぁ、セーシェル?あの子、覚えるの早くてビックリした。少しでもここを気に入ってくれるといいんだけど」
    イレブンは踊り始めてから初めてちゃんと、周囲に目を向けた。
    自分を褒めてくれた少女はマノロと踊っている。まるで昔のエマと自分のように。
    マルティナとグレイグはデルカダール王と話している。父娘との間にはどのような会話がなされているのだろう。いつも凛としているマルティナが少し、幼く見える。
    ダンスの円の近くでロウおじいちゃんは砦の人々と手拍子している。
    セーニャとシルビアは才能だろうか、なんの違和感もない演奏を続けている。
    「母さんもエマも、みんな楽しそうで嬉しい」
    「お前は?」
    「僕?」
    「お前もちゃんと楽しんでるか?」
    「もちろん。器用な相棒の才能に乾杯したいぐらい」
    「それはお墨付きを貰えた記念に乾杯しないとな」

    パートナーチェンジのタイミングで2人は輪を抜けた。
    飲み物を片手に祝宴会場から少し離れた木の下に腰を下ろす。
    「では、相棒の収穫祭ダンス会得を祝って」
    「なんだよ、そのダンス」
    「分かりやすく噛み砕きました」
    「はは、わかりやすくていいけどよ。では相棒の無事の帰還を祝って」
    「あ、ずるい!カミュだって無事で良かったのに!」
    「勇者と元盗賊じゃちげーんだよ」
    「違わない!」
    「分かったよ。じゃあ勇者様のお墨付きを貰えた元盗賊のダンスに」
    「「乾杯!」」
    「はぁー、ずっと踊ってから喉カラカラだったみたい」
    「最後に飲んだの、シチューだもんな」
    「ほんとだ」
    持ってきた飲み物を早々に飲み干し、手持ち無沙汰になったイレブンは空のコップをくるりくるりと回している。

    「ウルノーガを倒して、本当はすぐにでも君をマヤちゃんのところへ送っていくかないといけないのに、一緒に過ごせて本当に楽しかった」
    「マヤのことは教会の神父様に頼んで」
    いるから大丈夫、と言い切る前にイレブンはスクリと立ち上がる。
    「さ、休憩おしまい!もうちょっと踊ったらみんなを送っていくよ」

    ラムダでの再会を約束し、その日の宴は終わった。





    「ねぇカミュ、また一緒に踊ってくれる?」
    「今度はオレから誘いに行くよ」
    「ふふ、本当かなー?僕の相棒は恥ずかしがり屋さんだからなー」
    「言ってろ」
    焚火の暖かな灯りに浮かぶ二人のシルエットがくるくると周り、飛び跳ねる。

    風の音。虫の声。パチパチと焚き火の爆ぜる音。二人の足音と話し声。音楽と呼べるようなものは何もないキャンプ。
    だが二人の中にはあの日の調子が少し狂っているフィドル、時々音が飛ぶアコーディオン、4分の2拍子を刻むバウロン、シルビアの美しい縦笛、セーニャの優しいハープの奏でる音楽が流れていた。

    勇者イレブンが再び世界を救う旅に出る前日の夜だった。
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