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    chicocco2222

    @chicocco2222

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    カミュ主。2人がホタル見に行きます。再掲。

    ホタル 2人は早めに夕食を食べ終わり外へと出た。
    カミュはどこに行くのか知らない。イレブンが昼寝から目を覚まし、シーツを取り込みながら「ホタルを見にいこう」と言ってきた。
    ホタルという昆虫のことは知っている。オスがメスへの求愛行動としておしりに近い部分を発光させる。だが実際目にしたことは無い。クレイモランはホタルが生息するには寒すぎるし、その後カミュが過ごした場所はホタルが生息するには汚れ過ぎていた。

    念の為、と持ってきていた上着は役に立った。季節が夏を迎える前とはいえ、日没後の風は少し冷える。
    イレブンはいい場所がある、とカミュの手を引きずんずんと進んでいく。
    「足元気をつけろよ」
    「わかってる。僕はここで生きてた時間の方が長いんだから大丈夫だよ」
    たわいもない会話をしながら2人は三角岩のある上流に着いた。太陽は間もなく山の向こうへと沈む。

    「こんな滝の近くにホタルはいるのか?」
    「滝の方にはあんまり居ないかも。カミュ、こっち」
    イレブンに促され滝に背を向け三角岩へと腰かける。
    その時、カミュの視界の端に鮮やかな黄色が見えた。
    すぐさま顔を向けるが見えた光は既にない。
    「あ!カミュ!あそこ!木の下!」
    カミュはイレブンの指さした方へと目線をやる。
    「ちょっと待ってね。光ったり暗くなったりするから木の下じっと見てて」
    先程見つけた時より少し抑えた声でイレブンに言われた通り、カミュは目線を動かさない。
    すると小さな光がほうっと灯った。

    知識として持っているものと、実際に目にするものでは受け取るものが全く異なる。
    カミュは光がふわりふわりと動きながらゆっくりと点滅を繰り返す様をただただ見つめていた。
    「良かったー見れて。少し早いかな、って心配だったんだ」
    安堵の声を漏らすイレブンの大きな瞳にもホタルの光が映り込んでいる。
    カミュはその美しさに見とれつつも何とか声を絞り出した。
    「‥‥綺麗だな」
    「でしょ。暗くなるともっと増えるはずだから」
    イレブンの言う通り光の数はどんどん増えていく。
    星の光とは違う、ランプや炎との光とも違う、穏やかな光に2人は囲まれている。
    「似たようなタイミングで光るんだな」
    「生息場所によって光る間隔が違うんだって。種類によっても光り方が違うってテオじーちゃんが教えてくれた」
    顔はこちらに向けずにホタルを見つめるイレブンの手をカミュはそっと握った。
    「ホ、ホタルは綺麗な水の中で夏を待ってて、成虫になったらオスだけ光って、1週間ぐらいで死んじゃうんだよ」
    イレブンは少し恥ずかしかったのか、いつもより早口にホタルの生涯を説明しつつもちゃんとカミュの手を握り返す。
    「そうか、まるでお前みたいだな。この村で過ごして、成人の儀式を済ませた後はずっと勇者として光ってた」
    「僕は死んでない!」
    「それもそうだな」
    ホタルの光が飛び交う空間には似つかわしくない、笑い声が響く。
    「まぁ勇者の責務は全うして今は元勇者様だろ?勇者としてのイレブンはもういないじゃねぇか」
    納得のいかないイレブンは握っていた手を振りほどき、近くに飛んできたホタルへと手を伸ばす。そっと手でホタルを包み込み、捕まえたホタルをカミュの前へと差し出した。
    「それならカミュだって1年も暗い地下牢に居て、僕を連れて外まで逃げて、崖の上でフードを外した瞬間からずっと、僕の隣で光ってたよ」
    大魔法使いの少女が子の場にいたなら、お互いをホタルに例えるなんてほんっとバカップルね、と呆れられていたかもしれない。しかし、彼女は今、双子の妹とラムダで元の姿に戻る方法の研究中だ。
    滝の音が響く中、顔を赤く染めた二人の意を介さず、イレブンの手の上にいたホタルは点滅を繰り返しながら手の上を移動していく。移動に合わせてホタルを地面に落としてしまわないよう、イレブンも手を動かす。
    捕まえて持って帰りたい、などという子供ではない。飛んでいくなら飛んでいけばいいと思っていた。
    そして手のひらから手の甲、手の甲から指へと移動したホタルはイレブンの左手、薬指の根元で歩みを止め、穏やかに光を灯した。

    2度、3度と光ったホタルはイレブンの手から飛び立ち、他のホタル達と空中で点滅した。
    ホタルのいなくなったイレブンの手をカミュは再び握った。旅をしていた頃ほどでは無いが剣だこや残ってしまった傷のある、分厚いイレブンの手。さっきまでホタルがいた左手の薬指をカミュの長い、節の目立つ指がするりと撫でる。
    「なぁ、相棒。指輪、買いに行かないか。2人で素材探してお前が作ってもいい。」
    イレブンは大きな瞳を更に大きく見開き、それから少し目を潤ませたかと思うと微笑んだ。
    「さっきのホタルはテオじーちゃんの生まれ変わりかもしれない。僕も何か2人の証が欲しいと思ってたんだ。ホタルになってカミュに教えにきてくれた」
    イレブンの潤んだ瞳にいくつものホタルが光を映していた。

    「グレイグのおっさんはホタル見たことあんのかなぁ」
    「どうだろ。遠目に見たら綺麗だけど近くで見たらやっぱり昆虫だしね。またマルティナの影に隠れちゃうかも」
    行きとは逆に夜目が利くカミュがイレブンの手を引き家路を辿る。
    「綺麗な景色みたらお腹すいちゃったな」
    「夕飯2回戦やるかー」
    「いいね!こないだシルビアに貰ったワインも空けちゃおう」

    明日ユグノアへ行ってロウに会い、ついでにプラチナ鉱石も取りにいく。ふしぎな鍛治台も持っていこうか。家でゆっくり作った方がいいだろうか。

    2度目の夕餉と美味しいワインを楽しみつつ、2人は明日の計画に心を躍らせた。
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