Fanatic escape 往来を闊歩する人の流れが激しくなり、数多の煌びやかなネオンで彩られる一日で一番街が活気づく時間帯。新年が明けて三が日も過ぎれば浮足立った空気に包まれた繁華街は常より行き交う人の数が増えて、高さの異なる色取り取りの頭の群れが流れていく景色が広がっている中で、人の波を挟んだ先に立つ死装束とも亡霊の衣とも言える白い特攻服に身を包んだ乾青宗と向かい合っている。
世界から切り取られたみたいに、離れていても間近に居るかにその造形のひとつひとつが際立って見える。空恐ろしさすら覚える透徹な青い瞳がゆらりと揺れて、厚みのある唇は薄く開閉し微かに震える。漏れ落ちる呼吸の形まで感じ取れた。黙って目に焼き付けていれば肩が動くのに一歩、後退るのがわかった。
胸の中で青宗とふたりだけの世界の終わりをカウントする、三のところで不意に視線が逸らされると乾青宗は踵を返して駆け出した。脇目も振らずただ逃げることだけで思考が埋め尽くされてるのか往来で客引きしてたキャッチや一般人とぶつかりながら直走る。イテェな、どこに目をつけてんだ、という怒声と驚きに跳ねる女の声に現実の中の非現実は壊され雑多な音が溢れて耳に流れ込む。
「逃げられると思ってんのか、イヌピー」
走り去り遠くなる背に届かない声を投げると、脳内が野蛮な欲で支配されていく。獲物を追い詰めて牙を突き立てろと本能が吠え血が騒ぐ。全身を駆け巡る衝動に目を閉じて一度深呼吸すると腿に力を入れて地面を強く蹴った。
この街は庭みたいなもんだ、地の利は互いにあり身体能力は同等。条件は限りなく五分五分だが絶対に逃がしてやるか。久しぶりの狩りに歓喜する心に躍らされ、白いコートの裾を追って眠らない街を疾走する。
体に刻まれた記憶に任せ目的地を定めず走る青宗は、動物的な嗅覚で道順を決めているから先回りするのはほぼ不可能だ。だからこっちで誘導してやる、植え込みを飛び込えてショートカットし右方向から近付けば足の舵を左に切る。路上脇の自転車の群れで歩道の幅が狭くなる、人波を避けて視界に捉えやすい位置にくるのに笑いを漏らせば、ブーツの踵が地面を蹴って停められた自転車のサドルを足場にガードレールに飛び移り優れたバランス感覚を見せつけた幼馴染と一瞬だけ目が合う。車道のテールランプに彩られた金髪の隙間から覗く瞳、網膜を焼くネオンよりも眩く輝いてる。無数の感情が交錯する揺れる青に猛然と記憶の映写機が滑車を回し始めた。
■□
乾青宗は自己評価の低さから自身の存在に懐疑的な部分がある。生まれつきそうだったわけではなく、火事が起きる前まではどこにでもいる子供で少しばかし他よりマイペースなところがある、そんなごく普通の少年だった。家が焼け落ち姉が全身火傷を負う重体となって日に日に彼女と揃いの雲一つない晴天のような瞳は曇りを見せた。元から感情が表に出やすいタイプではなかったが、以前にも増して胸の奥に閉じ込めてしまった。
この時一度、イヌピーは壊れている。
同級生や教師たちの腫れものに触れるような対応と、近所付き合いのあった家族からの同情の眼差し、精神は正気と狂気の境界を行ったり来たりする綱渡り状態でいつ壊れても可笑しくはなかった。それでもなんとか、重圧に押し潰されそうになりながらも踏み止まっていたが、彼女の葬儀の日にぎりぎり保たれていた均衡は崩れた。
あれは乾の母方の親戚筋の男だったと思う。焼香をあげた後に親族席に座る両親にお悔やみを告げると中年のその男は見舞われた不幸に悲しむ家族よりも悲痛な面をして青宗の肩を両手で掴んだ。そうして、お父さんとお母さんを支えるんだぞという如何にもなセリフを紡いだ。安っぽいホームドラマで散々使い回されたシーンを少し離れた位置で見ていたオレの心に浮かんだ言葉は、酔ってんじゃねぇぞクソ野郎だ。良い人間を装いたいなら街頭募金に札束を突っ込んで来ればいい、葬儀の場を利用するな、と湧きあがる不快感と怒りに歯を食いしばっていたが、青宗は違った。
まだ線が細い子供にはとても背負える言葉じゃなかった。無責任な大人の一言に追い詰められた青宗は葬儀以降、借りられた団地の一室から出ることが少なくなった。勿論、その時のことだけが原因ではないと思う。あくまできっかけに過ぎず、押し留めていたものが一気に溢れ出しただけだが、壊れる要素はあちこちにあった。
これまで身を置いていた日常が反転して別世界のようになってしまったのに心が追いついていなかった。家財道具一式を失って生活に必要な家電用品から始まり、衣服等は働く両親のが優先される。イヌピーの衣服や靴、学校で使う筆記用具の類は親戚や交流のあった家庭から寄付に近い形で譲られた。その中には背格好がほぼ変わらないオレの物もあった。それがどれだけ乾青宗にとって負荷となったか。気にしている状況ではなかったし着る物にこだわりもない方だったが、オレと会うときは母親のレディースのセットアップを身に纏っていたことからも、深く傷ついていたのは確かだ。
養護施設に居る子供たちと変わらない生活、登校しても教室ではなく保健室の住人となり、昼休み前には下校する。週に一度心療内科に通って絵を描かされた少年は次第に心を閉ざしていき学校も休みがちになった。
帰りに青宗の元を訪ねて話すこともあったが、自分の方も裏の世界の繋がりが切れず資金を集める必要がなくなったというのに犯罪代行サービスを続けていたのもあり長い時間過ごすことは出来なかった。時計に目を落とすと青宗が寂しそうな顔をしてるのが分かっていたのに、気付かないふりをして笑ってまたなと部屋を後にした。
傍に居てやりたくても自分の身を置く環境に青宗を引き摺り込む真似は出来ない。それでも緩やかに心が死んでいくのを黙って見てられなくて気分転換になる新たな刺激を与えてやろうと、その日の夜、仕事を早めに終わらせて再び団地に戻ると青宗の寝ている部屋の窓に小石を投げた。
間隔をあけて二度ほど窓を叩くと控えめな音を立てて開かれた。下に居る自分の姿を見つけると青い瞳が驚きに円くなる。
「ココ、どうしたんだこんな時間に」
唇に人差し指を当てて、声を潜めるように示せば両手で口元を抑えながら辺りをきょろきょろと見回す幼馴染に降りて来られるかとハンドサインを送る。首を縦に何度も振って頷いた青宗は窓から離れて、暫くすると靴を持って戻ってきた。投げられたミュールをキャッチして地面に置いて降りるのを待つ。身を乗り出した青宗の体を支えたとき、以前より軽くなってることに胸がつきりと痛むのを誤魔化すよう手を引いて狭い部屋から連れ出した。
「この時間は警官が見回りしてるから、こっち」
「くわしいんだな」
「補導されないための知恵だ」
この時間に繁華街を歩いたことをない青宗は、歩いては足を止めて周りを見渡した。明らかに未成年だと分かる容貌だから巡回中の警察と鉢合わせしないよう、入り組んだ道や大通りに身を紛れ込ませて夜の散歩をする。ゲームセンターは九時を過ぎると格好の補導スポットになるため入ることは出来なかったが、その分、何でも売り物にする露店商の居る通りを見せて行き交う雑多な人間の醸し出す知らない世界の空気をその身に感じさせた。
結構な時間歩いても、帰るという言葉を淡い唇が漏らすことはなかった。夜の繁華街にすっかりと馴染んだオレからすると代り映えのない景色だったが、青宗にとってはまるでおもちゃ箱をひっくり返したみたいに映るのか青い瞳がミラーボールのよう輝いていた。飽きもせずにきょろきょろと辺りを見回すのに、握った手に少し力を入れれば、そこでようやく自分の方に視線を定めるのに苦笑が零れた。
「腹、へってないか?」
「……すこし、へったかも」
タイミングを見計らったようにイヌピーの腹がくぅと鳴き声をあげるのに、ふたりで顔を見合わせて笑った。近くのコンビニでパックジュースと肉まんを買ってくれば、息をあげながら頬張った。リスの頬袋みたいに膨らむ丸みが抜けきってない頬を見つめ自分も湯気を纏うそれに齧りつく。二口半で完食し包み紙をぐしゃりと潰しゴミ箱に投げ捨てる。慌てて口を動かす幼馴染に、ゆっくりでいいとパックに挿したココアのストローを噛んで答え、食べ終わるのを待つ。手を止めてじっと見るのに、喉が渇いたのかと差し出せば噛み跡のついたストローを咥えて吸った。甘たるいココアの味がお気に召したのか、ちゅうちゅうと音を立てて飲む姿は顔に火傷がなかった頃と変わりなくて笑みが漏れた。
小腹を満たせば、そろそろ帰る頃合いだなと零すとパーカーの裾を掴んで引っ張るのにどうかしたかと伺えば、ミュールの爪先に視線を彷徨わせた。
「帰りたくない」
「また連れて来てやるって」
我儘というには控えめで可愛いものだったし可能ならば叶えてやりたかったが、クライアントと出くわす可能性を考えるとこれ以上うろつくのは危ない。青宗の存在はなんとしてでも隠しておく必要がある。弟だけは何に代えても守らないと。
「ぜったいか?」
「ああ、絶対。約束する」
微かに唇を尖らせたが、おずおずと小指を差し出してくるのに、まだまだ子供な幼馴染の白く柔らかい指にそっと自分の指を絡めて振った。
「嘘ついたら針千本だからな」
「わかってるって。ほら、行こう」
午前を回る頃に団地に送って、出て来た時と同じように青宗は窓から部屋に戻った。頬を紅潮させてバイバイと手を振るのに胸を痛ませながら手を振り返してふたりきりの日常と非日常の狭間での散歩は終わった。定期的にガス抜きに連れ出してやろうと、街灯に照らされる夜道を引き返す足取りは軽く、次に思いを馳せた心は弾んでいたというのにそんな機会はやってこなかった。皮肉なことに針を千本飲むとしたら青宗の方だったんだ。
詳しくは何があったか知らないが、幼馴染はふらりと外出した先で会った佐野真一郎の店に入り浸るようになり、そこから八代目黒龍に身を置くと黒川イザナの傍から離れなくなって、総長の座が斑目獅音に譲られるとオレの声も聞かず少年院に入所する事態になった。この時に正しく乾青宗という存在を理解した。自己肯定力の低さから他者に依存する性質が開花し、目の前の現実に対処する方法を考えることすらせずにあるがままを受け入れる。潔いように聞こえるが、その実は思考放棄して逃げているだけだ。
一年近い期間を経て出所しても、大人になりきれず破滅と隣り合わせの夢から醒めずに宛もなく自分から離れようとした。別々に過ごした時間、あの苦痛を味わわされるのは一度で十分だと傍らにあることを選んだ。取り巻く状況を悪化させない思惑もあったが、それ以上に自分の元から逃がさない目的があった。
柴大寿を頭に担いでの十代目黒龍は軌道に乗るのも早く順調に再興の道を進んでいたが、弟の柴八戒と東京卍會の繋がりが稀咲鉄太という男を呼び寄せて雲行きは怪しくなった。一目見て、この男は危険だというのを理解した。自分と同じ種類の人間だと直感が告げていたからだ。
概ね予想していた通り、秘密裏に十代目黒龍と東京卍會を合併する話を持ち掛けられた。先のことを考えれば受けるのが賢い選択だったし、これ以上ない好条件だった。それから一週間もしない内に、稀咲の描いた計画は実行されて乾青宗の夢は粉々に砕け散った。
血に濡れた聖夜から数日後、後処理などを済ませてアジトに赴けば幼馴染は着ていたダウンを脱いでデニムをボトムに履き替えるとロッカーを開きシャツを取って羽織る。ハンガーに吊るしていたカーキのオックスフォードシャツは先日少し早めのクリスマスプレゼントとして贈ったものだ。
袖口のボタンを留めようとして何度も指が滑るのに、見かねて代わりに留めてやればありがとうと聞き落としそうな声音で呟く。もう一方の手を取ると、イヌピーは顔を上げず舌を鳴らした。
「ココ、どうしたい」
ああ、またかという気持ちが湧き上がるのを呑み込む。幾度となく投げかけられる問いは最早、形骸化しつつある。イヌピー自身もオレが返す答えは変わらないことに勘付いてるのにそれでも、雁字搦めの現実から脱け出す僅かな期待に選択を与えるのをやめられない。
「イヌピーに付いてくよ」
一歩届かず乾青宗の夢の幕が下りたというのはあまりに白々しい。首輪を預けた相手が居なくなれば途方に暮れるのを分かっていながらオレが裏で幕を下ろしたんだ。
「……付き合うことねぇんだぞ」
「なんか、まるで離れて欲しいみたいな言い方だな」
「そういうわけじゃない」
助けられたという事実が青宗を縛り続けていて自分からは決して突き放せない。俯き長い睫毛が影を落とすのに喉奥に笑いを落とす。恩に着せる気はないが今更逃がしてなんかやらねぇよ。
だけど、青宗の中に渦巻く感情は溢れ出す一歩手前だ。負い目と罪悪感が表面張力を保っているが、大寿の死によって均衡が大きく崩れようとしている。そろそろ、きっと青宗はまた逃げる。
その予感は的中して真夜中の追走劇が幕を開けた。
■□
記憶に埋没していた思考が戻ってくると、青宗はガードレールを超えて路上駐車している車のボンネットを蹴るとそのまま車道を突っ切って反対側の歩道へ渡った。交通量の少ないこの時期だから出来る無茶な行いに舌打ちし、無理に追わずに並走する形で交差点まで駆けて白線を蹴る。迫る存在に迷路のよう入り組んだ地下通路に降りるのに、改札は通らないのが分かっていたから選ぶだろう出口を予想し先回りする。
「新年早々、鬼ごっこしてんのオレらくらいだぞ」
笑い混じりの不満を落としながら走り続け、光を漏らす口から現れた幼馴染との距離を一気に詰めようとすると、逃げ場が限られてきた青宗は近くの路地に飛び込むと雑居ビルを目掛けて突き進む。外階段を駆け上がって翻る白い裾を目に、積まれたビールケースを足場にして隣接するビルの非常階段の手すりを掴んで踊り場に着地すると、屋上まで続く螺旋を速度を緩めることなく上った。
破裂しそうに激しく脈打つ心臓、絶え間なく吹き出す汗の感触、荒くなる息を整えながら、吹き抜ける風の冷たさに目を細める。一歩、また一歩と費用の関係か穴が開いて壊れたまま補修されてないフェンスに近付けば、自分の居る場所より低い位置にある隣のビルの屋上に青宗の姿を捉えた。非常用出口のランプに照らされて闇に浮かぶ輪郭と無数の人工光で作られた天の川を挟んで対峙する。
「そろそろ降参したらどうだ?」
「どうやって、そこから来る気だ?」
「イヌピーがそこで待っててくれたら、すぐに行くぜ」
「もう……もう、オレのことは放っておいてくれ」
風の音に掻き消されそうになりながら叫ぶよう放たれた言葉に、本当になんにもわかってないんだなと自身の内に渦巻く仄暗い感情が牙を剥いた。
乾赤音を忘れられないのは否定しない。霊安室で見た包帯に覆われた痛ましい姿、遺影の中で穏やかに美しく微笑む姿、そのふたつの異なる姿が記憶に焼き付いていて死ぬまで忘れられやしないが、囚われてるのはお互いさまだ。
イヌピー、知らないだろう。光も射さない暗闇に覆われた世界で弱点を晒すことがどれだけのリスクか。オレの元を再び訪ねて来た黒川イザナがオマエの名前を出した時の恐怖を。斑目獅音が囮に使って警察の手を躱した怒りを。大寿に打ち負かされて膝をついた乾青宗の願いと引き替えの条件が脅しであることへの不快感を。
そして、稀咲鉄太という怪物にアキレス腱を晒してでも離れたくないオレの気持ちも、なにひとつ。
ビルとビルの間を吹き荒ぶ冬の冷たさを孕む風に唇を舐める。たったこれだけの障害でオレという存在を遠ざけられると信じている青宗に笑う。コートを脱ぎ捨てると腰を低く落とし膝のバネを最高の状態に伸ばす。
「なに、する気だ」
「迎えに行くから待ってろよ」
「は、うそだろ、やめろ、やめて」
制止の声を最後まで聞かずに後ろに下がり距離を取る。奇跡と共謀しなくても、乾青宗の運命に介入する必然が狂った選択を正当化し邪魔な理性を噛み砕くと助走をつけて大穴の開いたフェンスから夜の闇に身を躍らせた。
刹那、重力から解放されることで走馬灯のような妄想が頭をよぎる。落下し地面に叩きつけられたら着ているワインレッドのシャツが濃い紅に染まるのか。けれどそんな恐怖も、誰も触れられない深い部分に傷を残すのなら悪くない、醜悪な恍惚と高揚感に塗りつぶされていく。
時間にして十秒にも満たない空中浮遊は固いコンクリートに着地して終わりを迎えた。足に奔る衝撃を殺しきれず転がる、幸い受け身は取れたから少し休めば問題なく動けるだろうと伏せていると、慌ただしい足音と共に傍に寄って来た青宗が覆いかぶさるようにして肩を抱いた。
「ココ……ココッ、だいじょぶ、かっ」
安否を確かめる切羽詰まった声に、するりと腰に腕を回すと笑いに口を歪める。
「捕まえた」
「ばかっ、しんだら、どうすんだっ」
「死ぬと思ったか?」
「……ばか、こんな無茶して、ばか」
「あんまりバカバカ言うなよ」
頂点にまで達した緊張の糸が切れたのか手から力が抜けて、オレの胸に顔を埋める青宗を抱いて屋上に二人で寝そべる。弾む吐息を吸い込むシャツにじわじわと温かい感触が広がる。汗なのか、涙なのか分からなかったけど抱いた体が震えているから多分、両方なんだと思う。
「二度と、こんなことするな……」
「それは、イヌピー次第じゃねぇの」
「……なんでだよ。オレのことなんてどうでも」
「オマエのためなら命も惜しくない」
その言葉が呪いとなって深く突き刺さるのを知っていて口にした。ゆっくりと顔が持ち上がる、潤む青い目に笑いかければ顔が近付いてきて影が重なった。
「オレが捕まえられたってことになるのか」
「先に捕まえたのはココだ。それに、しばらく走りたくない」
「それには同感だ。明日、筋肉痛になるぞコレ」
「腿がパンパンだ」
コートを捨ててきて熱が引きつつある体が肌寒さを覚えるのに、身を擦り寄せれば青宗は離れないよう腕を腰に回してもう一度濡れた唇で体温を分け与えた。
本当のところを言えばイヌピーだって逃げられるとは思ってない、捕まえて欲しいんだ。オマエの居場所は此処だと繋ぎ留められたい。言葉には出来ないから行動でそれを示す。自分に自信が持てないで疑心暗鬼になって、これからも逃げたくなる瞬間は訪れるだろう。
怖くなったら逃げてもいい、そのたびに追いかけるから。世界の果てまで逃げようと必ずこの手で捕まえて、オレの隣に居ろよって笑ってやる。